第62話 プランB
薄暗く不気味な診療所。
そこで闇医者の亜門は札束を数える。
それらを脇の机に積み上げると、彼は満足そうに笑った。
「おー、ちゃんと一億円あるな。偉いぞ。約束を守る奴は大好きだ」
「ありがとうございます……これで解毒剤を貰えますよね」
俺が尋ねると、亜門はニヤニヤと妙な表情を見せる。
それから大げさに肩をすくめた。
「すまんな。ありゃ嘘だ。元から毒は仕込んでない。ただの脅しだ」
「はあ……?」
「脅しって言っても、別に無償で治療したわけじゃねえからな。金を払わねえつもりなら、直々に取り立てるつもりだった。捕まえて研究材料にするためにな」
亜門が後ろの棚を一瞥する。
ホルマリン漬けの肉塊がいくつも瓶に収められていた。
たまに脈動しているのは気のせいではないだろう。
「不義理を働けば死よりも酷い目に遭う。だから俺の治療費を踏み倒す奴は滅多にいないのさ」
「……きちんと払ってよかったです」
「おう、今後も何かあったら来い。値引きはしねえが診てやるよ」
上機嫌な亜門に背中を平手で叩かれる。
力加減に遠慮がないので痛い。
少し咳き込みつつ、俺は亜門に質問をした。
「ちなみに美夜子……俺に憑いた霊って手術で取り除けないですかね」
「無理だ。低級の霊なら祓ってやれるが、お前さんのはとんでもない悪霊でな。俺の手には負えねえよ」
「そ、そうですか……」
亜門が前のめりになって俺を凝視する。
その後、彼は苦笑混じりに葉巻を吸い始めた。
「おいおい、前より進化してんじゃねえか。こいつは神格に片足突っ込んでやがるぞ」
「たぶん、禍舞明神という霊を吸収してました」
「厄介なもんに憑かれちまったな。もう手遅れだろ。誰にも止められねえよ」
亜門の言葉を聞いた俺は、部屋のソファで寛ぐ棺崎を睨む。
俺は早足で詰め寄って話しかけた。
「心霊スポットを巡って美夜子の力を削るんじゃなかったのか。あんたの出した作戦だろ」
「いやはや、参ったね。すべて逆効果になってしまった」
微笑する棺崎の胸倉を乱暴に掴む。
それでも彼女は冷静だった。
「放したまえ」
「……ふざけんなよ。美夜子がどんどん強くなってるじゃねえかッ!」
「そうだね。この結果は予想外だ。だから調べなければならない」
棺崎は俺の手を引き剥がして言う。
そして態度を崩さずに続けた。
「もはや新村美夜子さんは一般的な霊ではない。このまま死体のある山に近付くのは危険すぎる」
「じゃあどうするんだよ!」
「彼女の過去を探る。そうすれば異様な力とその対策方法が分かるかもしれない」
「…………信じていいんですね」
「最善を尽くそう」
棺崎はやはり微笑んだまま頷いた。




