それぞれの正義
それから、御鷹は奏美、愛恋は竜也と交戦した。両陣営ともに驚異的な戦闘能力を誇ってはいるものの、優勢なのは奏美の陣営だ。マグスバスターとしての戦歴の長い彼女が強いのは当然として、新入りであるはずの竜也もどういうわけか凄まじい猛威を振るっている。彼の放つエネルギー弾の数々は、愛恋の急所を的確に射貫いていく。
「僕たち、生きているのに! 痛みを感じるのに! お互いに、世界平和を願っているのに……どうして戦う必要があるんだ⁉︎」
この期に及んでもなお、愛恋は争いを拒む。しかし、防戦一方では己の身を守りきることは出来ない。止む無く、彼はライオンに変身し、竜也に襲い掛かる。竜也は彼の足下に潜り込み、すぐに相手の背後を取る。
「今この世に存在している人間は、戦争によって命を繋いできた者たちの子孫だ。違うか?」
凄まじい威力の光線が、施設内を眩い光に包み込む。愛恋は巨大なアルマジロに変身し、その光線から身を守る。それでも彼の甲羅には徐々に亀裂が入っていく。メタルミストによって作られた光線銃の威力は、自然界のマスターピースすらも凌駕する。数秒後、光が収まった時、そこには全身をひどく負傷した愛恋の姿があった。
「詭弁だ……そんなものは!」
「この宇宙では、結果が全てだ。違うか? そして秩序のために障害を排除することは、人間にとっての最善の生存戦略だろう。そうやって人間は生き延びてきた。だから人間は、この星の支配者となった。違うか?」
「ただ生きているだけじゃダメなんだ! 人間も、マグスも、絶え間ない憎しみの連鎖の中で今を生きている! だから苦しんでいる! 誰も……それじゃ、誰も幸せになれないんだよ!」
両者の正義が衝突し合う。意識が朦朧とする中、数多の痛みに苛まれようと、愛恋は和解の道を信じ続ける。その様を眺めているのは、竜也の冷血な眼だ。
「それは理想論だ。違うか? 人の幸福は、敗者を礎に成り立つ。それが愛であれ、正義であれ、財産であれ……奪い合い、勝ち取ることでしか得られはしない。違うか?」
「違う! 僕たちは、分かち合えるはずなんだ! 互いを思いやる慈愛の心は、決して有限の資源なんかじゃない! だから僕たちは、他者の痛みを理解できる心と共に生まれてきたんじゃないか!」
「くだらない妄言だ。愛などというものは、淀んだ真実に蓋をして世界を尊びたがっている者たちの偶像にすぎない。違うか?」
「愛が偶像だとしたら、僕には……この胸の痛みの正体がわからない。だから僕は信じるんだ。愛と平和は、この狂った時代に打ち勝つってね!」
愛恋は本気だ。その曇り無き眼差しには、一切の迷いがない。例え勝算が無いとわかっていても、彼は幾度となく立ち上がる。
その傍ら、御鷹は奏美と剣術を交えつつ、白熱した議論を交わしている。
「奏美! アンタは何も疑問を抱かないのか! 何故、俺たちが戦わないといけないのか! 何故、人間とマグスが寄り添い合えないのか!」
「三十九年前、この国で何が起きた? マグスに力を持たせることが、ワタシたち人間にとって何を意味するか……足りない頭でよーく考えることだね」
「病的な差別意識が正当化される世界で人間が生き延びて、一体なんの意味がある! もう、こんな争いは終わらせなければならない! 人間とマグスは、手を取り合って生きるべきなんだ!」
こちらも、両者ともに一歩も譲らない。しかし戦闘面においては、御鷹も愛恋も相変わらず劣勢だ。このままでは、二人の命すら危ういだろう。
そんな時だった。
突如、彼らの取り囲む空間は、氷の壁によって分断された。その場に姿を現したのは、リベリオン・マギの重役の一人――――朧瑞葉だ。何はともあれ、御鷹たちが撤退するなら今のうちだ。
「今のうちにずらかるぞ、愛恋!」
「うん、わかった!」
二人はすぐに、壁に空いた大きな穴から飛び降りた。




