第12話 雇い直し
夕方の混み始めたファミレス。
俺は札束を入れたビニール袋をテーブルに置いた。
それを向かいに座る棺崎へと差し出す。
「三百万円あります。数えてください」
棺崎はポテトを頬張りながら札束を手に取った。
そして周りの目も気にせずに数え始める。
札束に塩と油とケチャップが付いているがお構いなしだった。
「闇金の人達も優しいね。よく分からない学生にこんな大金を貸してくれるなんて」
「貸してもらえませんでしたよ。だから盗みました」
「ほう、それは物騒な話だね」
棺崎はわざとらしく驚いてみせる。
あの時、ずっと通話を繋げていたので彼女は経緯は知っているはずだ。
たぶんジョークのつもりなのだろうが、まったく笑えなかった。
俺は足元に置いた鞄を一瞥する。
中には札束と拳銃とシャベルが詰め込まれていた。
金に至っては棺崎に渡したのにまだ四百万円ほど残っている。
我ながら酷いラインナップである。
ここで職質されたら一発でアウトだろう。
当たり前だった日常からかけ離れてしまった気がする。
ため息を洩らした俺は小声で棺崎に尋ねる。
「あの……こうなるって最初から分かってましたよね」
「何がだね」
「美夜子が闇金を殺すことです」
「さあ、どうだろう。ただストーカーという性質から新村美夜子さんが君を助ける可能性は想定していたかな」
つまりすべて予想通りというわけだ。
俺が責める前に、棺崎は見透かした様子で微笑する。
「別に細かいことはいいじゃないか。互いに損をしていないのだから」
「…………」
闇金の命を勘定に入れていない口ぶりだった。
しかし、それは俺も同じだ。
自分の都合で彼らを死なせた挙句、金と銃を奪って逃げたのだから。
殴られた頬がずきずきと痛む。
舌で確かめると、歯はやっぱりぐらついていた。
ポテトを食べ終えた棺崎は、札束をビニール袋に戻して言う。
「さて、本題に入ろうか。君が三百万円を支払った以上、私は全力で新村美夜子さんの霊を殺すよ」
「どうやって、その……殺すんですか?」
「罠を張って仕留める。それが最も確実だ」
棺崎の目が怪しく光る。
どことなく楽しんでいるように見えるのは気のせいか。
「別に罠が失敗して取り逃がしてもいいんだ。一度目で抹殺できなかったら、次の襲撃を待つだけさ。ダメージは蓄積するからいずれ倒せる」
「そんな簡単にいきますかね……」
「削り切れなかったら死体を燃やす。もちろん罠だけで片付くのが一番だがね」
コップの水を飲み干した棺崎は席を立った。
彼女はテーブルを指でコツコツと叩く。
「とりあえず死体を目指す方針は変わらない。具体的な計画は後で説明するから移動を開始しよう」
「お、お願いします」
「そうそう、ここの会計は君の奢りでよろしく」
「えっ」
棺崎は俺に伝票を押し付けて颯爽と店を出る。
俺は闇金の一万円札でポテト代を支払った。