第13話 オプション
俺と棺崎は駅前周辺を歩く。
地下鉄の事故のせいか、あちこちにパトカーや救急車が停まっていた。
改札前には、電車が使えないことに文句を言う人間が集まっている。
もし何が起こったのかを知れば、気味悪がってすぐに逃げ出すことだろう。
棺崎についていく俺は彼女に尋ねる。
「これからどうやって移動するんですか?」
「最短で向かうなら新幹線だが、襲撃された時に逃げ場がない。電車もさっきの惨劇の繰り返しになってしまう。そうなると選択肢は限られてくるね」
ロータリーで足を止めた棺崎は手を挙げる。
減速したタクシーが俺達の前で停まって自動でドアを開けた。
さっそく乗り込んだ棺崎は、目的地として隣の県の田舎町を告げる。
美夜子の死体がある山とは明らかに違う場所だった。
棺崎の隣に座った俺は首を傾げる。
(何か理由があるのか?)
考えている間にタクシーは出発した。
数分ほどで高速道路に入って快適に進む。
このペースなら目的地までは一時間もかからないだろう。
俺は車外の景色を眺めつつ棺崎に問う。
「タクシーなら……その、大丈夫なんですかね」
「どうだろう。小回りが利く分、安全性は高いと思うよ。まあそれでも被害が出る可能性は高いかな」
「全然大丈夫じゃないですね……」
運転手が少し眉を曲げた。
俺達の不穏な会話が気になったらしい。
何か訊きたそうだが、首を突っ込んでくるような真似はしない。
代わりにさりげなくラジオの音量を下げていた。
その後はしばらく無言が続いた。
タクシーが車線変更したタイミングで唐突に棺崎が提案する。
「ところでオプションを付ける気はないかね」
「オプション……ですか」
「君のために色々なアイテムを用意したんだ。清めの塩とか、霊障を肩代わりする人形とか、簡易結界を張る札とかね」
棺崎が白衣の内側から数種類の物を見せてくる。
彼女曰く、どれも霊的な効果があるアイテムだという。
どう見ても胡散臭いが本物なのだろう。
袋入りの塩を振った棺崎は得意げに微笑む。
「一つ買うごとに君の生存率が上がるよ」
「ちなみに無料じゃないですよね」
「もちろん。基本料金の三百万に上乗せしてもらう形だね。いくつか紹介してあげよう」
そこから棺崎のセールスが始まった。
彼女の用意したオプションアイテムの最低価格は五十万円。
さらにほぼすべてが使い捨てであった。
「オプションを付けない場合ってどうなりますか?」
「基本料金内の装備で対処することになる。私は全力で仕事にあたるが、君の安全は保障できない。そもそも依頼内容に護衛は含まれていないからね」
「つまり死にたくなければオプションアイテムで身を守れ、と」
「察しが良いね。手間が省けて助かるよ」
悪霊対峙の相場は知らないが、最初からオプションで儲ける前提の価格設定なのだろう。
つまり棺崎は三百万以上を毟り取るつもりで俺と合流したわけだ。
そう考えると、急に守銭奴に見えてきた。
運転手が心配そうにチラチラとこちらを覗いている。
俺は「さっき観た映画の話なので気にしないでください」と言った。