第9話 資金調達
三時間後、俺は古びたマンションの前にいた。
棺崎に紹介された闇金の事務所までやってきたのである。
やたらと時間がかかったのは徒歩で移動してからだ。
あの地下鉄の出来事の直後に別の交通機関を利用する気にはなれなかった。
幸いにも新たな怪奇現象は起きておらず、ここまで平和な道のりだった。
マンションの階段を上がりながら、俺は通話相手の棺崎に確認する。
「あの、美夜子はもう倒したってことはないですかね」
『彼女は生きているよ……ふむ、霊に使うには不適切な表現かな。まあとにかく髪を燃やしたくらいでは消滅しないね。そんなに簡単に済むなら三百万円も請求しないさ』
「そうですか……」
解説を聞いた俺は肩を落とす。
そう都合の良い展開にはならないようだ。
なんとなく予想はしていたので驚きはなかった。
『闇金には私から連絡をしてあるが、詳しい話はしていない。あとは村木君のトーク力でなんとかしたまえ』
「さすがに三百万は無理でしょ」
『諦めてもいいが、その場合は新村美夜子さんと戦うことになる』
「そう考えると闇金の方が怖くないですね」
『所詮は人間だからね。どうにかなるさ』
話しているうちに教えてもらった部屋に辿り着いた。
俺は緊張しつつインターホンを押す。
しかし音が鳴らず、部屋の人間が出てくる気配もない。
何度か試しても同じだった。
仕方ないので扉をノックすると、アロハシャツを着たスキンヘッドの大男が顔を出す。
俺は思わず「うわ」と言ってしまった。
大男は俺を睨みながら訊く。
「電話の奴か」
「は、はい……ええっと」
「入れ」
俺は肩を掴まれて無理やり室内へと引っ張り込まれた。
すごい力だ、肩が痛い。
そのまま背中を押されて奥の部屋まで通される。
部屋の中央にはスチールデスクが置かれ、そこに金髪のスーツ姿の男がいた。
年齢は四十歳前後だろうか。
薄いサングラス越しに冷徹な目が俺を注視している。
体格はやや細めで、スキンヘッドの大男よりも背が低い。
ただし、漂う迫力は段違いに恐ろしかった。
全身から変な汗が噴き出しそうだった。
すっかり気圧されてしまった俺は彫像のように固まる。
そんな俺をしばらく観察した後、スーツの男はしゃがれた声で話を切り出した。
「面倒な話は抜きにしようや。そんでおたくはいくら欲しい?」
「貸してくれるんですか?」
「自惚れんな。そっちの諸々を聞いてからや」
男の凄みに俺は息を呑む。
そして震える身体でどうにか要件を絞り出した。
「あー、その、三百万……円でお願いできますかね」
「……本気か?」
「はい、一応」
頷いた次の瞬間、男の拳が頬にめり込んだ。




