第32話 取材費
テンションが落ち着いた佐奈は、掴んだままの俺に顔を寄せてくる。
目つきが鋭いので大迫力だった。
「ねえ、今回のこと取材させてよ。ちゃんと報酬は出すからさ」
「取材って、まさか俺達についてくる気か? 悪霊とかヤクザに追われてるんだけど……」
「そこ心配するなら家に来ないでよ」
「あっ、確かに……」
言われてみればそうだ。
こうしている間にも須王会の新たな追手が来るかもしれなかった。
自分のことばかり考えていたせいでそこまで頭が回らなかった。
佐奈は美夜子の霊やヤクザが怖くないのだろうか。
たぶんこの感じだと大して気にしていないのだと思う。
彼女の場合は知的好奇心や、漫画のネタになるという期待感が遥かに上回っているに違いない。
やはりとんでもない変人である。
佐奈が部屋の奥から重たそうなアタッシュケースを持ってきた。
それを俺達の前で開く。
中には札束がぎっしりと詰まっていた。
札束を手に取った佐奈は棺崎に告げる。
「一千万円よ、どうぞ。何のオプションがいいか分からないから、先払いで渡しておく形でもいい?」
「もちろん大歓迎さ。漫画家という職業は儲かるのだね」
「あたし売れっ子だから。過去作の印税だけでも暮らせるんだよ」
「それは素晴らしい。金欠の村木君とは大違いだ」
「人気漫画家と比較しないでくださいよ……」
俺は急に悲しくなるも、それ以上に安心感を覚えていた。
まさか佐奈が一千万も出してくれるとは。
これで様々なオプションアイテムを買うことができる。
道中で死ぬリスクが格段に下がったというわけだ。
俺は佐奈の手を取って感謝の気持ちを伝える。
「ごめん、助かった。この礼は必ず」
「いらない。あたしが取材したいから棺崎さんにお金を払っただけ。そもそも買ったオプションはあんたに使わせないし」
「えっ……」
「そうだ、棺崎さん! 資料用で保管してる心霊系の物品があるんですけど、本物かどうか見てくださいよ!」
佐奈が棺崎を隣の部屋へと招く。
棺崎も興味があるのか、アタッシュケースを持ってついていった。
取り残された俺は微妙な心境で部屋を見回す。
室内はあまり整理が行き届いておらず、様々な物が散らかっていた。
ゴミ屋敷とまではいかないが、客人を呼べる環境とは程遠い。
二人について行っても邪魔者扱いされそうなので、俺は部屋の掃除を始めるのだった。




