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1-1.玉座の間へ

 

 長い。

 長い、旅だった。

 何度斬り捨てたか。何度絶望に屈しそうになったか。

 それでもここまで続けられたのは最初(はじめ)から変わらない、たった一つの、ささやかな……。


 ※※※※※※※※


「あ、起きたぁ」

「……」

「インウィ~!クソ雑魚メンタル勇者起きたよぉ!!」


 目覚めて最初に見たものは、ティアテネルと呼ばれていた口の悪い少女と、その頭上を覆うテントの天辺だった。

 天使のような微笑みを浮かべる顔からは考えられない言葉が飛び出しても、俺はもう驚くことはなかった。ティアテネル(この少女)に対して微かにでも動く感情があるとすれば、それは「憎悪」だけだ。

 昨日は……どうやらとうさんの首が斬り落とされてから、俺は気絶してしまったらしい。周囲に流れる風の匂いが、山のソレとは全く異なる。もう相当離れてしまっているのだろう故郷を、最後に一目でいいから見たかった。焼き付けておきたかった。


 胸の内で激しく燃え続ける憎悪に、胸焼けがする。


 (山火事になっていなければいいけど……。あの勢いじゃ、誰かが火を消さない限りは無理だろうな)


 親も、故郷も、育った山でさえ、失ったかもしれない。

 そう考えるだけで、怒りが湧き上がってきた。一夜にして、俺は大切なものをすべて、すべて奪われた。

 ティアテネルに怒りをぶつけようとしたところで、外から誰かが近付いてくる音がして、「失礼します」と声がかけられてから、扉の役割を担う布が捲られる。


「おはようございますルシス様。まだ顔色は悪いようですが……ふむ、体調は問題ないようですね。もうすぐ朝食ができますので、寛いでいてください。出来上がり次第、お呼びします」


 樹人の男――インウィがテントの入り口に姿を見せて、こちらも笑いかけてくる。ティアテネルの悪魔のような微笑みと違い、こちらには本物の気遣いと優しさが滲んでいた。


 インウィの言葉通り、野草の香しい匂いが入り口の外から漂ってくるが、あいにく食欲はない。村人を殺害するところを見てはいないが、この男も襲撃に加担していることはこの場にいることで証明されている。そんな男の作った料理を食べる……考えるだけで吐き気が込み上げてきた。


 俺の無言を肯定と取ったのか、インウィは一人頷くと、今度はティアテネルに声をかける。


「ティアテネル様、ディアボルス老を起こしてください。先程代わりに起こしに行ったイラニクスが殺されかけてましたよ」

「あ~はいはい。とうさまは朝弱いからねぇ。ーーねぇねぇ、イラは怪我したぁ?血だらけぇ?」

「ご期待に沿うような怪我はしていませんでしたよ」

「なんだぁ、ざぁんねん」


 ティアテネルは飛ぶように立ち上がると、インウィと共に出ていった。ここにいたのは暇つぶしだったらしいことが態度からもわかり、怒りが胸の内に溜まっていく。

 名前と少ない情報を頭に刻み込む。


 ティアテネル、恐らく天人の少女。ディアボルスと呼ばれていたのは、あの老人口調の男だろう。そのディアボルスが父親らしい……とてもそんな年齢には見えなかった。せいぜい年の離れた兄妹ぐらいにしか見えない。

 樹人の男がインウィ。どうやら参謀と雑務をこなしているらしいことは会話から察せられたけど、それ以外は不明。


 俺はこれから自分がする目標の一つを再確認する。自然と胸中に湧いた言葉。



 復讐。



 気絶する直前に見えた「職業:復讐者」。


 世界の救済を願われ勇者になり、その一方で、親の仇討ちを願い復讐者になった。



 それだけが、今生きている俺の最終到達点(生きる意味)だった。




 不意にもぞり、と隣で何かが蠢いた。

 思わず身構え警戒する。が、すぐに警戒は和らいだ。

 そこにいたのはたった1人生き残った、故郷での日常の象徴(大切な人)だった。


「……るしす?」


 起きたてで呂律も回らぬまま、ボサボサになった夕焼け色の髪とともに、幼馴染の少女(アイヴィー)は顔を上げた。

 周りを軽く見渡して、彼女もまた、昨夜の出来事を現実として認識していく。次第に表情は暗く、悲しみに歪んでいく。


「……夢じゃ、ないんだね。お父さんも、おばさんも、クラテルも、みんな……っ、みんなっ」


 ポロポロと涙が溢れ出し始め、嗚咽が止まらなくなる。

 普段は明るく笑顔を絶やすことがないあのアイヴィが、ずっと泣いているのはとても耐えられなかった。


 笑って欲しい。

 でも、どうすればいいのかわからない。

 もう俺には、「復讐」以外の道が思い浮かばないから。



「アイヴィ、俺はあいつらに復讐する。あいつらに、同じ苦しみを、いやそれ以上の苦しみを、味合わせる。必ずだ」

「でも、見たでしょ?お父さんがあんなにあっさりと捕まって、殺されちゃったんだよ。ル、ルシスも殺されちゃう……」

「これから強くなるんだ。俺は『勇者』で、『魔王』を討伐するのが役目で……。今の俺じゃあいつらに勝てない。けど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「魔王を、倒す……?」

「そうだよ!あいつらに復讐するそのついでに、世界を救うんだ!!」


 はっきり言って、今の俺の実力では夢のまた夢でしかない話だ。すぐに実現できる話ではないし、必ず叶う保証はない。「予言」にどこまで信憑性があるかわからないからだ。


 理想を語る俺をじっと見て、アイヴィは乱暴に涙を拭き取り、まだ少し悲しみの残る顔で、


「なら、私も一緒。辛い時、苦しい時、悲しい時、嬉しい時、今まで全部一緒だった。これからもずっと一緒に、傍で戦い続けるんだから!」


 そう言って、気丈に笑ってみせた。

 俺たちは()()誓い合う。


 たとえこの身が削れようと、命が失われようとも。

 この復讐を、やり遂げると。


 ※※※


「……あ、まただ」

「またって、なにが?」


 不思議そうに首を傾げるアイヴィの上には、記号や数字が浮かんでいる。今まで見たこともないものだが、これも「勇者」のスキルの一つなのだろうか。恐る恐る手を伸ばしてみるが、触れることはできない。

 記号をすり抜けた俺の腕は、図らずもアイヴィの頭を撫でる形となった。


「ちょ、ちょっとなによ。どうして頭を撫でるの!?」

「あ、ご、ごめん。触れると思ったんだけど、すり抜けちゃったんです、わざとじゃないです!!」


 しばらくむすっとした顔でこちらを見ていたけど、溜息を吐いて話の続きを促した。


「……それで、ルシスには何が見えてるの?」

「うーん、数字と記号の羅列?こういうの、……なんだけど」


 俺は目の前に表示された記号と数字の羅列を、できるだけ正確に地面に書き出した。


 アイヴィ・ヘデラ Lv:16 MJ:弓使い/ SJ:盗賊 種:ヒト

 HP:28/28 MP:21/21 ML:35/35

 ATK:8 DEF:14 MA:15 MD:21 STR:7

 CON:5 POW:7  DEX:14 SIZ:9 LUC:35  

 状態:??:???束


【職業スキル】 

 弓使いLv3

 弓術Lv4、ナイフ術Lv3、狩猟Lv3、

 魔力感知Lv2、風魔法Lv2、闇魔法Lv4、看破Lv4


【後天スキル】

 調理Lv3、料理-Lv2、暗殺術Lv4、交渉Lv2、盗術Lv2



「こんなところかな。うーん、書き出してみてもあんまりわからないな……」

「……私、なんとなくわかった」

「え?」


 俺の書いた記号を見て、即座にアイヴィが答える。


「これって私とルシスで、違う値じゃない?」

「う、うん。全然違う、かな。近い値の数字はあるけど……」

「なら、これってその人の生命力とか、魔力・体力・体格・筋力。そういうものを数字にしたものなんじゃない?私の方がルシスより足が早くて、身長もあって。でも体力と腕力はルシスの方がある。ね、そう考えるとわかるんじゃない?」

「うん……そうですネ……」


 アイヴィはさっきまでの落ち込みはどこに消えたのか、自慢げに考察を語る。

 恐らくアイヴィの推測は正しい。幼い頃から直感が優れていたのは、この【看破】と表示されたスキルによるものだったようだ。

 別にそれはいい。むしろ、疑問が解かれていくのは――他人によるものでも――清々しい。

 いいのだけれど……けれど男としてのプライド的に、身長の部分が心に刺さった。

 密かに泣きそうになる俺に気付くかぬまま、アイヴィはさらに解析をしていく。


「私、弓使いなんだ―。うん、これからもっと腕を磨かないとね。でも、料理スキルのレベルが低いのは納得いかない!あと、あと……この???って状態、なに?全然読めない」

「あ、あぁそれね。俺もわからないんだ。俺の職業スキルにも読めないものがあるんだよね」

「ふぅ―ん。もっとレベルがあがったら、わかるのかもね」


 そう話したアイヴィの【看破】のレベルが、目の前でLv3からLv4に上がった。


「あっ、【看破】のレベルが上がった」

「ほんと!?じゃ、私の考えは当たってるってことね!」

「スキルに沿う行動をすることでレベルが上がる、ってことか。それなら戦えば戦うほど、戦闘系のスキルレベルも上がっていくはず、かな?」

「あとは、新しくスキルを得られる可能性もあるわよね。狩猟も、調理も、料理も……みんな、とうさんや村のみんなに、教わったから……」


 自分の言葉で落ち込んでしまったアイヴィに言葉をかけようとしたとき、二度と聞きたくない、けれど忘れもしない男の声が入口から聞こえる。


「お―い、アイヴィ、ルシス!朝飯ができたってよ!一緒に食おうぜ!」


 養父(ちち)の首を平然と斬り落とした男が、テントの入口から俺とアイヴィに満面の笑みを向けていた。


 ※※※※※※※※


 俺とアイヴィが身支度を整えて外に出ると、温かな風に出迎えられた。振り返ってみると、俺たちがいたのはテントではなく荷車だった。明らかに大きさが違うが、それは一旦置いておくことにする。

 空は雲一つない晴天。周囲にはやはり山はなく、遥か西の方角に、黒い森が広がっているのが見える。それでようやく、ここがどこなのか見当がついた。


「イニウム平原……」


 故郷ラトロー村のあったメリエス山は、大陸の最西端に位置している。一応、人間国家であるプレカティオの領土だ。その首都フルゴルまでは、馬を使っても三日以上はかかると教わっていた。いわゆる「闇職業」であるヒトからすれば、その取り締まりの厳しいフルゴルから離れたラトロー村は、かなり安全な場所だったのだ。

 自分しこのイニウム平原はそのフルゴルのすぐ西に広がる場所だ。現在地から西に見える森が、ドワーフたち鍛治職人の暮らす『ヤルンヴィード大森林』と呼ばれる場所であることは、遠くから見える黒い樹木から疑いようがない。

 アイヴィも俺の言葉で現在地が分かったようで、驚きの声が上がる。


「どうしてもう、こんなところまで……」

「あぁ、ここまで飛ばしてきたらしいからな。いやぁ、俺も起きたらイニウム平原(ここ)で驚いた!なんでも、スペルビーが見張っている最中にプレカティオから急かされたらしくってな?スぺルビーがブチ切れて、一晩中全速力でここまで走ったんだよ。獣人の体力ってのは凄まじいな!ま、おかげで今は爆睡中だけどな!?」


 すでに着席していたイラニクスは豪快に笑い飛ばし、目の前に綺麗に盛られた肉と野菜を食べ始めた。


 あまりの偉業に、言葉も出ない。

 ラトロー村にも獣人はいた。しかし8人も乗せた荷車を一晩中背負い、しかも走って移動できるヒトはいないだろう。

 にわかには信じがたいが、イニウム平原にいることは疑いようがない。イラニクスの言う通り、凄まじい体力と強靭な肉体だと認めざるを得ない。


 残りの6人も同じ身体能力を持っている、と言うことはないだろう。が、それぞれが厄介な力を持っている可能性は、十分に考えられる。

 そんな7人を、俺たちは殺さなければならない。


(――俺がこれから復讐しようという奴らは、そういう()()()ってことだ)


 ふと思いついて、先ほどアイヴィのステータスを見たのと同じ要領で、二人を交互に数秒見つめる。が、視界に変化はない。

 ステータス画面が表示されない。スキルが、発動しない。スキルレベルが足りないのだろう。今後見れる機会に期待して、軽く息を吐いた。


 アイヴィと共に席に座ると、視線の先で、口いっぱいに食べ物を詰め込むイラニクスを、インウィが呆れた口調でたしなめている。

 一番まともそうなこの樹人ヒトでさえ、異常者どもの仲間だということが信じられない。


「行儀が悪いですよイラニクス……。幼子のような食べ方をしないでください。

 ……あぁ、アイヴィ様も起きたのですね。おはようございます。――貴女も、体調のほうは問題なさそうですね。ルシス様も、先ほど比べれば良い顔色です」


 朝食の席にはイラニクスとインウィの二人しかいなかった。ティアテネルはまだディアボルスを起こしに行ってるのだろうか。スぺルビーはまだ眠っているにしても、他の二人は?

 疑問を消化する前に、インウィが急かすように手を叩いた。


「さぁさぁ、早く食べてしまいましょう。朝食後十分以内に荷物をまとめて出発いたしますよ。2時間以内……少なくとも、陽光(ソリス)が昇り終える前に、プレカティオへと到着させたいですからね。

 ……あぁ、二人とも、緊張してしまいそうであれば、食べすぎないようにしてください。プレカティオに着いたら、すぐに謁見の時間が設けられるでしょうから」

「謁見って……誰に、ですか?」


 アイヴィが恐る恐る尋ねる。

 決意表明をしたとはいえ、昨夜の出来事が思い出されて怖いのだろう。当然だ。


「もちろん、あなたたち人間の王であり『大戦の英雄』。プレカティオ国現国王、ペルグランテ様ですよ」


 そう言った後、インウィは俺たちに再度、朝食を勧めた。


 ※※※



「これが、フルゴル……!」


 朝食を無理やり胃に詰めた一時間半後、俺たちはプレカティオ国の首都フルゴルを一望できる丘の上に立っていた。

 堅牢な壁に覆われた都市。遠く離れた丘から見てもわかる、人の多さ、市場の活気。

 ここにいても、国民の威勢の良い声や互いに笑顔を向ける様子を浮かべることのできる平和な国家。ここでかつて「大陸大戦」の火蓋が落とされたなど、今の光景を前に誰が信じるだろうか。


 ……一つだけ異様な気配を漂わせるのは、プレカティオの後方に存在する頂の見えない、暗い山脈の存在だ。

 城の外壁よりも更に高く、雲にも届きかけるほどの高さを誇るその山の頂には、目覚めが間近ーーあるいはすでに目覚めたーーに迫る「魔王」がいるという。

 俺にいずれ倒される存在。復讐の糧となるモノ。大地の、世界の歪み。

 今震えているのが恐れからなのか、武者震いなのか。過去に存在した、歴代の勇者による激励か。

 ……正しく理解するより先に、馬車の揺れで現実へ引き戻されて前を向いた。


 ※※※※※※※※※※※


 奴隷制を完全撤廃したことで人間嫌いである獣人の支持を一心に集める「大戦」の英雄、ペルグランテ王。他の種族をまとめ上げ、七種族の、大陸の王と認められた、唯一の人間。その生きた伝説とも呼べる人に、これから謁見する。

 ……考えただけで胃が痛くなってきた。


 結局フルゴル近くの丘に到着したのは、陽光が頂上を少し過ぎた頃だった。謁見の前にフルゴルを一望できるこの丘の上で昼食を、と提案するインウィに従い、遅めの昼食をとっていた。


 狩りたて採りたての兎と野菜を煮込んだシチューが、痛みを訴えていた胃に優しく溶けていく。

 柔らかく煮込まれた兎肉に絡まる、魚介類ベースのソースに舌鼓を打ちながら、インウィが語る樹人国「スケンティア」での暮らしに耳を傾ける。

 どうやら息子がいるらしいことと、国の中では孤立気味であることを聞き出したところで、「さて」とインウィが立ち上がった。


「私はここまでですね。あとは頼みましたよ、イラニクス」

「おうよ!道中の食事、美味かったぜ。ありがとな!あとは任せておけ」

「インウィさんは、ここで別れるんですか?」

「インウィで良いですよ、アイヴィ様。もちろんルシス様もです。今、私がフルゴルに入ると、少々厄介になりますので……。イラニクス、残りの五人は私がそれぞれの国へ運んでおきます。命に沿えなくなってしまいますが、王によろしくお伝えください」

「それはしょうがねぇよ。ってかあいつら、一回も起きてこなかったなぁ……」

「まったくです。スペルビーはともかく、ルーリア、ディアボルス老は完全に寝過ごしてますね。ティアテネル様はディアボルス老を起こしに行って、そのまま寝てしまわれたのでしょう」

「赤ん坊かよ……まっ、似たようなもんか」


 二人が最後の談笑を楽しむ中、俺は焦りを感じていた。ここで解散させてしまえば、こいつらを追うのが難しくなる。イラニクス・インウィ以外の四人に関しては顔を見ているので永遠に忘れることはないが、あと一人は顔も見ていない。

 この広い大陸(せかい)の中で、六人を見つけ出すのは困難を極める。なんとしても引き留めるか、情報を引き出さなくては。しかし無理に止めれば怪しまれる可能性もある……。


「アイヴィ様、ルシス様」


 俺の葛藤など知らないインウィが、別れを告げるために近付いてきた。

 慈愛に満ちた青漆色の瞳が俺たちを覗き、古木のような(実際にそうなのだろうけど)手触りのする手でアイヴィの左手と俺の右手をそっと包み込んだ。


「暫くの別れとなります。貴方たちが――もしくは貴方たちと仲間がスケンティアに訪れる日を、指折り数えてお待ちしています」

「スケンティアに?それは……」

「私からはここまでです。詳しくは、王が語られるでしょう。

 ……本当に、心から、楽しみに待っていますよ。では、私はこれで失礼します。

 ――樹人魔法【ノウェラ・アーバスクル】」


 魔法名を唱えるとともに、無数の根が大地を突き破って出現し、インウィとその周りの馬車を一瞬で包み込んだ。一つ瞬きする間に、根は緑色の魔粒子となって跡形もなく消滅していた。大地には隆起したあとすら僅かにも残らず、元通りになっている。

 右手から香る古木の匂いだけが、インウィの残した唯一の痕跡だった。



 ※※※



 更に、一時間後。

 昼食を食べ終わった俺たちは、プレカティオに入国していた。

 と言っても、正門から入ったわけではない。

 俺とアイヴィの存在は、まだ知られてはならないそうで、裏門で近衛兵に渡された魔法具を使い、プレカティオ城内まで直接転移させられた。

 転移地点に到着した途端、身体が魔法に馴染まなかったのか魔法酔いを発症し、今まで味わったこともない、まるで身体中の悪いものを一箇所に掻き集めて胃の中で煮られているような、激しい吐き気が込み上げてきた。その煮られたものが、今にも口から飛び出そうとしている。

 アイヴィも横で青い顔をしながら吐き気を必死に堪えている。俺ら二人とも、酷い顔色となっているだろう。

 イラニクスは慣れているのか、平然と歩みながら勇者についての予言を語っている。

 俺が話してほしいと頼んだからだが、今はそれよりも一呼吸、せめて吐き気が治るまで待ってほしい。


「預言師ウェスペル様の予言に関係しているらしいんだがな、予言はあ、ゴホン。王しか知らされず、しかもそのままウェスペル様は大地へ還られたから、王しかその内容は……?おい、二人とも大丈夫か?」

「あい、っぷ」

「ルシスの方はまだマシか。アイヴィ、生きてるか?」

「……」


 アイヴィは青い顔のまま口元を手で覆っている。若干、プルプルと震えている。限界かもしれない。

 廊下で立哨業務を行う近衛兵たちも立ち姿そのままに、心配そうな視線をこちらへ向けているのがわかる。


「う……」

「おっ、大丈夫s」

「うぉおえぇぇええぇっ」


 かがみ込んだイラニクスの顔をめがけて、アイヴィの嘔吐物が噴射される。


「「「あぁぁああぁぁぁぁっっ!!?」」」


 俺と近衛兵の絶叫が、中庭に響いた。



 ※※※※※※※※※



「なるほど、その後一度着替えに戻り、結果、謁見に三十分遅れたのだな」

「ハッ……!陛下の前に嘔吐物にまみれた姿で現れる訳には参りませんので。

 ともかく、アイヴィ嬢が魔法具による移動に慣れていなかったことに気付けなかった、わたくしの配慮不足でございます。咎を受けるのはわたくしだけで十分かと……」

「そんなものは求めないよ、イラニクス。アイヴィ嬢も、そんなに申し訳そうな顔をしなくても良い。魔法具(アレ)は改良する予定なので、今後あのような惨事は起きないだろう……恐らくね。さ、気分は落ち着いたかね?」

「は、はい。大丈夫です、ます」

「ルシス殿も、問題ないかね」

「俺、いえわたくしは、大丈夫です、はい」


 緊張しておかしな口調になる俺とアイヴィに、王は苦笑いを返した。王の口調は、いや口調に限らず見た目は、想像していたよりも若々しく、力に満ち溢れているかのようだった。



 ※※※※※※※※※※※※※



 あまりの惨状に直立不動の近衛兵たちが慌てふためき、謁見に遅れると喚くイラニクスを、騎士団が所有する大浴場に無理やり押し込んだ後、その間俺たちが休むために自分たちの休憩所を提供してくれた。

 こちらのことを何も知らない様子だったが、イラニクスが連れているのなら、と信頼してくれたようだ。

 その中でも年長であった近衛兵の男性には同じ年頃の子がいるらしく、アイヴィがなんとか体調を取り戻した後は、お茶やお菓子などを提供してくれた。

 そうしてしばらく和んだ後、三十分遅れでようやく謁見に臨んでいる。




 絢爛豪華な装飾と同盟国の旗が掲げられる壁面、鏡のような光沢を放つ石の床、その床のかなり広範囲を覆うふかふかの絨毯。恭しく膝をつく、高そうな礼服と鎧に身を包んだ十二人の貴族たち。


(……俺たちがラトロー村でどれだけ仕事をこなしても、ここにある物など一つも買えはしなかっただろうな。そもそもあんなに高そうなものなど身につけなくても、生活はできるだろうに……)


 天上から射し込む陽光が、結晶(クリュスタルス)で造られた窓を通して万華鏡のように光を反射させ、玉座の間を隅から隅まで眩いほどに輝かせている。中でも玉座の間の一番奥は――つまり王座を照らす極光は、王を祝福するかのように七色の光を放っていた。


 王と呼ぶには少し質素すぎる服装。それとは不釣り合いな、豪華な宝飾に彩られた王冠と玉座。隣は空席で、その横には一振りの長剣。英雄であり王である者。


「大戦の英雄」ペルグランテ・カルニフェクス・プレカティオが、勇者の到着を待ち望むようにこちらを見据えていた。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「緊張せずともよい。この場は君たちを断罪する場ではなく……君たちがどう思うかはわからぬが、祝福を授ける場である。楽にしなさい。

 高位貴族(オルナクラーテ)の皆も、それぞれの職務に戻りなさい。忙しかっただろうに、この場に来てくれたことに感謝する」


 王の言葉に、その場にいる全員が一瞬声を上げかける。

 それを制して言葉を発したのは、黒い鎧の左胸に、白い花の彫刻が施された騎士だった。


「滅相もございません陛下。この記念すべき時にこの場に立ち会わせていただき、感謝の言葉もございません……ですが、あの子供二人と陛下の三人で残すのはいかがなものかと――」

「イラニクスには残ってもらう。報告を聞く必要もあるのでな。

 ――それで、問題はないな?」

「――ハッ!!」


 王の言葉で納得できたのか、それとも圧を感じたのか。

 ともかく黒い鎧の騎士は深々と一礼すると、他の高貴族(オルナクラーテ)と呼ばれた貴族たちへ視線を向けた。

 それを受け、他の全員も一斉に立ち上がり、同じく一礼をして玉座の間を去っていく。向けられる視線から、こちらに対する不信感が感じられた。


 最後の一人が巨大な扉をくぐり、大きな音を立てて閉まりきると、途端にイラニクスが大きく、深く溜息を吐いた。


「ハァー……。息が詰まった。まさか、あいつらを呼んでいるとは思いませんでした。事前に言ってくださいよ」

「彼らはこの国の最終意思を決定できる権限があるからね。後で知らせていなかったなどと知られれば、それこそ批判を受けてしまうだろう?」

「なるほど。しかしあのお言葉で、納得したようには見えませんでしたね。今後、あいつらの動きには細心の注意を払っておきましょう。……それにしてもスーサ――いえユーベニリスのあの顔、見ましたか?本人は気付いていませんでしたが、口元が引きつっていましたね」

「あぁ。あの顔は久しぶりに見たな。成長しても、あの癖は治らなかったのだな」


 少し砕けた口調で、二人は雑談を交わし、笑いあう。

 主と臣下のような主従関係を感じさせない、けれど互いに礼を心得た、互いを知り尽くした話し方。

 でもそこに、なんとなく違和感を覚える。

 理由は……分からない。これは【直感】でもたらされる情報なのだろうか。


「ふっ……。さて、待たせたね、二人とも」

「「……は、はい!」」


 俺とアイヴィ、二人揃って返事をする。


「予言の話と、これからのことを話そうか」


 そう言って、王は()()()()()微笑んだ。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 アイヴィ・ヘデラ Lv:16 MJ:レンジャー/ SJ:盗賊 種:ヒト

 HP:28/28 MP:21/21 ML:35/35

 ATK:8 DEF:14 MA:15 MD:21 STR:7

 CON:5 POW:7  DEX:14 SIZ:9 LUC:35  

 状態:??:???束


【装備】

村人の服

凍花の髪飾り

手編みの手袋

普通の靴

木の弓


【職業スキル】 

弓術Lv3

 弓術Lv4、ナイフ術Lv3、狩猟Lv3、

 魔力感知Lv2、風魔法Lv2、闇魔法Lv4、看破Lv4


【後天スキル】

 調理Lv3、料理-Lv2、暗殺術Lv4、交渉Lv2、盗術Lv2


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