表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偏愛霊  作者: 結城 からく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/93

第11話 欲の代償

 絶望なんて一瞬で消し飛んだ。

 俺は泣き叫びながら立ち上がる。


「うわああああああぁっ」


 美夜子だ。

 やっぱり生きていたんだ。

 でも、幽霊は元から死んでいるので表現としてはおかしいのか。

 いや何を考えているんだ、そんなことはどうでもいい。


 俺はなりふり構わず逃げ出そうとする。

 ところがスーツの男に手首を掴まれてしまった。

 男は加虐的な笑みを浮かべて言う。


「逃げんなよ。いきなりどうしたんだ」


「うるせえッ!」


 俺はスーツの男の脇腹を蹴り飛ばす。

 怯んだ隙に掴んでくる手を振り払い、全力で部屋の外へと向かう。

 しかし、立ちはだかる大男に突き飛ばされて壁に激突した。

 倒れた拍子に隙間を確認すると、美夜子はいなくなっていた。


(どこに行ったんだ……?)


 疑問を解消する間もなく、スーツの男が俺の首に片膝を乗せてきた。

 そのままゆっくりと体重をかけてくる。

 俺は呼吸ができなくなって足をばたつかせるが、苦しみは増す一方だった。


「痛えじゃねえか……ガキが調子に乗りやがって」


 静かに激怒する男はサングラスを外す。

 そして絞り出すように宣言した。


「気が変わった。お前はバラバラにして売り捌いてやる。血液の一滴まで無駄にしねえからな。覚悟としけよ」


「あ……うぁ……」


「なあ、須王会って知ってるか。あの人らに任せれば死体の換金なんて――」


 男が喋る途中、トイレの流れる音がした。

 ゴボゴボと絶え間なく鳴っている。

 何かが詰まっているような音も混ざっていた。

 男達は怪訝そうに顔を見合わせる。


「兄貴……」


「ちょっと見てこい」


「うっす」


 大男がトイレへと向かう。

 扉を開けた瞬間、中から赤い水が溢れ出した。

 それと一緒に濡れた髪が伸びて大男を引っ張り込む。

 トイレからくぐもった悲鳴が響いてきた。

 何かが砕けて裂ける音がしたかと思えば、それきり水の音しか聞こえなくなる。


 静寂の中、スーツの男が呼びかける。


「タケ……? おいタケッ!」


 反応はない。

 トイレ前の床が赤い水でびしょびしょになっている。

 その光景に何を思ったのか、男が俺の頭を殴ってきた。


「クソが! てめえの差し金か!?」


「違います! すみません! ごめんなさいっ」


 俺は謝ることしかできなかった。

 そのうち男は苛立った様子でデスクの引き出しを開けると、無骨な自動拳銃を掴み取った。

 たぶんモデルガンとかではなく本物だろう。


「ぶち殺してやる」


 そう言って男は慎重にトイレへと近付いていく。

 中を覗いた男は大声で喚きながら発砲した。

 その首に髪が巻き付いて頭を真後ろまでねじ曲げる。

 さらに男の全身に髪が絡み付いてトイレに消えてしまった。

 最後に拳銃だけが廊下に放り出されて扉が閉まる。

 いつまで経っても二人は戻ってこなかった。


 呆然としていた俺は、震える足腰でなんとか動き出す。


「にっ、にににに逃げないと……」


 デスクの上には札束が置かれていた。

 金庫も開いたままだ。

 おそらくすぐに札束を戻すつもりだったに違いない。


 俺はありったけの金を鞄に詰め込んだ。

 トイレを見ないように廊下を走り抜け、拳銃だけ拾って外に飛び出す。

 それから振り返らずにマンションの敷地を抜けた。


 しばらく走り続けた後、拳銃の引き金に千切れた人差し指がくっついていることに気付く。

 俺は情けない声を上げながら指を剥がして捨てた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ……ほほぅ。そうやって、カネを手にいれたか。w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ