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Humanity Magi  作者: やばくない奴
マグスバスター
1/71

肉塊の街

 三十九年前――――日本は未知のウィルスに脅かされた。



「臨時ニュースです。“マグス”の襲撃により、日本各地で未知のウィルスが散布されました。感染者は今も急増しており、治療法はまだ確立されていないもようです」

 この事件は、日本中を震撼させた。阿鼻叫喚の絶えない路上では、数多の人々が吐血しながら崩れ落ちていった。このままでは、日本国民が絶滅するのも時間の問題だろう。事態はまさに絶望を極めていた。


 後に、このウィルスは「マグスウィルス」と名付けられた。


 そんな中、日本を滅亡の危機から救った者がいた。それは当時、天才医師としてその名を馳せていた男――――桜神靱(おうがみじん)だ。彼はメディカという宝石を用いることにより、感染者を治療することに成功したのだ。当時の医師たちはすぐにメディカを使い始め、感染者の治療に励んだ。しかし、感染が瞬く間に拡大していく一方で、メディカの供給はそれに追いついてはいなかった。結局、日本人の三割が命を落としたという。


 この国で人間とマグスの戦争が勃発したのは、あれから五年後のことだ。人間は科学、マグスは魔法を駆使して戦い、数多くの生き血が流れたという。無論、科学で魔法を征することは簡単なことではなかったが、人類は幸いにも数の面でマグスに優っていた。多くの犠牲は出たものの、人類はマグスに辛勝した。


 マグスウィルスの流行や、人間とマグスの戦争により、民意は差別意識に染まった。戦争に勝利したことにより、人々は慢心し、マグスを虐げることを躊躇(ためら)わなくなったのだ。マグスは人間と似ているが、赤い瞳と尖った耳を有した種族だ。ゆえに、人間とマグスを識別することは容易である。



 *



――――そして現在。


 東京都心部の至る場所に、人の死骸が転がっている。その多くは肉体を酷く損傷しており、原形をほとんど留めていない。それが若者なのか、老人なのか、男なのか女なのか。否、もはやそんなことはどうでも良いだろう。失われた命も、その数が一線を越えた時点で「肉塊」に過ぎないのだから。

「ユグドラームの意志のままに!」

「ユグドラームの意志のままに!」

「ユグドラームの意志のままに!」

 マグスの軍勢が声を張り上げる。炎、水、氷、植物など、彼らの魔法で操れるものは様々だ。武力を持たない一般市民には、抵抗の術などない。今この都市で生き延びている者は、逃げ惑っている者たちだけだろう。



 一人の青年――――流鏑馬御鷹(やぶさめみたか)もまた、そのうちの一人だ。彼は建物の陰に身を潜め、周囲の状況を(うかが)っている。彼は息を潜め、神経を研ぎ澄ませ、己の恐怖心を殺している。マグスたちの掛け声と、魔法による轟音と、負傷者たちの絶叫は、御鷹の心を着実に揺さぶっていく。


 その時だった。

「助けて! 誰か! 助けて!」

「お母さん! どこ⁉」

 どこからともなく、見知らぬ子供の声が聞こえてきた。御鷹は声のした方へと目を遣り、一体のマグスに追い掛け回されている双子の存在を確認する。片方は男児、もう片方は女児だ。御鷹は歯を食いしばり、勇気を振り絞って建物の陰から飛び出した。彼はすぐに双子の手首を掴み、その場から走り去ろうとする。当然、二人を追い掛け回していたマグスは、御鷹の行動を許そうとはしない。


 逃走劇の始まりだ。


 避難の道中で、御鷹は信号の前で停車している車を見つけた。彼はすぐに扉を開き、大声を張り上げる。

「俺たちを乗せてくれ!」

 しかし運転手の返事はない。そればかりか、彼はまるで息をしていない様子だ。御鷹はすぐに運転手の手首を掴み、脈を調べる。

「脈が無い……もう手遅れか!」

 彼は運転手の死体を運転席から放り出し、後部座席に双子を乗せる。こうして彼は車を走らせ、一人の追手を撒いた。

挿絵(By みてみん)

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