優希の大冒険 6
ようやく本陣まで帰ってくると、優希は膝から崩れ落ちた。それも当然だ。死も覚悟して異世界ワープしたところを、未知の生物がいきなり群れで襲ってきて死にそうだったのだ。そんな疲れ果てている優希にケイが声をかける。
「君、ありがとう。兵達の命を救ってくれて。俺の言葉は・・分かるかい?」
優希の困った顔を見て再びケイは顔を曇らせる。
「そうか相当強いショックを受けて・・・大丈夫だ、ここにいればもう大丈夫だからな。君を魔法治療士のところに連れて行ってあげるから。そこで精神を安定させる魔法を受ければ症状は改善するだろう」
優希はケイに連れられ、ローブを着た者達がいる天幕に入った。
「サラ、この女性を治療してくれ。相当強いショックを受けていて言葉を理解出来なくなっててな、あと喋っても何を言ってるか分からない状態なんだ」
「何てこと!」
サラと呼ばれた女性は優希を優しく抱きしめる。
「さあ、大丈夫だからこっちにきて」
サラは優希をベッドに寝かせる。
「力を抜いてゆっくりして。今からあなたに魔法を掛けるわ。水の大精霊アリエス、この者の傷を癒やしたまえスピリチュアルヒール」
サラの手が青い光が覆い、その手で優希に触れると光が身体全身に覆われた。その瞬間優希の不安感が一気に拭われた。
「これは・・・なん・・だ?」
優希がサラの手を強く掴み質問する。
「痛ッ!でも良かった。喋れるようになったのね」
優希は異世界の言葉を使って喋った。優希はここまでの二時間あまりでこの世界の言語を理解始めていた。先程の『これはなんだ?』というのは、優希のマシンガンを見て同じような事をいう者達から推測したものだ。
「俺は・・優希・・これはなんだ?」
「ユウキ、ユウキっていうのね。でもまだ混乱しているのね。俺じゃないでしょ、私でしょフフフッ。この魔法はね、精神の不調を和らげる魔法よ」
「私はユウキ。これ魔法・・私喋れない」
「えっ?ケイちょっと来て!ユウキ―この子のことよ、ユウキはショックで喋れないとかじゃなくて言葉が喋れないって。でも片言の言葉は喋れてるしどう言う事なの?」
「何だって!?いや、俺にも分からないんだ。彼女は戦場で戦ってたらいきなり現れてな。変な武器で兵の命を救ってくれた恩人なんだ」
「変な武器で?騎士団長のあなたが見た事もない武器なんてこの国にあるの?もしかしたら魔王軍の魔法で飛ばされてきたんじゃないの?」
「う~~ん・・確かにそう言う考え方も出来る。女性が魔物の群れの中から現れたなんて聞いたこともないし、あいつらは知能の低い魔物だ。人間をみたら襲って殺してしまうだろうからな。だがそれは可能性の一つに過ぎない」
「ごめんなさいケイ。可能性があるのなら私はこの子を魔法審問官の前に連れて行かなければいけない」
「おいちょっと待て!あいつらは少しでもスパイの疑いがあると処刑する頭がおかしい奴等だぞ。そんな奴等の前にユウキを―」
「頭がおかしくて悪かったなケイ団長。我々は規則を守っているだけだ。サラさんもな。私からしたら戦場の規則をねじ曲げるケイ団長こそ頭がおかしいと思うがね」
黒いローブをきた男達が五人、新たに天幕に入って来た。ユウキは目立ち過ぎた。その存在はすぐ知れ渡り、魔王軍のスパイかどうか確認しにきたのだ。
「ジェド!ユウキは俺の仲間の命の恩人だ。処刑などしたらタダではすまさんぞ!」
「さっきも言っただろ。我々は規則を守っているだけだ。お前に逆恨みされる覚えはない。さあユウキ君、君にいくつか質問がある。ああ、言葉が喋れないんだったね。気にすることはない。君に魔法をかけて探るから喋れないのは好都合だ。おい始めるぞ」
ジェドの号令のもと、四人が優希を取り囲む。各々が優希に両手を向ける。
「大地の大精霊よ、この者が何者か暴け 真実の鎖」
ジェドが魔法を唱えると同時に四人の手の平から鎖が出てきて優希を拘束する。
「さあ真実の鎖よ教えてくれ、この者が人に化けている魔物ならそのまま絞め殺せ。我が軍に悪意を持って近づいてきた者ならば気絶させろ!」
天幕内に緊張が走る。しかし鎖は締め付けるどころか緩んで地面に落ちる。
「なに!?どう言う事だ。今までこんな事は一度も。おい!女性だからといって手を抜いているんじゃないだろうな!」
「そっそんな、我等四人誰も手など抜いておりません」
「ではもう一度いくぞ。大地の大精霊よ、この者が何者か暴け 真実の鎖」
四人の両の手の平から再び鎖が出てきて優希を拘束するが、再び鎖は地面に落ちる。
「ちくしょう!この者を拘束しろ。私自ら取り調べて吐かせてゲヘェ」
ジェドが天幕の端まで吹っ飛ぶ。ケイが顔面をぶん殴ったのだ。ケイは朦朧としているジェドの髪の毛を引っ張って強引に顔を上げる。
「結論ありきの取調べしてんじゃねえよクソ野郎!この子は白ってことだろうが!規則を守ってとっとと帰りやがれ!」
「ひっひぃぃぃ」
ジェド達魔法審問官は逃げるように立ち去った。