第14話 手痛い出費
結局、俺はいくつかのオプションアイテムを購入した。
金は十分に余っているし、これらの有無が命に関わるなら出し惜しみなどしていられない。
美夜子の力がどれほど凄まじいのかは地下鉄と闇金の一件で痛感している。
対抗策が多いに越したことはないだろう。
まず最初に買ったのは、難しい文字が書かれたハチマキだ。
これを着けていると霊から認識されづらくなるらしい。
とりあえず肌身離さず巻いておくことにした。
ポケットには清めの塩を入れてある。
霊が嫌がる成分が配合されており、投げつけるのが良いそうだ。
ただし、霊を祓えるほどの効力はないので過信は厳禁だと説明された。
身代わりの人形は紐で首から提げている。
棺崎によると、霊の干渉をこの人形が受け止めてくれるのだという。
もっとも、強力な攻撃が来たら長持ちしないらしい。
最後が結界を作る札だ。
四枚で一セットで、それぞれを東西南北の位置関係に貼ることで効果を発揮する。
結界の内側に霊が入ってこないようにする効果があるそうだ。
とりあえず身を守れそうなアイテムを中心に揃えてみた。
合計金額は三百九十八万円。
手持ちで買える分はすべて確保した。
他にもオプションはあったが、高額すぎて手が出せなかった。
何百万もするアイテムなんて買えるわけがない。
それでも最善策は打てたと言えよう。
棺崎は「まいどあり」と言って札束を仕舞うと、嬉しそうに笑みを深める。
「さらにオプションを付けたくなったら遠慮なく言いたまえ」
「もうお金が無いんですよ……」
「それなら稼げばいい。君は短時間で大儲けするのが得意みたいだからね」
どことなく含みを持たせた言い方だった。
また同じような調達方法をやれと言いたいのだろうか。
棺崎の態度を見た俺は釈然としない気持ちになる。
(なんか楽しんでいる感じがするんだよな……)
俺がオプションの購入をしている間に、高速道路はすっかり渋滞していた。
反対車線はまったく混んでおらず、快適そうに走っている。
ラジオを聞いていたタクシーの運転手は、申し訳なさそうに言う。
「お客さん、すみません。この先で事故が起きたみたいで。しばらく動かなさそうです」
「下道に移動できませんか?」
「インターチェンジは事故現場の向こう側にあるそうです」
隣に座る棺崎が「おや」と呟いた。
反対車線を大型トラックが通り過ぎるところだった。
トラックの荷台から一本の丸太が落下する。
不自然にバウンドしたそれは、まっすぐこちらに飛んできた。
「えっ」
棺崎が俺の頭を掴んで下げる。
その瞬間、丸太がタクシーのフロントガラスをぶち破ってきた。
丸太は運転手の上半身を粉砕すると、そのまま車体後部まで貫通していった。