第84話 圧倒的な力
棺崎はクドウシバマサの指をペン回しの要領で弄ぶ。
その速度がだんだんと上がっていく。
猛スピードで指を回転させながら、棺崎は飄々と語る。
「淀離協会の活動は不愉快だ。いずれ壊滅させようと思っていたので、新村美夜子さんを利用させてもらったよ」
クドウシバマサの指が弾かれて宙を舞う。
それをノールックでキャッチした棺崎は、強烈な悪意を帯びた表情をしていた。
「とある裏サイトによると、慈眼明解の首には一億五千万円の賞金が懸かっている。三つの心霊スポットにも解体報酬があった。合算すると三億円くらいかな。いやはや、大儲けできたよ」
そこまで聞いた俺は戦慄する。
棺崎は一貫して金のために動いている。
自身を生贄に使おうとした淀離協会に対しても、金儲けついでに復讐するといった感じだ。
美夜子を祓うために俺を利用し、色々と理由を付けて心霊スポットの除霊をこなし、最終的に淀離協会を潰して懸賞金を得ようとしている。
清々しいほどの守銭奴である。
様々な隠し事を持ちながらも、棺崎のスタンスはずっと変わっていなかった。
棺崎はクドウシバマサの指を突き出して慈眼に問いかける。
「さて、新村美夜子さんはどこにいるのだね」
「奥の儀式の間だ。そこで霊力を高めている。たまに霊体が逃げていたが、現在は安定しつつある」
霊体が逃げたというのは、美夜子が俺の前に現れていたタイミングだろう。
時期は不明だが、美夜子の霊は死体と共に淀離協会で管理されていたらしい。
(こいつらが逃さなければ、俺は平和に過ごせたのに……)
少し恨みを込めて慈眼を見るも、彼は自分の話に夢中のようだった。
身振り手振りを加えて熱心に喋っている。
「新村美夜子は最高傑作だ。まさか遠方の悪霊を吸収するとは思わなかった。奇跡の産物と称しても過言ではない」
興奮したせいか、慈眼のカツラが僅かにずれる。
さりげなく位置を直した後、彼は何事もなかったかのように話を再開した。
「愚かな両親に攫われた時は気が狂いそうになったが、あえて取り返さずにサンプルとして監視したのは正解だった。おかげで巫女として完成したのだからな」
棺崎は退屈そうに欠伸を洩らす。
彼女にとっては既知の情報ばかりなのだろう。
「須王会にも感謝せねばな。まさか最後に禍舞明神を献上してくれるとは……強欲で不遜なヤクザにしては気が利いている」
「自慢話はそれくらいでいいかな。そろそろ死ぬ時間だろう」
「ハッ、貴様こそ死の運命を受け入れろ。悪食の失敗作が」
慈眼が指輪だらけの両手を組む。
ただでさえ膨大な霊気が渦巻いて急速に増加し始めた。
険しい面持ちの慈眼は、怒りを込めて俺達に告げる。
「妙な人間を招き入れて奇襲したつもりのようだが、この程度の損害はいくらでも修復可能だ。全員まとめて捕らえて実験台にしてやろう」
慈眼の霊気の高まりに伴い、周りの巫女達が倒れ出した。
牢屋の中のミヨコ達も崩れ落ちて動かなくなる。
彼女達の持つ霊気が慈眼に収束しつつあった。
(これは……命を吸い取っているのか)
莫大な霊気が建物全体を震わせる。
もはや祟りビルの禍舞明神や、それを取り込んだ美夜子さえも超越していた。
霊気が神々しい光の濁流と化して室内を照らし上げている。
これが淀離協会のトップの実力なのか。
反則だ。
いくらなんでも強すぎる。
俺達はとんでもない存在の敵対してしまったのかもしれない。
後悔の念が脳裏を過ぎった時、慈眼がカッと目を見開く。
「魔術の神髄を見せてくれる……!」
「興味ないので結構です」
冷めた声の後、銃声が鳴り響く。
慈眼の頭が破裂した。




