蚊文
黒く移動する
万段、千段の弾き
もありとする
スローモーションの画
鼠色と沈む赤
低空の雲は消えて
杖の音がする
隙間に見える残り香は
青空の終わりを告げて
薄くなってしまったもの
木魚と同じように
箒の音がする
何を片付けるかを
考えているようだ
ガードレールに傘音が広がり
その内側に太陽があれば
元気な声に変わるものだ
違いの無い毎日に
数滴垂らされた墨
残り続けても
変わらないものはある
走り回る声は
世界の事柄を忘れさせて
意味の無さを
繋いでいる
残ったものとするか
残したかったものとするか
わからなくなったら
自分に聞けばいい