表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

不定期更新ですが短くまとめる予定です。

2024年中の完結を目指します。

春の陽気だとかいうのは、インターネットでは感じられない。SNSを眺めていても、今日は良い陽気だなんて言葉を見る事はないし、沢山の情報が毎日流れているだけだ。


面白さを勘違いした人間や、あまり歓迎されない欲望が垂れ流されている空間に比べたら、季節を勘違いする事はなく、青い絵の具を垂れ流した様な空を眺めている方が、よほど健康的だと言えるんじゃないだろうか。


御園香利奈は、必死な様子の友人を前にして、そんな事を考えていた。


「ねえ、香利奈、聞いてる?」

「ごめん。聞いてなかった」

「ショージキモノ!」

「正直者は悪い事じゃないよ」

「間違えた。ハクジョーモノ! 友達の悩みくらいちゃんと聞いてよ!」

「ちゃんとした悩みなら聞いたけど。……真面目に答えたら、別れろって話じゃない?」

「まだ浮気かわかんないもん」


香利奈が友人である安澄真琴から聞かされたのは、彼氏がSNSで匂わせをしているという話だった。それだけなら惚気かと思うが、問題はその相手が安澄ではないことだった。外にはこんなにも素晴らしい陽気が広がっているのに、なんともしょうもない話だと香利奈は思った。


「疑わしきは罰せよ。はないちもんめ」

「そんな物騒な歌詞だっけ?」

「人買いの歌って聞いた事があるから、そんな歌詞もあるかもよ」

「適当じゃん! ……香利奈は、彼氏がいた事ないから、私の苦しみがわかんないんだよ」


香利奈は顔を伏せ、表情を曇らせた。

そんな事を言われてしまっては、空の様に心の広いわたしでも流石に文句が出てしまう。

と、彼女が表面上は隠そうとした感情が、形を変えて言葉にも滲み出た。


「じゃあ、理解できないわたしに相談する事が間違ってるんじゃない?」

「あ、そうじゃない!そうじゃないの! 喧嘩がしたい訳じゃなくて。……ごめんね?」


安澄は目を伏せて、頭を下げた。

何かを悪いと思ったら、すぐに謝るのが彼女の良いところだと香利奈は考えている。

香利奈と安澄の関係が続いている1番の理由でもあるだろう。

しかしながら、現在進行形で香利奈の心に去来した感情は、目の前の友人に向けられたものではなかった。


「顔も知らない男に、友達との絆を裂かれるのはムカついてきた」

「あ、顔だったら、こんな感じだよ!」


香利奈の苛立ちを無視して、安澄が差し出したスマホには、画角の右下3分の1程を男子の顔とピースで占めている画像が表示されていた。

香利奈は覗き込むようにして、写真を観察した。

どこかの食べ物屋さんだろうか。ファミレスの様だ。卓上には大きなパフェと、皿が一つ置かれている。

そんな背景の前に、首を振り向きカメラ目線にピースをしている男子の顔が写っている。インカメラでの、いわゆる自撮りに見えた。


「パフェを食べにきたおひとり様って感じ」

「違うの!ほら、写真の上の方!ここ!」


香利奈が素直な感想を示すと、安澄は写真をピンチアウトで拡大する。そして、画像が見切れるか見切れないかという上部を指し示した。


「机の上に、指が乗ってるでしょ?」

「なんてこと。心霊写真だわ」

「ちがーう!これが匂わせなの!わたしはこの店に行った事ない!」

「ふーん」


画像の上部、つまりは自撮りをしている男子の向かい側。確かに卓上には指が乗っている。

人差し指と、中指。ピースをテーブルに乗せている様に見受けられる。

香利奈はカタツムリの頭部みたいだと思った。


「友達じゃない?」

「この指、細いから男子じゃないと思う」

「細身の男子も珍しくないでしょ」

「男子の友達だったら、運動部のはずだもん。指は太いはず!」

「偏見じゃない?それ。マネージャーとかは?」

「聞いたけど違うって」

「そこまで聞いたなら本人に聞きなさいよ」

「マネージャーは友達なの!」


見知った人間以外に話を聞いたのなら変なところで行動力がある、と香利奈は思ったが、友達だから聞けただけだったと理解して納得する。

でも、その友達が嘘を吐いていて、本当は匂わせ相手がその子だったら、修羅場になる展開しか想像できないな。

香利奈は一度、晴れ渡る空を眺め、忌々しげな表情を浮かべた。


「わたしは地獄に巻き込まれたくない」

「大丈夫だよ。浮気じゃないってわかったら天国だから!」

「安澄はね。……でも、そうね」


安澄がこんな状態のままだと、きっと暫くはわたしに構ってくるだろうな。わたしだって、別に一人きりが好きというわけでもないから、構われる事は良いけど、こういう形のものは望んでいない。

でも、まあ、困ってるからわたしに相談したんだろうし。

香利奈は安澄に対する己の甘さを認識しつつ、溜め息を吐いた。


「他に友達もいるのに、どうしてわたしに相談したの?」

「へ?彼氏が知らないわたしの友達が、香利奈しかいないから」

「……はあ。安澄はそういう子よね」

「え?な、なんかごめんね?」


別に親友だから、とか、頼れる相手がわたししかいないから、という言葉を期待したわけではない。ないけど、消去法的に選ばれたのは気に入らない。

香利奈は心の中で言い訳の様に呟いた。そして、なんとか自身を納得させようとする。

ただ、それで苛立つのも大人気ないし、そもそも苛立ちは浮気をした彼氏とやらにぶつけるべきだ。うん、そうだろう。


「もう、安澄の彼氏に直接聞いてくる。それが一番手っ取り早いよ」

「素直に本当の事を言ってくれるかなぁ」

「言ってくれなかったら、その時点でアウトでしょ」

「確かに!」


わたしとしては、他人の修羅場に巻き込まれるとかいう、地獄な状況にさえ巻き込まれなければそれでいい。

そして、安澄には、さっさとこの問題を片付けて欲しい。

香利奈は空に目を向けたがすぐに逸らし、スマホを取り出して数秒ほど睨み合うと、また一つ溜め息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ