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第15話 ドライブ

 恐る恐る顔を上げると、タクシーが運転席から後ろまでぐちゃくちゃに潰れていた。

 あちこちに血が飛んで赤黒く染まっている。

 エンジンは止まっていないので車体だけ破損したようだ。


 丸太が直撃した運転手は上半身が無くなっていた。

 断面から血が湧き出す様を見て、俺は反射的に嘔吐する。

 その横で棺崎は冷静に分析をしていた。


「いやはや、過激な挨拶だね」


「こ、これも美夜子の仕業なんですか……?」


「うん、彼女の霊力を感じたよ」


「ハチマキを着けていたら認識されないって言ったじゃないですか!」


「正確には認識されづらくなる、だね。タクシーに乗った時点で捕捉していたのだろう」


 俺達が言い争っている間に、周囲の車から人が降りてきた。

 彼らは心配そうにこちらを見ている。

 スマホで救急車を呼ぶ人もいた。


 その時、俺達の乗るタクシーが勝手に急発進した。

 唐突な揺れに俺は顔を打つ。


「うおっ」


 渋滞にも構わず、タクシーは他の車にぶつかりながら無理やり進もうとする。

 様子を窺う人々はぎょっとして、しきりに「止まれ!」と叫んでくる。

 唸るエンジン音を聞いた俺は焦る。


「いやいや! 俺達は何も触ってないのに……」


 運転手の死体がアクセルを踏んでいるのだろうか。

 そう考えた俺は前の座席に身を乗り出して確認する。


 予想は半分正しかった。

 運転手の片足がアクセルをしっかりと踏み込んでいる。

 ただし靴の辺りに髪の毛が絡み、それが位置を固定しているようだ。


 髪の毛を見た棺崎は微笑む。


「ほう、環境を利用してくるか。なかなか賢いね」


「感心している場合じゃ――」


 周囲の車が一斉に急発進した。

 俺達のタクシーのように勝手に走り出し、外にいた人々も容赦なく轢いていく。

 ガードレールや壁に擦ってもお構いなしだ。

 すべての車が無理やり動いたことで渋滞が解消し、だんだんと加速し始めた。


「付近の車を同時並行で操っているのか。大した霊力だ」


「だから感心している場合じゃないんですって!」


 俺達を乗せたタクシーは周囲の車と競うように走行する。

 ぶつかり合ってスピードを上げる様子はさながらレースゲームのようだった。

 もちろん笑い事ではない。

 一部の車は大きな事故を起こして中の人間ごと大破していた。


 俺は大急ぎで助手席へと移動した。

 このまま放っておくと取り返しが付かなくなると思ったのである。


(やばいやばい。死ぬ、マジで死ぬって!)


 血の付いたハンドルを握る。

 異様に重たくなっているが、それでもなんとか動かすことができた。

 アクセルに固定された足は剥がせない。

 そしてブレーキは青白い女の手に包まれて触れることすらできなかった。

 美夜子の手だ。

 タクシーを止める気はないらしい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] もうお前は人のいるところに出てくるな。山奥を拠点にしろ。そこから棺崎をパシらせて遺体を探せばまだ犠牲は減るかも。金かかりそうだけど
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