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偏愛霊  作者: 結城 からく


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第8話 無理難題

 たくさんの人の声がする。

 沈んでいた意識が徐々に浮上し、俺はゆっくりと目を開けた。


(ここは…………)


 マスクを着けた二人の男がいる。

 それとどこかの天井も見えた。

 仰向けになった俺の身体は揺れている。

 どうやら男達によって運ばれているらしい。


 そこまで考えたところで意識が一気に目覚めた。

 俺は電車の中で美夜子の髪に襲われたのだ。

 追い詰められた末、キャンプ用品で髪を燃やして逃げたのである。

 そして頭をぶつけて気絶した。


 俺は頭を動かして周囲を見回す。

 地下鉄のホームには大勢の人々が集まっていた。

 警察と救急隊員が慌ただしく電車を行き来している。

 俺は救急隊員によって担架で運ばれる最中だった。

 隊員の一人が俺に声をかける。


「動かないでくださいね。額を切っていますから」


「すみません、もう大丈夫です!」


 跳ね起きた俺は、担架を下りて駆け出した。

 隊員が「あっ、ちょっと!」と引き止めてくるが、人混みに飛び込んで撒く。

 そのままどさくさに紛れて駅から地上へと出た。

 誰も追いかけてこないのを確認して息を吐く。


(怪我人として病院に運ばれると、抜け出すのは難しくなるからな……)


 もし警察に事情聴取をされても何を話せばいいか分からない。

 最悪、他の乗客を燃やした犯人として逮捕される可能性すらある。

 ここは強引にでも脱出しておくべきだろう。


 現在地は最寄り駅から一つ隣だった。

 見慣れた景色にホッとしつつ、俺はしばらく早足で歩き続ける。

 そのうち手に持ったままのスマホが通話中であるのに気付く。

 俺は耳に当てて話しかける。


「……もしもし」


『おお、生きていたんだね。やるじゃないか』


 棺崎は嬉しそうだった。

 その暢気そうな態度が無性に腹立つ。

 彼女は世間話のような口調で喋る。


『君、地下鉄で移動したろう。すごいニュースになっているよ。集団幻覚を引き起こした無差別殺傷事件だってさ。しばらくはこの話題で持ちきりだろうね』


「はあ……」


 集団幻覚とはあの張り巡らされた髪のことだろう。

 確かにあれは現実とは思えない。

 しかし、車内には大量の死体が残されているはずだ。

 さすがに幻覚では説明が付かないが、果たしてテレビはどう報道するのか。

 まさか霊の仕業だと明かせるはずもないが……。


 一方で棺崎は興味津々といった様子で俺に尋ねる。


『新村美夜子さんの攻撃性はどうだったかな』


「やばかったですよ……何人も捕まって殺されてました。ぐちゃぐちゃに圧縮されてボールみたいになってる人もいました」


『ふむ、なかなかの力だね。正直、ここまでの殺戮を引き起こすのは予想外だった』


「これからも似たようなことが続くんですか……?」


『おそらくそうだね。むしろ時間経過で悪化するんじゃないかな』


「そんな……」


 無情な推測に絶望が募る。

 これまでの怪奇現象は嫌がらせの範疇だったのに、今回はたくさんの死者が出てしまった。

 もはや別物と言ってもいい。

 個人でどうにかできるレベルを逸脱していた。


『霊の力は精神状態によって増減する。しかし今回はあまりにも強すぎる。嫉妬だけが原因とは思えないね』


「あの、やっぱり除霊してもらえませんか?」


 俺は素直に頼む。

 駅を出る時点で考えていたことだった。

 もう限界だ。

 死体のある山まで命がいくつあっても足りる気がしなかった。

 ところが棺崎は思わぬ答えを返してくる。


『除霊をお望みかね。じゃあ料金は三百万円だ』


「え!? 二百万円じゃないんですかっ」


『あれは最低価格さ。新村美夜子さんは白昼堂々と大勢の人間を殺傷してみせた。もはや悪霊や怨霊と呼ばれる領域だからね。料金も上乗せになるよ』


「絶対に用意するので後払いは無理ですかね……」


『断る。私が請け負うのは先払いだけだ。例外はない』


 棺崎は淡々と断言する。

 とても言い負かせる気配はなかった。

 だが、このまま一人で山へ向かうのは絶対に無理だ。

 その前に美夜子に殺されてしまう。


(どうにか三百万……いや、絶対に無理だろ。そんなの用意できるわけがない)


 俺が頭を悩ませていると、棺崎が「やれやれ」と呟いた。

 彼女は少し呆れた様子で提案する。


『仕方ないね。特別に大金を調達できる方法を教えてあげよう。そこで依頼料を工面するといい』


「な、何をすればいいんですか!」


『闇金で借りるんだよ。上手くやれば三百万くらい楽勝じゃないかな……うん、たぶんおそらくね。可能か分からないけど、まあとりあえず頑張ってみよう」


 棺崎はとても不安な言葉選びで俺を励ました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >『君、地下鉄で移動したろう。すごいニュースになっているよ。集団幻覚を引き起こした無差別殺傷事件だってさ。しばらくはこの話題で持ちきりだろうね』  という事は、この物語世界では、別に…
[良い点] むしろこんな大怨霊を300万でヤッてくれる棺崎さん優し過ぎか。
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