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84話:『通り魔』

 ――俺が押さえつけた魔物に毒矢を打ち込み撃破する戦法を繰り返し。8体の魔物を倒したところで、古庭(ふるにわ)が微弱な光を発する。

 現地人メンバーのときは、このやり方で100体倒しても上がらず俺たちは諦めた。

 やはり彼方の来訪者(エトランジェ)にレベルアップ絡みで何かしらの補正がある、という仮説は外れていないはず。


 ……昔と違うのはなんだ。性別? 俺が魔物を完全に押さえ込んでいること? そもそも世界の法則が変わっている?


「きゃぁぁあ」


 あっやば、思考に没頭しすぎた。横合いから現れたオークが、古庭を一撃で絶命させうる巨大な腕を振り下ろす。が問題ない余裕で間に合う、少しだけ力を込めて地面を蹴る――。


「『通り魔』ッ」


 間合いを一瞬で詰め、小柄な古庭を抱え攻撃の射線から回避すると。遅れて柳原(やなぎはら)の声が響く。どうやら古庭を助けようとしたらしい。

 キィィィン。天星スキルによる一撃が、並の武器を弾く緑の皮膚を切り裂き、血しぶきが舞う。


「柳原! そのままたたみかけろ!」


 いい機会だ、このまま1人で倒させれば判明することもある。

 攻撃を食らいそうなときは、即座に割り込める態勢で戦いを見守ろう。


「あーし舐めんな! ――『通り魔』ッ」


 自身を傷つけた相手を血走った眼で睨みながら振るわれた、オークの右腕が周囲の細い木を容易く薙ぎ払い柳原に迫る。それをいまにも転びそうなほど、身を低くして避けながら前進。すれ違いざまに、ふたたび切り裂く女。


「グモオオオオオオオン」


 興奮したオークの視界には柳原しか入っていないようだ。成長に相応の年月を費やしている木々の命を蹂躙しながら、直線的に剛腕を振るい続ける。


猫島(ねこじま)、これ助けた方がいいわ!」


「えっ嘘、待って! オークってこんな強いの!?」


 望月(もちづき)湯崎(ゆざき)が叫び声を上げた。


 寸刻の間に幾度(いくど)も確殺の(かいな)をくぐり抜ける柳原。いまだ危うい場面はなく、茶色の毛先をわずかに散らされたのみ。

 ――(ウーヌム)でこれか、相当運動神経がいいな。


「この、タフすぎ、ミドブタ! 刀の『通り魔』ッ!」


 ザシュウウゥ。

 袈裟(けさ)に斬ったらしく、緑肌豚顔(オーク)の肩から派手に出血。

 しかしなるほど『通り魔』といえば、包丁かナイフのようなイメージになっていたが、刀もありか。


「グ……モ……」


「殺そうとしたの、お互い様だし! フレンズに手ぇ出すの、あーし許さないタイプだから! ――刀の『通り魔』ッ!」


 柳原は息も絶え絶えに膝をついたオークとすれ違いながら、きっちりトドメを刺す。

 ザシュウウゥ。巨体の上半身と下半身が別れを告げ、亡骸は虚空に吸い込まれるように消えていく。

 

 ――オークがクリスタルになると同時、わずか1体の討伐で柳原はかすかな光を放つ。


「おっ、あーしも光ったし!」


 ゲーム的な解釈になるが、経験上この世界でレベルアップに関係するのは攻撃のみ。回復、防御、支援は評価されない。

 魔物を完全に押さえ込んでいたことが攻撃扱いとなり、経験値の振り分けが俺に9割、古庭に1割ぐらいになっていたと考えれば辻褄が合うか。


「……私が柳原さんと友達(フレンズ)……」


 下ろすタイミングを見失い抱きかかえたままの古庭が、柳原には聞こえないぐらいの声で小さく呟く。


「あなたよく魔物と戦えたわね。こっちは見てるだけで心臓止まりそうだったわ」


「あーし、中学じゃ天才剣道少女で通ってたし」


 自慢げにウィンクしながら望月に答えている。剣道してたのか知らなかった。


「ふーん、天才だったんだ。それで高校はなんでギャルしてたの? まさか羽立(はだち)より弱いからとか?」


 ……見下すようなところあったか? くすくす笑いながら湯崎が吐いた言葉の棘が気になる。


「湯崎ビンゴってるけど。うざいよ、それ」


「ちょ、待って。冗談だから! 睨まないで! 羽立相手じゃ仕方ないって、県最強と全国最強の格差みたいな!」


 手をわたわた振って言い訳しながら、味方を探すようにキョロキョロした湯崎は俺で視線を止めた。


「そう! 羽立! 聞きたかったんだけど、なんで『光の意思たち(ライト・スピリッツ)』に11人しかいないの? あとの奴らどこいったの?」


 直樹たちはどこまで説明したのか。そしてこいつらはどこまで認識できるのか。


「……説明がめんどい。帰ったら直樹に聞け。つーか少しは空気を読め、湯崎」


「ヒドい! クラスメイトを心配しただけなのに!」


「話をごまかすための話題だろ」


「ハァー? 猫島モテないね! あっ病んでる犬神(いぬがみ)がいるか? お似合い!」


「――さまはどうした? 『湯たんぽ』女」


 軽く威圧したが一瞬怯んだだけで、すぐにキッと目を吊り上げまくし立ててくる。


「ほら、そうやってすぐ脅す! 暴力男! そもそも『湯たんぽ』女ってなに? 残念なボキャブラリー!」


 あんだけビビってたオークを容易く制圧できる相手に、これだけ舐めた態度とれるのは、ある意味すげーな。

 つーかこいつもスキルについて知らないのか。直樹もなんで教えなかったんだ?

 ……悲惨な目にあった女子たちを戦わせる気がなかった、とかだろうな。


「柳原が『通り魔』と叫びながらオーク倒したろ? あれは異世界転移時に女神から与えられた特別な力、天星スキル。そして『湯たんぽ』がお前のスキルだよ。古庭は『自動筆記』で、望月が『好機直感』だ」


 ムカつくやつだが、そもそもスキル強化がここにきた目的。我慢して教えてやる。


「はぁ? なに『湯たんぽ』って、イジメじゃん! そもそも、なんで猫島が私のスキル知ってるの!」


「――転移時に女神が全員のスキル名を告げたからだな、お前も聞いたはずだぞ」


「…………黙秘権はない! 知る権利が私たちにはある!」


 ふむ、転移後のスキル実験は当然無理だと思ったが、この説明も認識不可か。

 凍結された記憶絡みの判定はよくわからないな。


「……女神がクラスの代表に全員のスキルを教えたから、俺はお前のスキルを知っている」


「何それ、ずるい! 女神が差別した!」


 面倒なので嘘でごまかした。ぎゃあぎゃあ騒ぐ湯崎を無視して、今後の方針を考えようとすると――。


「でさ、猫島いつまで古庭をお姫さましてんの?」


 柳原からツッコまれて意識する。視線を下ろし古庭を見れば、顔と肩に掴まる腕を真っ赤にしている。


「悪い、気が利かなかった」


「ぃぇ……ごめんなさい。ありがとうございました」


 恥ずかしそうに、か細くささやく古庭を地面に下ろし、今度こそ考える――。

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