ナンバー1アリス 2
「よし、ここらへんで野営するぞ」
「うむ。では行こうか蓮。少しは上達したか?」
「おう。少しコツを掴んだよ」
「楽しみにしてるわよ蓮」
「今日は優希も来るのか?」
「当然よ。今日は蓮がナンバー1と戦う日だもの」
「えっ?まだまだいなかったか?」
「確かにまだ10台前半のサンドウルフ達が残っておるが、それはすぐ済むだろう。それほどに蓮は強くなっているのだ。だがナンバー1は別格だ。気を抜くなよ」
「おいおい数時間前に身の程を身体に叩き込まれた俺が気を抜くわけねえだろ。むしろ何かワクワクしてきてるぜ」
「ほほ~蓮もその境地に達したか。前に我が『蓮は簡単に命のやり取りが出来て羨ましい』と言ってそれほど時間も経っておらんのにな」
「あの時はコイツ頭大丈夫かと思ったもんだけど、俺も殴られすぎて頭がおかしくなっちまったのかも知れねえな。」
「ワハハハハハハハハッさすが我が弟子よ。言うではないか。さあここでいいか。ではサンドウルフを召喚する。大地の精霊王リクが命令する。出て来いサンドウルフ達よ!」
リクが叫ぶと続々とサンドウルフが地面からタケノコのように出てくる。出てくる出てくる出てくる出てくる出てくる出てくる出てくる出てくる出てくる出てくる・・・・
「ちょっちょっと待て!おいリクどう言う事だよ。全員出てきてねえか?」
「うん?別におかしな事ではないだろう?この者達の王が戦うのだぞ?見守るのが当然だ。それに見ろ。お前の前にいる13体のサンドウルフが今日戦う者達だ」
目の前には巨大な狼達が並んでいた。その全てが鼻に皺を寄せ、今にも噛み付いてきそうな攻撃的なオーラを発している。だがそのオーラが突然鎮まる。そしてサンドウルフの群れが左右に割れる。
その真ん中を優雅に歩いてくる者がいた。もちろんサンドウルフ達の王だ。
「・・・なんとなくな、なんとなくそんな気がしてたよ。会いたかったぜ・・・会いたかったぜこの野郎!お前の顔を見るとケツの古傷が疼いてしょうがねえんだよ!」
それは蓮が一番最初に戦った小さな小さなサンドウルフだった。
その者は蓮を値踏みし、フッと笑う。
「笑った!?お前笑っただろ今!雰囲気で分かるぞ!もう怒った。手加減なんかしてやんねえ。お前のケツを囓って同じ傷をつけてやるからな!」
それを聞いた王は、ビックリしたような顔をして何故か一目散に引き返していった。その後、整列していたサンドウルフ達が王を後ろに匿うようにして蓮に立ちはだかると、先程以上の殺気をぶつけてきた。
「えっ?どっどうしたのみんな・・・」
「ゴホンッあ~~蓮よ、サンドウルフ達の王と言ったが・・・メスなのだ。お主は女王を命懸けで護ろうとするナイト達の前で女王の尻を噛んでやると言ったのだ。この大地のように心の広い我でもそれは流石にドスケベが過ぎると思うぞ」
「うわ~~~っ蓮サイッテ~~~~!」
「誤解だ~~~~~~!!だって王って言うから男だと思ったんだよ。って言うかリク、お前達も悪いぞ!アリエスもソラも女なのに何で王なんだよ!女王って言ってくれたら勘違いもしないし、それなりの準備もさあ」
「そう言われても我等は人間と違って称号に興味などないのだ。お前達人間にならって四大精霊で一番偉い我等は王と言っているだけだ」
「おい!それは問題あるぞ。お前達四大精霊は普段は人に姿を見せねえんだろ?それなのに王を名乗っちゃ人間は男だと思っちゃうぞ。アリエスは名前でセーフかも知れねえがソラは絶対男の石像とかあるわ。別に女王が王に劣っているなんて事はねえんだからその辺ハッキリさせとけや恋愛パワースポットの主!」
「おい!やめてもらおうか!我をそんな軟派なスポットの主などと此奴等の前で呼ぶでないわ!我と眷属の間に亀裂が入るやもしれんであろうが!」
「テメエはすでにストライキ起こされてんだろが!亀裂どころか蜘蛛の巣状にヒビが入ってるわ!」
「言ってくれたな蓮!では此奴等の前でお主を血祭りにあげて我に逆らう愚かさを刻み込んでおこうか!」
「二人共落ち着け!サンドウルフ君達を無視するんじゃない。今にも血管が切れそうになっているのが見えないの?」
優希の言う通り、命に代えても女王を護るという決意で蓮の前に立ちはだかったのにも関わらず、その覚悟を踏みにじられたサンドウルフ達は、怒りの余り歯を噛みしめ過ぎて口から血がダラダラと垂れている。
「うわっめっちゃブチ切れてる~~~!オイオイちょっとぐらいいいじゃねえか。ああ、これはちょっとぐらい女王様のケツを噛んでもいいじゃねえかってことな。分かったらどいてくれ。お前等の汚えケツは噛みたくねえんだよ」
サンドウルフ達はぷっつん切れた。リクの命令など効かないストライキモードに入り、蓮の命を奪いにきた。
一瞬で距離を詰め、のど笛にその牙が食い込もうとした瞬間、サンドウルフ達は砂となった。蓮がサヤックスを一閃したのだ。
「ヤッホ~~~~~~♪一網打尽だぜ」
「フッ我すら利用するとはな」
「サヤックスの素振りの練習している最中に、俺も口で敵の心を乱してやろうと思ってね。女王を護るために一カ所に固まってるし、あとは煽って何体かが飛びかかって来てくれれば良いと思ったけど、全員が飛びかかって来てくれるなんて大成功だぜ」
「ふむふむ、なるほどなるほど。先程学んだことをもう実戦するとはさすが我が弟子よ。良くやったと褒めてやりたいが・・・この場合それは悪手だ」
「えっ?何で?めっちゃうま―うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
俺は砂になったサンドウルフ達に向けてサヤックスを向けた。
全身を噛み千切られるリアルな映像が頭に浮かんだからだ。
「どうして・・・一桁台は斬っても倒せないのかリク」
「違う。そうではない。お前が倒したサンドウルフ達の砂の下に奴がいるのだ。女王アリスがな」