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○○○○

この話を飛ばして後の話を投稿してしまったので割り込み投稿です。

思い返すと私は何をしているんだろう、という気になってしまうので、あまり今日の事は思い出したくなくなるだろうという予感が香利奈にはあった。


「なんでサングラス付けてないの!?」

「なんでサングラスを付けてるの?」

「尾行といえばサングラスだって……」

「逆に目立つと思うんだけど」


香利奈の前に現れた安澄は、ブランドものではなさそうな、作りが安っぽく見えるサングラスを掛けていた。


香利奈が今朝見た天気予報によれば今日の天気は晴れ。曇りの予定はない。


太陽が眩しい日ではある為、サングラスがあると眩しさが軽減されはするだろうが、怪しさは増加傾向にあった。


「でも、サングラス付けないとバレちゃうかもしれないし」

「服とか髪型とか、もっと気にするところあるでしょ」

「でも、いつもと違う格好して、全く気づかれなかったら寂しいし……」

「ああんもう、どっちつかず!」

「ごめんね。でも、香利奈ならわかってくれるよね?」


香利奈にはわからないし、わかりたくもなかった。

香利奈は秋の空模様と人の心を喩えた有名な句を思い出したが、空模様の方がまだ理解出来る気がした。


空は晴れていたら晴れだし、雨だったら雨だ。天気雨なんてものもあるけれど、天気は晴れたいとか雨を降らしたいとか、そんな事を考えない。あくまでも現象だから。


「まあ、いいや。もう」


香利奈は深く考える事を辞めた。

安澄の格好で尾行が台無しになれば早く帰れると考えたからだ。


なんといっても、これから向かうのは浮気現場かもしれないのだ。そんな修羅場へ好き好んで向かいたくはない。


「良かった。あ、大路くん。香利奈!行こう!」


安澄の彼氏、大路が住む一軒家。その近くの電柱から二人はようやく動き出した。


まさか尾行されるとは考えていなかったのか、警戒心のない大路に気付かれる事なく、二人はデートの待ち合わせスポットと思われるところへ到着し、次の動きを待っていたのだった。


「あ、解散した!」

「解散したみたいね」


大路と伊認の男子二人でいたところに、後から一人の女子が混ざった。

会話の内容はわからなかったが、香利奈と安澄からは三人は楽しげに見えていた。


そんな様子が続き、一体いつになったら大路のデートは始まるのかと、香利奈がやきもきし始めたところで、三人は分かれたのだった。

しかし、その分かれ方には違和感があった。


「安澄の彼氏は1人みたい。って事は、浮気っていうのは勘違いだったんじゃない?」

「いや、きっとあれは、ギソーコーサクってやつだよ。そうに違いないって」


安澄が発したぎこちない単語に、香利奈はワンテンポ遅れて偽装工作の事だと気づく。


もし本当にそうだとしたら、それに付き合わされているイミト君は可哀想な立場だ。その点は気が合うかもしれない。などと伊認に軽く同情もした。


「私は大路くんを追い掛けるから、香利奈はあの2人を追いかけてね!」

「え?私たちも解散じゃ駄目なの?」

「だって、浮気してない証拠も必要だもん。あの2人がラブラブだったら、私も大路君のことは勘違いだったってわかるから」


どうして私が全く見ず知らずのカップルの尾行なんてしないといけないのか。

そう香利奈は思ったが口からも出ていた。


「どうして私が全く見ず知らずのカップルの尾行なんてしないといけないの」


しまった。と香利奈は思ったが、その言葉は一度胸にしまったし、懐にもしまってしまったので、もうしまう場所が無かった。


安澄が肩を震わせる。香利奈は糾弾されるのかと覚悟すると、安澄が叫んだ。


「こんな事が頼めるの、香利奈だけだからだよ!」


香利奈は初めこそ答えを意外に思ったが、やがて得心がいく。


ああ、そうか。普通に考えたら、彼氏に浮気をされているかもしれないなんて事、簡単に相談できるものではないのか。


彼女は不安で、怒り、悲しんでいて、その感情の吐き出し先に、受け止めてもらう先に、わたしを選んだんだ。


香利奈はその結論に辿り着き、もう少しだけ安澄に付き合ってあげても良いかと思い直した。


「私だからやってあげるけど、今日だけだからね」

「ごめんね。ありがとう香利奈!じゃあ、お互い頑張ろうね」


安澄はサングラスを少しずらし、目元を指で拭うと、小走りに彼氏を追って行く。


香利奈も少し重い足取りでデート中の2人を追う事にした。


その一方で、香利奈は前向きに考えてもみる。

ただ、視点を変えてみれば、良い事もある。何故なら、今日でこの話が片付くはずだからだ。


仮に偽装工作だったとして、安澄の彼氏は今日を1人で過ごすだろうし、イミト君はきちんと匂わせ相手と過ごす事だろう。何が彼をそうさせるのかは知らないけど。


後は私がイミトくんと匂わせの相手がラブラブだったと安澄に伝えれば丸く収まる。治らないのは私の腹の虫くらいだ。


香利奈は安澄の走って行った方角を睨みつける。


あの男は、どうして安澄という彼女がいるのに、浮気なんかしているのか。

あ、駄目だ。そう考えてしまったら、本当に浮気ではない事がわからないと、私が納得できない。


香利奈は自分の頬を軽く叩いて、伊認たちへ視線を向ける。


香利奈から少し離れた視界の中では、亜夢莉が手を差し出すも、伊認が握るのを固辞するところだった。


お願いだから、心の底からのお願いだから、本当に2人がカップルでいて欲しい。

その望みが期待できない光景を前に、香利奈は青を隠す雲が一つもない空を祈る様に仰いだ。


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