第18話 心霊巡り
「心配せずとも計画は考えてある。なるべく確実性の高い方法で新村美夜子さんを仕留めるよ。そのためにまず情報を整理しよう」
棺崎がホットドッグを齧りながら言う。
話し合いの前に買っていたのだが、よくもあの大事故の直後に食べられるものだ。
俺なんてすっかり食欲が失せているというのに。
図太い神経がないと霊能力者はやれないのかもしれない。
こちらの推察をよそに、棺崎は得意げに語る。
「新村美夜子さんの出現には条件がある。君が死体のもとへ向かう時と、第三者が君に害を及ぼそうとした時だ」
「でも自宅とかバイト先でも見ましたよ」
「その時は人が死ななかったろう。無害な出現はカウントしない。霊の行動には傾向があるが、すべてを解き明かせるわけではないからね。要点を絞って考察すべきだ」
棺崎が白衣のポケットから日本地図を取り出した。
それをテーブルに広げると、ボールペンで現在地に青い丸を付ける。
さらに別の地点に赤い丸を付けた。
そこは美夜子の死体がある場所だった。
「新村美夜子さんの出現条件を利用した作戦を考えてみた。これを見てほしい」
棺崎は三枚の星型シールを地図に貼り付ける。
いずれも現在地と美夜子の死体の間に収まっていた。
俺はそれぞれの位置関係を気にしつつ尋ねる。
「このシールは何ですか」
「心霊スポットだよ。新村美夜子さんの死体に向かう途中で寄れる場所を見繕ってみた」
心霊スポットだと。
聞き捨てならない言葉に俺が口を挟む前に、棺崎は現在地と死体の地点を直線で結ぶ。
確かに三つの心霊スポットは経由できる位置にあった。
ペンを置いた棺崎は端的に宣言する。
「今から我々は心霊スポットの霊に会う。そこで君がピンチに陥れば、新村美夜子さんが現れるだろう。彼女は現地の霊と殺し合うはずだ」
「えっ……、いや、あの……正気ですか?」
「霊を殺すのは人間の狂気さ。楽しい心霊スポット巡りで新村美夜子さんを殺そうじゃないか」
その時、背後から「あの、すみません」と声がした。
振り向くと黒スーツの男が立っている。
二十代でも三十代でも四十代でも通じる顔立ちで、何を考えているか分からない無表情だ。
怪我でもしているのか、左腕はギプスで吊られている。
男は右腕をスーツに手を差し込んで何かを取り出す。
「少しお話を伺ってもいいですか」
俺達の前に掲げられたのは警察手帳だった。