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81話:本気でごめんなさい

 吹き矢の筒と発見した毒矢をすべて持ち中庭に戻ると、セミロングの茶髪をいじっていた柳原(やなぎはら)に見つかって、思いっきり睨まれた。


「……あーしさぁ、マジ全力だったんだけど?」


「悪い、整理中に懐かしくなって楽しくなる病が発生した」


「それある! アルバム見つけるとアウトなやつな!」


「それそれ」


 両手の人差し指を向けながら、陽キャっぽいノリで同意してみる。


「ってごまかすなし。謝るべきな」


「あっ、それ地雷。オレイラポイントアップ。つーか悪いって言ったぞ」


「本気で謝るときはごめんなさいだし」


 変なところで真面目な奴め。


「ならまず、お前が俺にごめんするべきだな」


「……それな。いま待ってる間、ずっと心当たり考えたんよ、けどマジわからんし。あーし猫島(ねこじま)のこと、なんでそんな怒らせたん? ……けどあーし、あんま頭よくないしマジ謝っとく。猫島、本気でごめんなさい」


 頭を下げられる。

 ――――…………あぁやりにくい。記憶喪失は反則だろ。


「……呼びに行かせておきながら、遅くなって悪かった柳原。……ごめん……」


「なさいがないしぃ」


 頭を上げた柳原が、悪いと思っているが素直に謝れなかった子供を見守る母親のような顔で、微笑みながら言ってくる。


「はぁ? 調子に乗るな! まったく釣り合いとれてねーんだよ!」


「――あのさ。猫島が謝らないといけないの柳原だけじゃないからね。私らもずっと待ってたんだけど?」


 黒髪ショートの女、望月(もちづき)がイラついたように横から口を挟んできた。


「断る。お前たちが先だ」


 集まっている柳原以外の3人に対して、苛立ちを隠さず告げる。


「意味わかんない。はぁ、もういいけど。それでなんのよう? 私らまだ疲れてるんだけど」


 ため息をついた望月は投げやりだ。地球で水希(みずき)と仲がいい相手だったのは知っている。

 根っからのクズじゃなく、実際疲れているんだろうが……それでもムカつく。


「……猫島くん、ごめんなさい。……私、意識を失っている間に、いろいろ迷惑かけたんですよね。見守ってくれて、ありがとうございました」


 古庭(ふるにわ)が申し訳なさそうに頭を下げ、左右の三つ編みが揺れる。

 図書委員でおとなしい少女だった古庭の性格は転移後も変わりなく、追放時の罵倒コールにも参加せずクラスの隅で縮こまっていた。

 アレにノリノリで参加していた女子たちと違い、素直に謝罪するなら許していいと思える。あの状況で俺たちを庇えるような、女子じゃないことぐらいわかるし。


「あぁ、古庭……待たせてごめん」


 この場にいる最後の女子湯崎(ゆざき)はキョロキョロ視線を巡らせた後、望月に追従することにしたらしく、謝る気はないと表情で示してくる。……完全なキョロ充。


「それで柳原、あとの3人は?」


 そう俺はほかの6人を呼んでこいと、たしかに言ったはず。


「それな! 秋口(あきぐち)は部屋でブルーにヒッキーモード。花川(はなかわ)野々瀬(ののせ)はデンパってる」


「……そうか。じゃあしょうがないな」


 秋口はもう少し時間をやってもいいだろう。記憶凍結前、直樹に本気で謝罪したそうだし。なにより猫獣人を助けるのに貢献したのだ、情状酌量の余地はある。


 あとの2人は正直最初から期待していなかった。

 野々瀬は転移後の過酷な環境によって、キャラが崩れ素を出していたが記憶凍結で電波再受信。

 花川は真性。


「本題に入るぞ。お前たちのアニマクラス――レベルのようなものだ、を上げる。つまり魔物を狩りにいくぞ」


 俺が思い出に寄り道したことで夕方近くになってしまったが、テントを持っていけばいいだろう。


「は、いきなりなに言ってんの? 疲れてるって言ったよね、あんた2年で日本語通じなくなった?」


「――ひとつ言っておくぞ。俺にとって水希は親友だが――お前は他人だ」


「ひっ」


 軽く敵意を望月に放つと、小さく悲鳴を上げて尻餅をついた。


「――えっと、猫島さま! 迷惑かけてごめんなさい!」


 湯崎が俺と望月に視線をキョロキョロした後、謝罪してくる。

 ……こいつ、それが通ると本気で思っているのか? 

 睨みつける。ビクッと身を震わせ柳原の背中に移動するがそこでも睨まれて、自分より小柄な古庭の背後に回っていった――。




 ――テントと食材を馬車に積み、異世界転移の初期地点であった王都南東の森を目指す。


 道中の麒麟(きりん)戦跡地では今日も数人が、命をかけて力を求めている。

 一定期間滞在すると体内に神雷がチャージされていく法則が発生しているが、たいていの者は耐えきれず死ぬ魔のポイント。

 ……直樹は『麒麟槍』を起動することで、ほぼリスクなく神雷を扱えることを考えれば両者の格差に憐憫(れんびん)を感じる。


 俺が手綱を握る馬車は危険な跡地を迅速に通り過ぎ、予定していた森への進入口に到達した。


「到着。――日が落ちそうだな。ここでテント張るぞ。森へは明日だ」


「ぅぷ」


 無言で口を押さえる古庭。


「うえぇ、あーし吐きそう。猫島ヘタかよ」


「あ、暴れ馬、死ぬかと思った……ただでさえ疲れてるのに最悪すぎる……」


「私! 生きてる!」


 俺に御者の才能はない、細かい操縦は苦手なんだ。

 ……テントこいつらに準備させる予定だったのだが……俺がするか。


 ――荷台でグッタリしている女子たちを尻目にテントを立てながら、大本命スキルである古庭の『自動筆記』について考える。


 転移後のスキル実験で『自動筆記』はこっくりさん、質問に答えるスキルとして期待された。しかし本当に答えて欲しい質問に反応することはなく。その場にいる誰かが正解を知っており開示できることにしか、答えを得られなかった。


 当時は失望されたが、その性質は誰もが拾える物しか拾えなかった水希の『物拾い』と酷似している。

 つまりアニマクラスを上げて真価を発揮すれば、メガロドン攻略のヒントか答えを入手できる可能性がある! ――まぁスキルランク次第だろうが。


 ……愚賢者ルフフが現れてランク教えてくれないだろうか? チラチラ見るような思いを胸中に浮かばせる。


 …………ダメかぁ。テント完成まで祈り続けたが現れることはなかった。


 ――古庭のアニマを上げて判断するしかない。水希の前例から目標は(クァトゥオル)以上。

 残り日数的にこの選択が外れなら俺は、メガロドン攻略のヒントをなにも手に入れることができないだろう。


 それでも俺は『自動筆記』を選んだ。正解なんてわからない、慎重に悩み続ける時間もない。

 ――鬼が出るか仏が出るか、賽は投げられた。


「おーい、テントできたぞ? ……やれやれ、晩飯も俺が作るのか」


「……待って、あんた料理できるの?」


 積んできた食材を荷台から下ろしていると、望月がかすれた声で尋ねてくる。


「……クラン設立前は料理当番制だったんだけど、俺の担当は水希が代わりに作ってくれてた。……俺も食材を無駄にしない程度のは作れるんだけどなぁ」


「……やめて、私が作る。このうえ不味い飯を食べさせられたら本当に死ぬから」


 失礼な奴め。アニマクラスによる補正がなかった地球ならいざ知らず、いまの俺なら本気を出せば美味しく作れるに決まってる。


「つーか、お前こそ料理できるのかよ? 俺はダンダンとナウメの料理で舌が肥えたぞ」


「人並みには作れるわ。プロとは比べないで」


「じゃ料理は任せる」


 もともとこいつらにさせる気だったのだから、拘る必要はない。食材と調理器具を、這うように荷台から出てきた望月に渡す。

 暗くなってきたので、荷台の外に付けられている『『量産魔導具街灯器(ランプ・ガジェット)』を起動し光を灯した――。

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