異世界でも優希10
バシャッ
「起きなさい蓮!もっと気合いを入れて耐えなきゃダメだぞ」
水をぶっかけられて俺は飛び起きた。恐怖に体が震えながらも体全身を確認してみると、あるはずの火傷が見つからない。今のは幻だったのか?
「蓮にぶっかけたポーション高いんだよ。あんまり簡単に焼けたらダメじゃない。金貨一枚貸しだからね。でも特訓のおかげで炎耐性が上がったみたいよ。感謝してね」
幻ではなかったようだ。どうやら水だと思っていた物はポーションだったらしい。傷が綺麗に治っている。
「おい優希コラ!いきなり編み目のついたステーキ状態にするとか聞いてねえぞ!」
「じゃあ言った方が良かった?君を今からステーキにしちゃうぞ♪って。信じたかしら?知らずにやられた方が痛みは少ないものなのよ。逆に私の心遣いに感謝してほしいぐらいよ。それよりお昼を食べに行きましょう。君が長い間寝てたからもう正午なの。ちょっと焼き過ぎたかなって心配しちゃったわ。あなたの焼ける臭いを嗅いだらなんだかステーキが食べたくなっちゃった」
弟子の焼ける臭いで食欲が出るとかアンタは鬼か。こいつの修行に付き合っていたら俺は午後確実に死ぬ。スキを見て逃げるのだ。農作業で鍛えたこの脚力、高レベル冒険者といえど簡単には追いつけまい。俺はそう心に決めた。
俺達は酒場に行く前に一つの店によった。魔法屋だ。魔法はレベルアップにより習得する場合と魔法屋で購入する場合とがある。簡単な魔法例えば『メッセージ』であれば習得する事は簡単で一般の人でも普通に習得出来る。ただ攻撃魔法などは前科、属性、レベルなど多くの審査が入る。その審査が通ったとしても精霊魔法の場合は契約が成立するかわからないし、自分の魔力を使用する魔力魔法にしても習得する魔法の使用MPの三倍はないと習得は難しいとされている。今回優希は俺にメッセージの魔法を買ってくれた。冒険者じゃなくてもこれからの人生で大いに役立つからだそうだ。さっきの仕打ちとのギャップで何故か必要以上に優しさを感じてしまう。ダメ!蓮、騙されちゃ駄目!逃げるの。時間はない。午後には死が待っているのだから。
「さぁこのスクロールを開いて、習得対象の魔法名『メッセージ』を唱えるの。それで習得完了よ。」
「おっおう、『メッセージ』」
スクロールに書かれた文字が光輝く。驚いているとその光が腕を伝わり、身体までもぼんやりとが光輝かせた。そしてしばらくすると俺の頭の中にスマホで見るようなコマンドが出てきた。『アドレス』とある。
「おい優希、アドレスって出てるぞ」
「習得出来たみたいね。『アドレス』を頭の中で選択し、私を思い浮かべなさい。弟子契約があるから私を選択出来るはずよ」
俺は言われたように目の前にいる優希を思い浮かべた。
「おっなんか『優希』って出て来たわ。」
「出来たみたいね。そうしたら後は簡単よ。スマホを操作するみたいに私を選択すると、繋がるから、後は普通にしゃべるつもりで話す内容を頭に思い浮かべるだけで良いの」
俺は言われた通り優希を選択する。すると頭の中で電話と同じような呼び出し音が鳴り響いた。しばらくしてピッという音がした瞬間、優希と俺の意識が繋がるような感覚を覚えた。。
『あ~あ~聞こえ―』
『クックックッ蓮、これでおまえはどこにも逃げられないハハハハハハハーーーーッ』
失禁しそうな声が頭に響いた。
「ギャアアアアァァァバレてるーーーーッ!!いやっ、ちがっ、コッコラ優希!驚かすんじゃねえよ。ビックリしたじゃねえか。どっどういう事だよ。おっ俺は別に逃げようだなんて思ってねえし。ていうか普通『初通話おめでとう』とか言うところだろが!警察を必死に思い浮かべて繋ごうとしたわ!」
「ゴメンゴメン。メッセージは会話の他に位置情報を教えてくれる機能があるのよ。普通は知られないようにブロックしているんだけど、契約下の弟子は師匠がそれを決める権限を持っているの。理由は弟子がモンスターに殺されそうな時に師匠が助けにいけるようによ。でも私の使い方はそうじゃないの。私の弟子って何故かすぐ逃げちゃうの。だからこれで位置を把握して絶対に逃がさないようにしておくの!私って頭良いでしょ。」
俺は再び『警察、警察!』と必死に検索している途中に意識が飛んだ。たぶんこの世界の人類も含めておそらく最初なんじゃないだろうか。初めてのメッセージで恐怖のあまり気絶したのは。