第64話 虚偽と反省
数時間の移動の末、俺達を乗せる車は夜の住宅街を走っていた。
どこか寂れた雰囲気の漂う住宅街は、まだ十九時だというのに消灯した家屋が多い。
田舎の地域なのであまり人がいないのだろう。
美夜子の実家は、両隣を空き地に挟まれた一軒家だった。
明かりは点いておらず、ひっそりと存在感を消して佇んでいる。
(懐かしいな)
最後に来たのは何年だったか。
美夜子にせがまれて仕方なく訪問したのだ。
やたらと歓迎されたものの、居心地が悪かったのが印象に残っている。
俺は指を差して佐奈に伝えた。
「あの家だ」
佐奈が少し手前で車を停止させた。
菓子パンを頬張る棺崎が俺を見て言う。
「君と新村美夜子さんが付き合っていた件について、詳しく話してもらえないかな」
「だから普通に恋人だっただけですって……何回言わせるんですか」
「では新村美夜子さんがストーカーだったのは嘘なのかな」
「それは……まあ、向こうがストーカーっぽい言動をする時があったので、嘘とも言い切れないというか……」
俺の反応を見た佐奈が「往生際が悪すぎ」と呟く。
延々と追及されることに苛立っていた俺は棺崎に問い返した。
「そんな執拗に訊く意味があるんですか」
「大いにある。君は依頼時点で私に嘘をついた。つまり契約違反だ。私はこの瞬間に依頼を放棄する権利があるのだよ」
「…………困ります」
「奇遇だね。私も虚偽の説明をされると困るんだ」
そう語る棺崎から怒りや不信感を感じられなかった。
まるで最初からすべて知っていたかのような様子である。
さすがにそれはないだろうが、少なくとも表面上は平然としている。
菓子パンを食べ終えた棺崎は、微笑しながら提案する。
「今後、私に嘘をつかないこと。約束できるなら仕事を継続しよう」
「……すみません、約束します」
「分かった。引き続きよろしく。それでは実家訪問と行こうか」
棺崎が颯爽と車を降りた。
まんまと言いくるめられた気がする。
ただ、俺が強気に出られないのも事実だ。
ここで棺崎まで離脱したら詰みである。
車のエンジンを止めた佐奈が振り返って言う。
「許してもらえてよかったね」
「本当にな」
「反省してるの?」
「どうだろう。ここまで叱られるとは思わなかった」
「……あんたって本物のクズね」
佐奈が心底呆れた様子でぼやく。
俺は返事をせずに棺崎の後を追いかけた。




