異世界でも優希7
「ごめんなさい。蓮には本当に悪い事をしたと思っているわ。でも大丈夫。元の世界に帰ることは出来るから」
「本当か?」
「本当よ。私はこの世界に来るのは二度目なの。これは実験なの」
「実験?」
「私達がいた世界には沢山の問題があることは知っているでしょ?人口爆発、砂漠化、食糧危機、温暖化とか色々よ。近い将来、私達が深刻な状況に陥るのは時間の問題なの。でも私達はこの世界の力を借りることによって幾つかの問題を解決する事が出来るわ。ただそのためには、さらなる転移実験が必要だったの・・・でも、誰も協力してくれなくてね。それでしょうがなく・・・ごめんなさい」
「そっそうだったのか・・・世界の人々を・・・あっ!」
俺は優希の胸ぐらを掴んでいたのを思い出し、急いで離す。
「ごっごめんなさい女性の胸倉を掴んでこっちこそごめんなさい。セクハラどころじゃねえよな。すんませんしたーーーー!」
「いいのよそんな事。蓮と私の仲じゃない。それより蓮に辛い思いをさせたわ。離ればなれになっちゃうなんて本当に予想してなかったの」
「まっまあ帰る事は出来るんだし良いよ良いよ。でもあっちの世界が抱えている問題を、こっちの世界の力を借りて人類を救おうとしてるなんて凄えじゃねえか!桜宮教授凄えよ」
「教授なんてやめて。それに桜宮なんて呼び方も。優希で良いわよ。あと私一人の力じゃないわ。蓮が転移実験に付き合ってくれたからじゃない。蓮は英雄、いえ人類を救う勇者よ。勇者様からそんな敬称つけられるなんて恐れ多いわ」
「オイオイ止めろよ勇者なんて~。照れるじゃねえか」
「それで勇者蓮、教官を探しているんでしょ。私はどうかしら?」
「ああ頼むよ。でもよ、同郷のよしみで優希が俺の村を取り返してくれるって出来ねえのかな?」
「う~ん。それはギルド職員の言う通り蓮が強くなって村を取り返した方が良いわ」
「何で駄目なんだ?優希は強いんだろ?頼むよ」
「蓮、それじゃあ何の解決にもならないのよ。私が村を取り返したとしてもその後はどうするの?蓮が護るしかないんだけど、ギルドの徒弟制度を利用しようとしている蓮に戦う力なんて今のところ無いわよね?それなのに今度は魔王軍が報復しに来るかも知れないそんな危険な場所に村人は帰ってくるかしら?戻って来ねえかもしれねえじゃ駄目なのよ。まあその時は高レベル冒険者の力を借りるという方法もあるけど、その依頼料は蓮の田畑を売ってまかなえるか分からない金額よ。農家の蓮にとってそれは人生を食いつくさんと襲ってくるイナゴのようなものよ。やめておいた方が良いわ」
「・・・・・」
「このあたりに魔王軍の軍事拠点が出来たとは聞かないから、言いにくいんだけど蓮の村はイナゴのように通りすがりに襲ったのよ。だから大規模な報復はないとは思うわ。でも占拠している魔王軍を少数とは言え討伐するのだから報復は免れないわ。それも何度あるか分からない。その度にまた私や他の冒険者を雇うの?私は蓮のイナゴにはなりたくないわよ」
「・・・うん・・」
「私がそのまま村にいられればいいんだけど、さっきも言った通り向こうの世界の何十億という人々を救わなければいけない。蓮も大事だけど、地球の未来も大事なの。そのためにはこの世界の事を色々と調査しなければならないわ。ここにずっとはいられないのごめんなさい」
「いやいや謝んねえでくれ。優希の言う事はメチャクチャ分かる。小さな村と地球の未来を天秤にかけられねえよ。それに実は村を取り返そうと躍起になってるのは俺だけなんだよ。この世界の住人は慣れてんのか、しょうがないと切り替えて他の村に行ったからな。でもよ、これからも襲われる度に、世話になった爺ちゃん婆ちゃんの悲しい顔を見なきゃいけないなんて俺には我慢出来ねえ。何より特に理由もなく通りすがりに理不尽に俺達の生活を、将来を奪ったのが許せねえ。俺が魔王軍をぶっ殺してやる!この役目は誰にも渡さねえ。だから頼む優希、俺を弟子にしてくれ!」
俺は優希に深く深く頭をさげる。