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88話:協力してもらうでござる

「ハアッハハー、邪魔するぜ、マスター・マシュ」


 クランマスター室の地味な木扉を蹴り飛ばし『破壊の杖(ヴァナルガンド)』のマスター、紫界のアウロラが我が物顔で入ってくる。


「……アウロラ殿、嵐真(らんま)殿に治療費は請求したでござるか? まだならば、その扉の修繕費を治療費としてもよいでござるか?」


「ハッハー、七線級にふさわしくない安物じゃねぇか、いい機会だ作り直せ。そもそもお前らの拠点、デカいクセにケチりすぎだぜ」


 軽口で応えるアウロラからすれば、実際ゴミのような価格の扉である。

 しかし『光の意思たち(ライト・スピリッツ)』は金欠クラン。見栄えのためだけに使える資金的余裕はない。


「――同行しておきながら蛮行を止めることができず、申し訳ございません。マスター・マシュさま」


 マスター室への入り口手前で深々と頭を下げる『偉大十字(グランドクロス)』のマスター、聖光のアリア。


「よく言う、テメェが本気なら押さえ込めただろうが」


 灰色の鎧を纏った、戦士として恵まれた体格をもつ偉丈夫。『砕けぬ刃(ツヴァイハンダー)』マスター・古竜剣を継ぎし者アンドレアスが、アリアを横から押し退けて部屋へと入ってくる。


「アンドレアス殿、怪我はもうよいのでござるか?」


「……あぁ。……聖光のアリア(めんどうなあいて)にも借りを作ってしまった。エトランジェ・ランマはどこにいる? 今後俺がどう動けばいいか聞いておきたい」


 握った拳をかすかに震わせ悔しげに声を絞り出したあと、命の使いどころを預けた相手の居所を尋ねるアンドレアス。


「いまは出ているでござる。嵐真殿ならば、メガロドン攻略のヒントを掴み帰還すると信じているでござるよ」


「ハアッハー、そいつは頼もしいな。――ならオレたちは違った動きをしようぜ、マスター・マシュ」


 ニヤリと犬歯をみせながら提案する。


「レイヤからだいたいの話は聞いたぜ。まだいるんだろ? 囚われた彼方の来訪者(エトランジェ)の女が12人も!」


 興奮気味にまくし立てるアウロラ。

 部屋に入り穏やかな顔で直立するアリアも、その内心では彼方の来訪者(エトランジェ)獲得の皮算用をしている。


「同盟を組んでるんだ、率直に言わせてもらうぜ。彼方の来訪者(エトランジェ)が『光の意思たち(ライト・スピリッツ)』に偏るのは望ましくない。――だろ?」


 椅子に座るマシュへ1歩近づき強い口調で宣言したあと、両手を持ち上げながら振り返り、ほかの七線級クランマスターへ確認を取るアウロラ。


「私は彼方の来訪者(エトランジェ)さまには、やはり『光の意思たち(ライト・スピリッツ)』こそがふさわしいと考えております。――無論『偉大十字(グランドクロス)』へ入信していただけるというのであれば、この上ない喜びとなりますが」


「……『砕けぬ刃(ツヴァイハンダー)』の加入条件は厳しい。彼方の来訪者(エトランジェ)だろうと特例はない」


 アウロラにとってアリアの反応は予想の範疇だったが、アンドレアスの反応は想定外であり。虚をつかれた彼女はいぶかしげな視線を男に送った。


「――だが彼方の来訪者(エトランジェ)の救出には協力しよう」


 彼はメガロドン相手に一方的な敗北を喫したことで強者としての自負を崩され、精神面に大きな変化が生じ貪欲な上昇志向を失っている。

 それでもアウロラの誘いに乗ってこの場に同行しているのは、復讐を果たす好機と判断した結果である。


「……そうでござるな。同盟を組んだ以上協力してもらうでござる。ただし救出成功後、そのまま預けると約束するのは無理でござる。物のように扱うことは直樹(なおき)殿が許さぬはずでござるゆえ」


 言外に自分は救出したクランに任せても構わない、ナオキの説得も試みると告げるマシュ。

 アウロラとアリアはその意図を正確に読み取り、アンドレアスは救出成功の報酬など眼中になくただ自らのために、首肯する。


「――よろしいようでござるな。ならば拙者らが持つ情報を開示するでござる」


 マシュはこれまで救出した女子を買っていた相手がコガロ侯爵、プッパス侯爵、推定としてゴヌレ侯爵、全員がワヒイ大公派に属する貴族であったことを伝えた。

 その情報はアウロラとアリアにとっては、事前の予想が裏付けされた程度にすぎない。


「――みなに警告しておくでござる」


 1度言葉を切ったマシュは、これまで以上に真剣な顔で告げ。


彼方の来訪者(エトランジェ)はまだほかに男が14人いるでござる……。そのうち何人が生きており、どのように活動しているかは不明。しかし2人がコガロ侯爵の居城にいて直樹殿が交戦したでござる」

 

 その後マシュは14人の情報。主に天星スキルについて把握しているかぎりを教えていく。もっともナオキが直近で交戦した『よらば斬る』と『待った』以外の情報は、アニマクラスが低かったころのものであり古い。


「スキルランクはいずれも不明であり、現状どれほど真の力を発揮しているか未知数ゆえ、七線級クランであろうと絶対に油断禁物でござる。――場合によっては全力で離脱した方がよいかもしれぬ」


 各自のプライドに配慮し、最後の忠告はサラリと付け加えるようなものだった。


 美しさを追い求めた人形のように完成している白磁の顎に、片手を当てながら話を聞き終えたアリアは尋ねる。


「――事前に確認をとっておきたいのですが、その男たちと遭遇したさいには殺めても構わないのでしょうか? また万が一降伏してきた場合、我々の味方としてもよろしいのでしょうか?」


 きらきらと怪しく光る金色の瞳。(クィーンクェ)の男冒険者とは格が違う。そこに戦意はいっさい込められていないが、マシュは気圧されてしまう。

 マシュの瞳に映る鮮やかなエメラルドグリーンの髪は、さながら(うごめ)く蛇の大群である。

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