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79話:目覚める女子たち

 ――カリナに複製してもらった書類を手に拠点へ帰還すると、妙に慌ただしい雰囲気だ。

 何かあったのだろうか? まぁ緊急なら拠点に残っていたトリウィアから、念話がくるはずなのでそれほどの問題じゃないだろう。


「はにゃにゃにゃ」


 タイミングよくモモが、タオルと水を張った洗面器を持ち足音を立てず廊下を走ってくる。


「どうしたモモ、何があった?」


「ランマさま! 眠られていた彼方の来訪者(エトランジェ)さまがひとり、お目覚めになったそうです!」


「――なるほど、それでバタついてるのか」


 ……どうしたものかね。記憶はどうなったのか。

 レイヤの狙いどおり転移後のすべて――俺たちを追放したことや、肉丸(にくまる)たちに弄ばれ奴隷として売られたことを忘れているか?


「ランマさま、いきましょう!」


 トモカタ派と違い、救出した女子たちに敵愾(てきがい)を持たないモモ。

 彼女に手を引っぱられるまま、歩を進めることにする――。




「うぅ、甘那(かんな)ちゃん。ごめんね、私なにもできなくて」


「えっと、水希(みずき)ちゃんなんだよね? なんか大人っぽいし……美人すぎない? ……ごめん、状況がさっぱりわからない。ここどこの病院? なにがあったのかな」


 病室に入ると、ベッドのうえで身を起こした望月(もちづき)に抱きつきながら、水希は涙を流していた。

 完全に困惑している望月の顔――そこからは敵意も謝意も読みとれない。

 記憶凍結は無事成功か……ほか6人はまだ眠っているが、じきに目覚めるのだろう。


「ミズキさま、タオルと水を持ってきました」


「ありがとう、モモちゃん」


 水希は目を指で拭いながら洗面器を受け取る。


「あっ猫島(ねこじま)もいるの? ……あんたは服以外普通ね、それゲームキャラ? コスプレ趣味とかあったの? ……というかねぇ、本当なにがあったの。その子耳が……なんか猫っぽいし……? これ夢?」


「ハッ、知るか! ――まぁよかったな、望月! 水希(みずき)直樹(なおき)、レイヤに感謝しておけよ。俺は知らん!」


 言い捨てながらグレーローブを翻し、病室を後にする。


「ちょっ! なにその態度? わけわかんないんだけど!」


 俺の態度が悪い? ――これぐらい当然の権利だ! 抗議の声はガン無視。


 ……状況は直樹たちが教えるだろ。しかしどこまで説明するのやら。

 記憶凍結を教えたら解除されたりするか? ――それはないか、SS級天星スキルがその程度で突破されるとは思えない。


 書類を持って部屋に戻る。……朝より散らかってやがる。犯人はどこにいった?

 紙束を置き、部屋を見渡すが見当たらない。


(病室にいなかったが、どうした?)


 意識を集中し念話の指輪を使う。


(ふむ。天星スキルによるアニマ干渉の解析がまるで進まなかったので、歩きながら未熟さに恥じ入っていたところさ。魔法の限界を感じるね)


(よくわからんが暇なら『始祖氷狼(ハティ)』の件、応募してきた『魔導具職人アーティファクト・スミス』の書類を複製してもらったから選んでくれ。俺には誰が優秀なのかさっぱりだ)


(――――――あぁ! 任せたまえ)


(おい待て、いまかなり間があったぞ。まさか忘れていたのか?)


(――長生きの秘訣を教えてあげよう。――ほどよく忘れることさ)


 (ノウェム)のクリスタル絡みだぞ? 普通なら気になりすぎて、ほかのことがなにも手につかなくなるレベルだと思うのだが……。


(……そうか。あと望月が目覚めてたけど知ってたか?)


(なに? 彼方の来訪者(エトランジェ)が目覚めたのか? それを真っ先に教えて欲しかったね)


(そんなに重要か?)


(――ランマ、物事には優先度がある。私は書類よりも目覚めた彼方の来訪者(エトランジェ)を優先するぞ!)


 どうにも、俺の女子たちへの評価が周りと一致しない。まっ重要度を意識的に下げてるのは自覚してるけどな――――。




 ――――結局それから数日、トリウィアは次々目覚める女子たちの検査に目を輝かせ、書類は確認してくれなかった。


「――ふぅ」


 中庭で木の椅子に腰かけ息を吐く。結局この数日でメガロドン討伐に役立ちそうな情報はなし。こうなるとレイヤが示した案――女子たちの天星スキルを使うことも考える必要があるな……。


 メガロドン攻略に使えそうなスキルの持ち主はいたっけか? 目をつむり、記憶から女子たちのスキルを思い出そうとしたタイミングで声をかけられた。


「猫島、なにしてんの?」


「――別に」


 ぶっきらぼうに返答。

 記憶を失い目覚めた女子のひとり――柳原(やなぎはら) 美佳(みか)

 スキルはなんだっけ……たしか『通り魔』だった……かな?


「あーしさぁ、よくわかんね。この状況ってなんなん? 授業受けてたら2年過ぎてて異世界ってわけわかんねーし。つーかマジ、一瞬で2歳老けるとか、これエグくね?」


 茶髪をかきあげ隣に座りながら言ってくる女。

 ……地球では化粧が濃ゆいギャルと思っていたが、いまはすっぴん。地味な印象になった、口調は変わってないが。


「――知るか、成人おめでとおばさん」


「キッツ、当たりマジキツ、えっなにそれ? あーし、猫島になんかした?」


 ……凍結された記憶絡みの情報は、教えても認識できないらしい。便利な脳みそ。


「――死地に追放とかどうよ? お前なら笑って許せるか?」


「……? いまなんて言ったん?」


 別に小声だったわけじゃない。


「おめでたい脳みそって言ったんだよ」


「あーしのことバカにしてんの? ……つかさ、なんであんただけ変わってないん? 直樹とかイケメンマシマシなんだけど、あと毒島(ぶすじま)がヤバいね、バグってる。なんで普通の髪型になってんの? しかもむっちゃイケメンだし。まぁござるが、キモくてマジねーけど、顔だけってやつな」


 ……こいつ言いたい放題だな。眞朱(ましゅ)はキレていいと思う。

 しかしあのござる口調、現地人にはまるでツッコまれないんだよなぁ。

 普通に聞こえているのか、彼方の来訪者(エトランジェ)だからツッコめないのかどっちなんだろ。


「お前さぁ、俺、眞朱のダチなんだけど? 目の前で悪口かよ? そもそもこのクランのマスターだぞ」


「いや、あーし褒めたじゃん」


 嘘だろ、さっきので褒めたつもりだったのか!?


「やっぱギャルって常識ねーわ。あー、やっぱ訂正、まともなギャルに失礼だな。やっぱ柳原ってマジ常識ねーわ」


「即訂正ウケる」


 なにが楽しいのか、腹を押さえて笑ってやがる。わけわからん。


「いやー、あはは。――変わってない奴いてよかったわ。当たりキツくなってるけど。犬神(いぬがみ)いねーぽいし、試しにあーしと付き合ってみね?」


「論外それねーわ。あと雷禍(らいか)は関係ない、ただの幼馴染みだ」


 ……あいつ追放時も素知らぬ顔で俺を見送ってたんだよなぁ。

 行動原理は俺のためだろうが……思考方向がヤバい。

 日本の法から解き放たれたあいつは、この異世界で何を目論んでいるのやら。


 ――考えても無駄だな。雷禍の対応は行動を起こしてきてから決めよう。

 

「……マジショック受けた。即答エグいし。あーしも無敵メンタルじゃないんだけど? もちっと優しくしろし」


 そりゃな、無敵メンタルなら奴隷にされて正気を失ったりしないだろうが……。


「お前に優しくとか、マジ無理」


「はー? つか話ずらしたっしょ! 猫島だけなんで老けてないん? ずるくね? 魔法ってやつなら、あーしにも教えて欲しいんだけど」


 言われてみれば答えてなかった。別に意図してずらしたわけじゃないが。


「天星スキルの効果だ。俺のスキルは『うずくまる』――という名称の絶対防御、老化すら防ぐ効果を発揮する」


「『うずくまる』ってどうやって使えるようになるスキルなん?」


 ……待てよ。凍結された記憶絡みのことを教えても認識できないということは、こいつらに自分の天星スキルを教えても認識できないのでは? もしそうなら完全な役立たずになるぞ。

 この質問自体、直樹たちがスキルについて教えていない結果なのか、教えようとしたが認識できなかった結果なのか俺は知らない。


「…………天星スキルはそういうんじゃない。俺たちがこの異世界にクラスごと転移するときに、女神から与えられたものだ。俺とお前のスキルは違う。俺のスキルをお前は使えない、それぞれの固有能力だ」


 っどうだ認識されるか?


「ふーん、ならあーしのスキルってなんなん?」


 とりあえずここまでは認識できたようだ、すっとんきょんな顔はしていない。


「たしか『通り魔』だな」


「はい?」


 ッダメか。


「あーしに『通り魔』って、いや、それないっしょ。えっ、マジなん? えっ、女神ヒドくね?」


 ふぅ、驚かせやがって。天星スキルは認識可能、これは朗報だ。


「スキル名を気にしてもしょうがないぞ。『湯たんぽ』とか『枝切り』とか『ときめき光線』よりマシだろ」


 パッと思い出した、女子たちの外れっぽいスキル名を口にする。実際外れかはランク次第だが。


「その3択、あーし的に『ときめき光線』は『通り魔』より、ありあり」


「ハァ? 『ときめき光線』ってガラかよ。お前は『通り魔』がお似合いだよ」


「猫島! よく言ったし! とりゃああ! ――『通り魔』ッ!」


 ――柳原が椅子から立ち上がり、俺の前を通り過ぎながらスキル名を宣言。

 キィィィン。

 とっさに持ち上げた右腕へ、刃物で切りつけられたような衝撃が走る。


「――おい、柳原それ洒落になんねーぞ、相手次第じゃいまので殺してたからな」


 転移直後のスキル実験を思い出したが、こいつのスキルは(ウーヌム)でもそこそこの効果を発揮していた。女だから拠点班だったが、バリバリの戦闘系スキルだな。


「ちょ、ちょ、えぇ! いまなんかすご。あーしなんか飛ばした感覚ある」


 テンション上がって人の話を聞いてねぇ。


「これがスキルかぁアガる。でこれであーし若返るし?」


「絶対とはいわねーけど、たぶんねーわ。――俺のように若さを保てず残念だったなぁ『通り魔』の柳原美佳20歳」


 皮肉をたっぷり込めて言ってやる。

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