第16話 集団火葬
俺は死体を運転席から引き剥がそうとする。
しかし、アクセルに固定された脚に髪が巻き付いて離れない。
俺は躊躇しつつ、強引に死体の上へと座った。
尻が血で濡れるが気にしていられない。
俺はハンドルを握り、美夜子の手に包まれたブレーキを思い切り踏み付ける。
びくともしない。
舌打ちしながら何度も踏んでいると、棺崎が面白そうに注意してきた。
「レディの手は丁重に扱いたまえ。嫌われてしまうよ」
「ちょっと黙っといてくださいよ!?」
振り向いて怒鳴ると、棺崎が無言で前を指差す。
横転した車がぶつかりそうになっていた。
大声を上げた俺は全力でハンドルを回して回避を試みる。
接触でサイドミラーが吹き飛んだものの、紙一重で激突を免れた。
少し先に高速道路の出口がある。
なんとか向かおうとするが、車線切り替えが間に合わずに通過してしまった。
俺はハンドルを叩いて悔しがる。
「くそ、どうしたら……!」
思考を巡らせる中、前方の光景に凍りつく。
そこには料金所が並んでいた。
大量の車が積み重なり、次々と激突しまくって大炎上している。
悲鳴が掻き消されるほどの轟音が連鎖し、地獄そのものの状況を生み出していた。
俺達の乗るタクシーは、猛スピードでそこに突っ込もうとしている。
「このままだとヤバいですよ! なんとかしてください!」
「君はオプションを買っただろう。もう忘れたのかね」
「そうだ、塩!」
指摘された俺は塩を入れた袋を破り、アクセルとブレーキにありったけ撒いた。
清めの効果か、美夜子の髪と手が緩む。
その隙を逃さず、俺は全力でブレーキを踏む。
甲高い音を鳴らしてタクシーがスピンし、横転しかけながらもどうにか停止する。
料金所の数メートル手前だった。
汗だくの俺はぐったりと脱力する。
「危なかった……」
安堵しかけた俺はカーナビの画面を見る。
砂嵐に紛れて真顔の美夜子が映っていた。
嫌な予感がして後方を確かめる。
大型トラックが迫っていた。
タクシーに丸太を落としてきたあの車両だ。
トラックはボンネットから火を噴きながら突進してくる。
俺は震える手でドアに手をかけるが開かない。
迫るトラックを見て思わずドアを殴った。
「おい、嘘だろふざけんな!」
「私がやろう」
棺崎がドアに触れると鍵の開く音がした。
俺と棺崎は車外へ飛び出した。
その直後、トラックがタクシーに激突して料金所に押し込んだ。
肌の焼けるような大爆発と共に黒煙が巻き上がる。
俺達が道路の端に退避した後も、車が料金所に飛び込んで被害を拡大させていく。
呆然と眺める俺に対し、棺崎はやはり冷静だった。
「間一髪だったね。危うく集団火葬に巻き込まれるところだった」
「俺達が巻き込んだんですよね」
「いや、違う。巻き込んだのは君だけさ。私は関係ない」
「…………」
辛辣な言葉に何も言い返せなかった。