80話:こわーっ!
自分の置かれた状況に不安があるからだろうが、拒否っているのに絡んでくる柳原を適当に受け流し。救出した女子たちのスキルを思い出していく。
――『通り魔』『好機直感』『自動筆記』『その場しのぎ』『ときめき光線』『湯たんぽ』『お花畑』――指折り数えて7つ。
メガロドン戦で使えそうなのはあるか? ……スキルランク不明なのが厄介だな。
それでも名称で、だいたいの方向性は予想可能か。
まず前提として、ⅣのレイヤがSS級『氷河期』を使っても、メガロドンを一時的に凍結するのが限界だった。
戦闘系はスキルランクとアニマクラスが、相当高位じゃなければ役に立たない。
「――でさぁ、直樹のやつ、すっげぇマジ泣きしてんの。あーしら別にそんな仲よくね? と思うわけ。アレはイケメンでも、ちょい引く」
ほぼ無視しているのに構わず話しかけてくる20歳の『通り魔』は、Ⅸ戦では外れだろう。『うずくまる』を使わなくても余裕で防げたしな。
スキル名的に役立つ可能性がありそうなのは、望月の『好機直感』と、古庭の『自動筆記』ぐらいか?
あとの4種はクラス実験を思い返すかぎりでは微妙。
ただⅠではまるで真価を発揮していなかった『極小貫通孔』を考えれば、どれもワンチャンはある。
――結論として、まず女子たちのアニマクラスを上げるしかないな。
Ⅳにまでなれば、だいたいのスキルは真価を発揮する……と思う。
「……つっても、Ⅳは選ばれし者の位階なんだよなぁ」
「くわぁに選ばれる? どしたの猫島」
「独り言だ。……柳原、お前ゲームするタイプか? キャラのレベルってわかる?」
「ソシャゲはちょいする、てかレベルぐらい誰でもわかるしょ。つかここネットないのつらくね、王都とか上級ぽいのに田舎より田舎じゃん。あっー! そう思い出した! 気絶の2年であーしのスマホ消えた、どこいったか知らん?」
魔法を利用すればスマホの充電はできるが、電波が通じてないので使い物にはならない。
せめてもうちょい電気の魔法が安ければ、カメラ、電卓、メモ帳代わりとして便利だったろうけど。
「さぁ? 少なくとも俺は知らん。直樹たちも知らないと思うぜ」
「マジでぇ、困るし」
スマホを失ったのは本気でショックらしい。声は沈み、地味なすっぴんも暗色でメイクされた。
「自分で作ってみれば? この世界なら大発明だぜ」
よしんば完成しても、Ⅸの動向次第で世界の法則が塗り変わり、台無しになるけどな。
「無茶振りきたし。あーし、どんな天才よ」
それないわーとジト目で見てくる柳原に、肩をすくめて応える。
――さて、まだ昼前。……メガロドン解放までの猶予はあまりない。
乗り気はしないが、こいつらのアニマクラス上げに付き合うとしよう……。
「おい、スキル強化のためにレベルを上げるぞ。ほかの6人呼んでこい」
「あーしがパシるん? つか別にあいつらと仲よくないんだけど」
……たしかこいつが所属してたギャルグループは、隣のクラスがメインだったか。
「友達ごっこするわけじゃない! つーかお前らこの異世界で弱いままだと、また悲惨な末路になるぞ!」
「……区切り悪くね? 弱いままだとの、続きどしたん?」
悲惨な末路になるぞは認識できないのか。つーかこいつら肉丸たちと遭遇したらどうすんだ、普通にクラスの男子として認識してしまうだろ。
……まぁ俺が考えてやる義理も義務もないな。
助けた責任とかいうものがこの世に存在するとしても、こいつらに対してそれが発生するのは直樹にだ。
「……魔物に殺されるぞ。この異世界、マジで危険な魔物だらけだからな」
「こわっ。あーしまだ魔物見たことないけど、熊獣人より強いん?」
「覚えておけ、この世界は見た目よりレベル――アニマクラスが重要だと。だから6人を呼んでこい、俺は倉庫から武器を取ってくる」
「……その武器って、まさかあーしらが使って、魔物と戦うん?」
ッお客さま気分はやめろ。――いや、落ち着け俺。
いまのこいつらは――高校授業中にいきなり異世界転移、しかも意識不明になり目覚めたら2年が経過していた――と認識しているのだ。
これで普通の女に即順応しろというのは、さすがに酷というもの。
「――俺が魔物を倒して、お前のレベルが上がると思うか?」
額に片手を当てながら首を軽く振り、湧き上がりそうになった怒りを抑えた声で言う。
「あーしのソシャゲ、マップクリアすれば全員上がったし」
「とっとと呼んでこいッ!」
「こわーっ!」
中庭から飛び出すように走り去っていく柳原の背中を見送った――。
――クラン拠点2階に上り、ちょい貴重な装備用の武器庫に移動する。
「どこにあったっけ」
武器庫内はきちんと整理整頓されているが、求めているのは吹き矢であり視線を一周させても見つからない。
棚にしまわれた木箱のどれかだろうが、聖弓を持つ俺には基本的に用がない場所だからな……。
眞朱に聞けば1発。聞きに行くのと自分で探すのどっちが早いか。急がば回れというけれど、怠惰もまた人である。
念話の指輪がトリウィア以外にも通じれば便利なんだけど……。これは贅沢か。
……やっぱ地球の科学はすごかったなぁ。
入り口近くに置かれている机の引き出しを空けていき、収納場所が記載されている目録を探すが見つからない。
「……もう勘でいこう。よし、これだ! ――外れか。こっちか! 外れだけど見覚えがあるぞ、これなんだっけ」
――結局当たりを引くまで、吹き矢が入ってそうな木箱を片っ端から開けることになった。
その後の片付け時間を考えると、聞きに行った方が早かったと思う。




