優希監督3 7
「クククッ口は達者やのう。お前等の四肢をもぎ取って瀕死にしてからもう一回答えを聞こうやないか?さあ、掛かって来いや」
マルガンスは手招きする。
直後、アリスはフェイントを入れながらマルガンスに攻撃を仕掛ける。握手出来る程の短い距離を超スピードで迫る。そしてアリスの牙が喉笛に刺さる。
「!?」
「どうしたブラックのお嬢ちゃん?攻撃が通じんのは初めてか?今までは大人のブラックが護ってくれてたもんなあ。でもな、子供の牙が誰にでも通じるほど世界は狭ないんや。現実は厳しいもんなんやで。ほいっ捕まえた」
「はっ離しなさい!」
「そうか~。ほな離すわ」
マルガンスは手首のスナップをきかせて地面に投げる。
ただそれだけの事なのに、ブラックのアリスが受け身を取ることが出来ないほどのスピードで地面に叩き付けられた。
「キャンッ」
「アリス!!」
俺はアリスを助けようとしゃがみ込む。
「おいおい、それは臣下の礼と取ってエエんか?」
「あぁ!そんな訳ねえだろボケが」
「じゃあ去ねや」
マルガンスの回し蹴りが俺目がけて飛んで来る。咄嗟に左手でガードするが、大型トラックにでも轢かれたかのように吹っ飛び、防塁に衝突してやっと止まった。
「ゲホォ」
俺は口から血を吐き出す。
「だっ大丈夫蓮。ごめん私のせいで」
マルガンスに蹴られる直前に右手で保護したアリスが、自分も重症なはずなのに俺の心配をする。それどころか誇り高いブラックの姫のアリスが謝罪をしている。
「ハハハハハッこんなの毎日のことだよ。心配すんな。それよりアリス、ハイポーションだ。飲め」
俺はアリスの口に瓶を近づけ、ゆっくりと半分くらい飲ます。その後、俺も飲もうとすると
「あっ!!れっ蓮、そっそれ・・・・」
「どうした?」
「あっあの・・・」
「ごめんなアリス。マルガンスが来る。話はまた後でゆっくりな」
俺は残りのハイポーションを飲み干した。
「あっ!!」
「どうした?足りなかったか?」
「違うわよ馬鹿!さあボケッとしてないで構えなさい!」
「ああ、そうだな。でもアリス大丈夫か?お前の攻撃通じないんじゃ」
「はあ?ブラックを舐めないで。噛み付きしか出来ないと思ってんの!馬鹿な心配してんじゃないわよ。でも悔しいけどアイツは強いわ。二人で協力してやるわよ!」
「おう!」
俺は闇のオーラを全身に身に纏い闇の鎧を装着する。
アリスも身体から紅いオーラを出し、今まで出していなかった本気の戦闘モードに移る。
「ほう、二人共カッコええやんけ。アリス言うたな。本気のブラックが纏う血のように紅いオーラ、見たモンは死ぬっちゅう不吉なそれを纏うってことはまだやるんやな。エエ根性しとるやんけ。今度こそワイの喉笛を噛み千切ってみい。それに蓮、驚いたでえぇ。お前それ自分がどんだけスゴイことしてるか知ってんのか?闇の鎧を着ることが出来るなんて魔王軍でも序列上位のもんだけや。それでもお前みたいな全身鎧となるとワイは魔王様以外知らん。決めたで蓮、お前はこっち側の人間や。お前をぶちのめして魔王様のもとに連れて行く。魔王様にお前を洗脳してもらってワイの部下にしてもらう」
「マルガンス!!お前は俺の前で絶対に言っちゃあいけない事を言ったぞ。お前はそれがどんなに沢山のを人達を苦しめるか知ってんのか?バイカールがどんなに悲しんだか、アリエスがどれだけ泣いたか」
「そんなん知る訳ないやん。バイカール生きてんの?魔王様にやられたって聞いたけどしぶといやっちゃな~。さっさと死ねば良かったのに。そうすれば悲しい思いもせんで済んだし、アリエスもバイカールの事なんてさっさと忘れて幸せになれたやろうに」
「クソ野郎が!お前はここでぶっ殺す!!」
「三回も同じこと言うてアホちゃう?そんな脳味噌いらんやろ。魔王様にグチャグチャにされてワイに飼われた方が幸せやでワハハハハハハハハッ」
闇のオーラを纏わせたサヤックスを一瞬で具現化すると、マルガンスの頭目がけて振る。それにも関わらずマルガンスは微動だにせずまだ笑っている。ならばそのまま笑ったまま幸せそうに死ね。それがせめてもの慈悲だ。
しかし手には鉄塊でも斬りつけたかというような重い感触がし、その衝撃で両手が痺れる。
「簡単に首を取らせてやる訳にはいかんなあ」
いつの間にかマルガンスの頭に立派な角が生え、サヤックスを受け止めていた。
「ちゃんと自己紹介したはずやで蓮。ワイは牛鬼やて。牛の能力を持った鬼なんや。角ぐらいあると思わなあかんがな。脳味噌使わんのやったらやっぱり魔王様にグチャグチャにしてもらい」
角でサヤックスを絡めると、首を振り回して蓮を放り投げた。いきなり空に投げられ、マルガンスに対する集中が薄れた蓮に、胸元からナイフを取り出し投げつける。しかし投げた瞬間、アリスがナイフに噛み付き止めた。
「なんやと!?」
「アンタも脳味噌使ってないみたいね。死んだ方が・・いいんじゃない!!」
アリスは咥えたナイフを、首を振ってマルガンスに投げ返す。
それをマルガンスは容易く角で弾く。
「さすがブラックやな。半端やないスピードや。やけど速いだけでダメージを与えられんなら意味ないで」
マルガンスはマントをバッとはためかすと、左右の手に両刃斧を握り、アリスに襲い掛かる。
斧という重量武器を振っているのにも関わらず、恐ろしい速さの連続攻撃を続ける。アリスはマルガンスの間合いで必死に避ける。自分が間合いから出てしまうと蓮に斧を投擲するだろうと確信しているからだ。
「チッ、ちょこまかちょこまかと鬱陶しい奴やで。お前の相手は後じゃ」
マルガンスが視線をアリスから蓮に移す。が、飛んで行った先に蓮がいない。
「どこや!?」
マルガンスは背後から殺気を感じ慌てて振り向くと、今度は首をはね飛ばそうとサヤックスを横薙ぎする蓮がいた。
「クッ」
マルガンスは慌てて両刃斧を引き上げてガードする。サヤックスの威力に押し込まれたがギリギリ首元で止まった。
「このボケ!いきなりラスボスの首を取れると思うなギャアアアァァァァァ」
蓮に気を取られてるスキにアリスが頸動脈付近に噛み付きながら後頭部を思いっきり引っ掻いた。後頭部の皮膚は広範囲に裂け、首からは血がダラダラ流れているが、本命の頸動脈は分厚く硬い筋肉に覆われ、とてもじゃないが一撃では切断出来ない。もう一度試みようとしたが、両刃斧の気配を感じアリスは飛びのいた。
「お前等ええコンビネーションしとるやんけ。初めはアリスが吹っ飛ばされた連をフォローしてるだけやと思てたけど、それだけやのうてワイの背後に回るために撹乱しとったとわの。それにブラックや言うてもこんな子供の牙や爪が通るなんてワイはショックやで」
「はあ?本当に脳味噌使えてないわね哀れだわ。牛鬼程度がよくブラックの前に立てたものね。牛が狼に勝てるとでも?立派な角だけどそれがどうしたの?客間に飾るためにあるのよね。それ」
「アホか!何でワイがお前ん家の客間でこんにちはせなあかんねん!」
「アハハハハッ本当ね。牛鬼程度の剥製を自慢げに飾ったりしたらブラックの格が落ちてしまうわ。でも脳味噌は使えてないわ、剥製の需要もないなんて本当に哀れだわ」
「ケッ!ワイを前にして堂々と悪態つきおって可愛げがないのう。世の中にはブラックより上がおるという事を教えたるわ」
マルガンスが二人に向かって走る。
「牛鬼の本気を見せたる。覚悟せ―」
マルガンスの脚に床が抜けたかのような感触が走る。
蓮が事前に土属性魔法“沼”を仕掛けていたのだ。
「メガグラビティー」
初見殺しを発動し、マルガンスを窒息死させようとする。
マルガンスは前のめりに倒れ、両手に持った斧の重さも相まってドンドン沈んで行く。
「終わりだマルガンス。お前はラスボスの器じゃなかったな。お前がゴミ扱いした兵達と同じように死ね」
「そっそんな待ってくれ!もっ回、もう一回チャンスくれや」
「フン、何て見苦しいの牛鬼って。やっぱり客間に飾らなくて正解だわ。とっとと沈んでしまいなさい」
「そっそんな殺生な~。ワイこのままやと・・・お前等を瞬殺してまう」