8話:1人の見張りは『うずくまる』
日が沈みつつある。
地球の森ですら、夜間の移動は自殺行為。
異世界の森なら言うまでもなく。
「これ以上進むのは危険だな。ここで野宿だ」
小鎗はリーダーとして当然の判断を下す。
理想は洞窟でも見つけるべきなのだろうが。そう都合良くはいかなかった。
「見張りは俺と猫島で交代でいいか?」
そうだな。友方の見張りなんて信用ゼロでむしろ怖い。
物集は華奢な見た目どおりの体力で、限界が見えている。
毒島は俺とあまり変わらない体格だが、下手すれば物集以上に体力不足だ。
「お二方だけにさせるわけにはいかぬでござぁる。せぇ、拙者もするでごぉざるぅ」
肩で息をしながら言われてもな。
「はぁはぁ。私も頑張るよ」
「やった! 僕見張りしないでいいんだね!」
「いや、お前たちは休んでろ。倒れられた方が迷惑だ。見張りは俺と小鎗だけで十分だ」
ムカつくから友方は視界に入れないようにして2人に告げる。
「悪いな猫島、俺1人でできればいいんだが、さすがに無理だ。負担をかける」
「リーダーだからって1人で背負う必要はないぞ。この状況にお前の責任はまったくないんだからな」
「僕お腹減ったよ! 喉も乾いた!」
「そこらの葉っぱが食料だ。食えよ友方」
葉っぱを拾って渡してやる。
「いやだぁぁぁそれマズい! 苦い! 人間の食べ物じゃない! まともな食べ物頂戴!」
渡した葉っぱを手で払われる。
「まともな食料が豊富なら、そもそも追放されてねーよ」
「拾えよ、物集! あのリンゴみたいな果物」
友方はこの1ヶ月、主食のひとつだった果物を物集に要求する。
あれを『物拾い』で拾うのは無理だ。
それができるなら物集が追放されるわけがない。
「は? 自分で拾いなよ。私のスキル誰でも拾える物しか拾えないからさ。キミでも拾えるよ」
普段温厚な物集でも疲れているときにわがままを言われると、我慢の限界のようだ。
「ひぅ」
キレ気味のキミ呼ばわりに怯えた友方は引き下がる。
「疲れてるところ悪い物集。安全に飲める水だけは拾ってくれないか。スキルを利用して識別しないと危険だ」
「大丈夫、任せて。猫島君」
「……チッ。僕と扱い違いすぎない? おホモダチめ」
ホント友方切り捨てたい。だが仮に小鎗の反発をどうにかできても。
こいつなしだと、うずくまる俺に魔物のタゲ集められないよなぁ……。
「安全に飲める水を拾って『物拾い』――拾えたけどごめん、やっぱり泥水みたい」
「いや飲める水ならそれで十分だ、ありがとう。悪い直接飲んでいいか」
「うん。はい猫島君」
小さな両手ですくうように拾われた泥水を直接すすっていく。
っネバネバとジャリジャリ感が喉に来る……。だがスキルを信じるならこれは飲める水。ただ気持ち悪いだけなら、我慢すればいい。
水分補給を優先する――ズズズズズ、すべて飲み干した。
「助かった、物集」
ふぅ、一息つく。
「すまない、物集。俺にも頼む、喉の渇きが限界だ」
「うん――はい、どうぞ小鎗君」
「ありがとう」
小鎗はゴクゴクゴクと俺以上の勢いで飲み干していく。
オーク戦で吼えてたしな、喉が渇いているのは当然だろう。
「拙者もよいでござるか」
「うん。気持ち悪いことは言わないでね――はいどうぞ」
「すまぬでござる。すまぬでござる」
砂漠でオアシスを見つけたような仰々しさで、水を飲ませてもらう毒島。
……やはりクラス2大問題児でも、毒島と友方じゃまったく違う。
「みんなよく飲めるね、そんな汚い水を汚い手から。人としてのプライドはないの?」
やっぱスゲーわ友方。かなり悪い意味で。
「キミは飲まないんだよね」
「聞かなきゃわかんない? 馬鹿なの? 僕に飲んで欲しいなら綺麗な水拾えよ」
「うん……わかった。力不足でごめんね」
ニッコリと微笑む物集。沈むゆく夕日に照らされてゾッとするほど怖い。
この顔は――女子が内心ブチ切れてるときの顔だぜ。
「申し訳ない……拙者、もう限界でござるぅ…………グーグー」
言い終わると同時に地面へ転がるように倒れ。即座にいびきをかいて眠る毒島。
ネットで見たが、どこでもすぐに眠れる才能って軍隊でかなり重要らしいな。
「あはは。葉っぱを敷き終わるまで頑張って欲しかったな」
落ち葉を集めて敷いていた小鎗が、軽い口調で言う。
「役立たずが1番に寝やがった! まあいいや、僕も眠いし……この葉っぱ布団、僕が使うね。おやすみ~見張りよろしく~…………ぐぅぐぅぐぅ」
敷かれたばかりの葉っぱ布団を友方が占領する。
そしてこいつも一瞬で眠ってみせた。
「物集、休んでていいぞ」
小鎗が手伝おうとする物集を静止する。
「ううん。自分の布団ぐらい敷くよ」
「俺も手伝おう」
3人で葉っぱを敷き詰めた後、毒島を持ち上げて葉っぱ布団に運ぶ。
「ふぅ、よし猫島、まず、俺から、見張りを、しよう……」
地球の高校生基準では性格含めて完璧超人に近いイケメンだったが、この過酷な異世界では超人と呼ぶにはほど遠い小鎗。
日が完全に暮れたため、顔は見えないが声からは明らかな疲労を感じる。
「俺は平気だから、まずお前から休め。声がヤバいぞ」
「あぁ……悪い。言葉に、甘える……」
「気にすんな。寝ろ寝ろ」
「すぅーすぅー」
いつの間にか寝入っていた物集の寝息も聞こえてくる。
日が沈んだばかりで寝るには早い時間だが、俺以外全員限界のようだな。
むしろなぜ俺はこんなに元気なんだ? 無傷とはいえ結構ハードな1日だったぞ。
「おやすみ、猫島。適度な、ところで……起こしてくれ……」
「おーけー。眠くなったら起こすわ」
――――拠点での見張り役は戦闘力がある奴とのペアだったから、適当な雑談をしながらこなせていたが。1人の見張りって退屈だな……。
……闇夜に乗じて魔物が来るかもしれない、念のために『うずくまる』を使う。
うずくまりながら、顔だけ亀のように出して暗闇に耳をそばだてる。




