山神様の通り道2
ルートは確かに険しく、アップダウンが激しい山道だ。体力をかなり奪っていくだろう。あとゴールに到達するには、三十メートルの壁を登らないといけない。ようするにロッククライミングだ。ロープなしのロッククライミングなんて元の世界の俺じゃ恐くて絶対出来なかったが、ファイヤートマホークに比べるとその恐怖は屁みたいなものだ。俺もあいつのおかげで成長しているのかな。少しは感謝しても良いのかもしれないな。
「それじゃあスタート」
優希が特訓開始の合図を告げると、俺とは違うルートで登ると言ってその場で別れた。ゴールで待っているとのことだが、出来れば足を踏み外して死んで欲しい。
自分でも性格悪いなと思うが、二回も殺されかけたのだ。心の中で思うくらい許されるだろう。
俺は気を取り直し、軽快に指定されたルートを走っていた。空は快晴、山から見える麓の景色は俺の疲れた心を癒やした。気持ちが良かったので、つい伸びをした。
「う~~ん空気が美味い!うん?」
その時ふと上を見ると、俺に向かって石が飛んできた
俺は間一髪、横に飛び退くことで石を回避した。石は俺がさっきまでいたところに突き刺ささり土煙を上げていた。
「なっなな何だ?この石はどこから飛んできた!」
俺はこの石に鑑定をかければ何かわかるんじゃないかと思い、早速試して見た。結果は
トラップ魔法 デッドストーン
効果:指定したエリアに進入した対象目がけて石が襲い、ダメージを与える魔法。クリティカルあり。
鑑定に成功したが、知りたくない情報だった。クリティカルとは当たり所が悪ければ死ぬという事だったはず。土煙が風に流され、石がぶつかった場所を見てみると、,土がえぐれ、石は地面にめり込んでいた。こんなもの頭や心臓なんかに当たらなくても、腕に当たれば腕が吹き飛んでショック死するか、出血多量で死は免れないだろう。俺はたまらず優希に『メッセージ』で連絡を取った。
『ちょっとデスストーンって何なんですか?死にかけましたよ!!軽めの特訓っていったじゃないですか。俺を殺す気ですか!』
『どうしたのそんなに興奮して?もしかして自分から女性に電話したことがなくてドキドキしているの?駄目よ師匠をそんな目で見たら』
俺は怒りで声が震えるのを何とか抑えた。
『しっ師匠はキレイですからね。緊張するのはしょうがないですよ~。でも魔法のことを頼むから教えろ!』
『あ~そうだった魔法ね、仕掛けたわよ沢山。当たり前じゃない。特訓なのよ?でもデッドストーンはあなたが習得しているアースシールドでギリギリ防げるわ。この特訓はあなたが他にも習得している土属性魔法を駆使すれば攻略することが可能なレベルに仕上げてるから頑張ってバーニングファイター蓮!あっそうそう、言い忘れたけど四〇分以内にゴールしないとあなたじゃ手に負えない魔法が発動する事になってるからね。スタート地点からあんまり進んでないみたいだけど大丈夫?ちなみに発動する魔法だけどファから始まるやつよ♪』
ファーーーーーッ!俺は『メッセージ』をすぐに切り、叫びながら疾駆した。優希に色々と突っ込みたいことがあったが時間が惜しかった。
「ファッファイヤートマホークなんて冗談じゃねぇぞ。ラノベか?ラノベのタイトルがまずかったのか?バーニングファイターだから燃え上がるべきってバカヤロウ!なんで俺はそんなラノベを書いたんだ。やり直したい。過去に戻って小一時間過去の自分に止めるように土下座でお願いしたい。そもそもなんであいつが俺の過去を知ってんだよ。鑑定出来ないように防御してたはずだぞ。一番知られたらいけない奴に知られるとは悪夢だチクショー。くッもう十分は経ってるぞ。何が『空気が美味い』だ。その美味いと感じてる肺をあと三〇分弱で燃やされるかもしれないんだぞ。アーッ過去の自分をしばきたい」
俺は恥ずかしさ、怒り、恐怖が入り混じる感情を吐き出しながら走り続けた。