ナンバー1アリス 10
「分かった分かった許せ蓮よ。それで話の続きだが、その者達が酒を飲んで盛り上がっていた玉座の間に乗り込んで来たのだ。五十人ほどだったな。今の蓮と同じくらいの強さの者が半分、それ以上の者が半分といったところか。国を落とそうと言うだけあって、敵ながらよくこれだけの精鋭を集めたものだと思ったものだ」
俺は世の中の広さを思い知った。強くなったと思ったが、まだまだ上には上がそんなにもいるなんて。
「しかしヨハンは笑顔を崩さずこういった」
『リク、これはシャンパンというお酒なのだが、泡が立ちやすいんだ。私はこれを入れるのが苦手なのだよ。ゲストにやらせて申し訳ないが替わってもらえないか?』
「我は快く引き受け、用意されているグラスに注いだ。我はこの飲み物をブラックの戦士が戦いに臨む前に飲む一種の清めの酒だと理解し、手早く注ごうとしたのだがヨハンの言う通り泡が立つ、それゆえ泡が立ってはおさまるまで待ち、泡が立ってはおさまるまで待つことを繰り返したため20秒ほどかかってしまった。我はヨハンに『戦いに臨む前なのに集中力を乱したかもしれん。申し訳無い』とな。そんな我にヨハンは」
『何を言ってるんだい?おお、さすがリクだ。私よりも遙かに上手いよ。やはり頼んで良かった。さあ飲み直そう』
『お主こそ何を言っているのだ?敵をこれ以上待たせる訳にはいかんだろう。我も手助けするから早く終わらせて飲みなお・・・』
振り返ると敵は全員死んでいた。
『何だこれは・・・一体・・・』
『ああ、私に刃向かうというからどんな者達かと思ったが、取るに足らない者達ばかりだったよ。大咆哮を使うまでも無かった。『睨み』だけで動けなくなってしまうなんてね。私自らこの手でズタズタに引き裂いてやろうと思っていたのだが、弱過ぎて怒りをぶつけられないよ。だからこの者達の身体は家族を、友人を失ったものに任せようと思う。だから私はこう命じたんだよ。そこで静かに伏し、死ねと』
『なっ!?死ねと命じて死ぬものなのか』
『ハハハハハッごめんごめん。さすがにそれでは難しいよ。私の睨みはね、恐怖を思い起こさせるのだよ。それは自分自身だけのものだけでなく。人に与えた恐怖もね。こいつらは今まで善良な国民を虐殺してきた奴等だ。襲い掛かってきた数百人分の恐怖は耐えられるものではない。その恐怖から逃れるためならどんな事でもしようとするだろうね。私はその手助けをするんだよ。命を放棄してでも逃れたいと願う者の魂を狩ることが出来るんだ。だから私の睨みは善であり戦いに無縁な者には大した効果はない。コイツ等は自業自得なのだよ。民の苦しみを味あわせる事が出来て少しは溜飲が下がったよ。リク、君を呼んだのはコイツ等が強かった場合、手伝って貰うつもりだったんだよ。私は部下を失いたくないんだ。その点君なら私と同格だ。負けることなど有り得ない。黙っていて悪かった。出来る事なら何も気にせず食事を楽しんで貰いたかったんだ』
『そうだったのか。ならば我はヨハンのおかげで美味い飯と酒を楽しめたという事だ。謝る必要など全くないぞ』
『ああ、やっぱり君は気持ちの良い男だ。さあさあもっと飲んで食べようじゃないか』・・・
「どうだ蓮、勝てそうか?」
「勝てる訳ねえだろが!!!恐すぎだわ。恐怖を思い起こさせるってことは今まで優希とリクにボコボコにされた記憶が一気に蘇るってことだろ?俺も静かに伏して死ぬわ」
「パパに勝とうと思うなら睨みに抵抗できるレベルにあることが大前提よ。優希みたいにね」
「そんな言い過ぎよアリス」
「何言ってるのよ。あなたは全然本気じゃ無いのに目を見てるだけで炎に包まれたかと思ったわ。ハッキリ言ってあなたのはパパよりヤバイかも」
「だめよアリス。レディーやジェントルマンはみんなの前で人の事をヤバイなんて言っちゃダメなのよ」
「あっそうなの!?ごめんね優希」
「気にしないでアリス。それより自分の非を認めて謝れるなんて立派なレディーだわ」
「やったー♪ありがとう優希」
優希に褒められ、嬉しくて両手を挙げて喜んだ拍子に、膝に置いていた皿が地面に落ちそうになる。蓮が慌てて皿を支えようとすると、それより先に一体の子供のサンドウルフが地中より現れ皿を頭で支えた。
「あら、ドミニクじゃない♪ありがとう」
人化したとしてもアリスと分かるのか。ドミニクはアリスの頬を舐めて甘える。
「こらドミニク止めなさいアハハハハハッ」
十分甘えて満足したのか、ドミニクは身体に巻き付けられた手紙をアリスに見せる。
「えっ手紙を持って来たの?パパから!?」
場が一気に緊張する。アリスは嬉しいのかウキウキしながら手紙を開く。