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7話:方針決定

 ――これほど早く倒せるとは。もう少し時間がかかると思っていた。

 わが身を顧みず暴れたことで、毒の巡りが加速したのだろうか。


 オークの死体は探索班から聞いていた通り、またたく間に消滅した。

 死体を消さずに保存できるのは月島のスキル『氷河期』だけらしい。

 ――何かキラリと光った気がするが、地面を見ても何もない。気のせいか。


「ッうをおお」


小鎗(こやり)君? 何で光ってるの!?」


「これは……探索班の言っていたレベルアップでござる!」


 これがレベルアップか、拠点班の俺が見るのは初めてだ。

 魔物を倒すと、たまに体から光が放たれて身体能力が少し増加するらしい。

 クラスではレベルアップ現象と名づけられた。


「えぇ何か不公平だなぁ。僕もスキル使ったのに、レベル上がってないよ?」


 友方(こやり)が愚痴る、たしかに不公平感はあるな。

 ターゲットをコントロールした友方以外も、攻撃を受け続けた俺や、武器を用意した毒島(ぶすじま)物集(もずめ)もレベルは上がっていない。

 この世界では盾役や支援役は評価されないのだろうか。


「悪いな、みんな。俺だけレベルアップしちまって」


 発光が収まった小鎗が申し訳なさそうに言う。

 

「おいおい、何言ってんだ。全員無事で魔物を倒したんだぞ。リーダーがそんな顔すんなって」


 雰囲気を暗くしないためにも、馴れ馴れしく小鎗の首に手を回しながら言う。

 ……これはいきなり距離感近すぎたかも。

 オークを倒したことで俺もテンション上がってるな。


「そうでござるよ! 小鎗殿は英雄でござる」


「うんうん。あの化け物にゼロ距離で吹き矢とか凄い覚悟だよ」


 毒島と物集もノってくれる。


「僕も直樹だから許すよ」


「みんなありがとな。最高のダチだぜ!」


 リア充って妙にダチ認定早いよな。

 俺的には拠点班で友達といえるぐらい、仲がいいのは物集ぐらいだ。


「ご、ござるぅ!」


 遅れて恐怖がきたのか、毒島が泣き出した。


「せ、拙者。友ができたのは生まれて初めてでござるぅ。小鎗殿ぉ!」


 あぁ……そういう涙か。

 滂沱(ぼうだ)の涙で飛びかかる毒島を、ガッシリ受け止める小鎗。

 やべーわ。いっさいキモがらないとか、凄すぎる。


猫島(ねこじま)君は大丈夫? 怪我はない?」


 物集が心配そうに覗き込んでくる。


「あぁ平気だよ。まさか『うずくまる』がこんな無敵防御スキルだったなんてな。予想外すぎる」


 腕を上げ力こぶを作って、傷ひとつないとアピールする。

 俺自身だけじゃなく、着ている制服すらあれだけ殴られても無傷だ。


 ……クラスの奴らがもっと乱暴者で、うずくまる俺に暴力を振るうような奴らだったなら、もっと早くこの効果に気づけたんだろうな……。

 ……最初のころは一致団結できてたんだよなぁ……。


 俺たちが追放されたときの、異常すぎるクラスメイトたちの反応を思い出すと、某大学の監獄実験を思い出して仕方がない。


 強い力を持つ看守役と、持たない囚人役が狭い空間にいっしょにいるとき、次第に強者側の歯止めがきかなくなり暴走していくらしい。

 しかも本来の性格と関係なく、与えられた役割だけで歪んでいくらしいからな。


 地球では木村も友方と比べると遥かにマシな、小鎗取り巻きの1人だったんだが。


 ……だからといって理不尽な追放を許せるわけでない。

 お前が追放したらどうなるかも考えられない馬鹿だとしても。

 気づいたときに追放を撤回しなかったのだ、お前の罪は変わらない。


 木村、いずれこの借りは返すぞ。俺は小鎗ほど人間できてないからな。


「ところでさぁ。何でさっき誰も僕を立ち上がらせてくれなかったの? ひどくない?」


 1人ほっとかれて、つまらないのか友方が絡んでくる。


「あぁ悪い拓也(たくや)。俺は猫島をどうやって助けるかで頭がいっぱいだった」


「そもそも自分で立てたではござらんか。甘えるのも大概にするでござる」


「友方君を立たせてあげたら、真っ先に逃げたでしょ?」


「ちょっと待って! 僕の『告げ口』で猫島に魔物を向けなきゃ、みんなやばかったんだよ? ちゃんと僕の活躍と重要度わかってる?」


「わかってる。拓也、助かったありがとな」


「ふふん」


 小鎗に礼を言われた友方は満足げに、マウント顔でどやってくる。うざい。


「それでこれからどうする?」


 友方に構わず、建設的な話をしようと小鎗に問いかけた。


「そうだな……俺たちのスキル連携で魔物を討伐できたんだ。そもそも追放されたのはスキルが使えない判定だったから、いまなら外れとはいえないしクラスに戻れるんじゃないか? とくに猫島と物集のスキルは、かなりの当たりだろ」


「私のはともかく……猫島君の『うずくまる』はたしかに凄いね。あんなに殴られたのに無傷なんだもん」


「だとしても、いまさら戻って。死地に追放した相手と仲良くできるか? はっきり言って俺には無理だ」


 小鎗にならできるのかもしれないが俺は無理。きっぱり拒絶する。


「拙者も猫島殿に同意するでござる。奴らの罵詈雑言が耳に残ってるでござるよぉ」


 喜びの涙が悲しみに変わりそうな震え声で毒島が言う。

 意外と打たれ弱いなこいつ。何でそんな我が道を行く系の髪型と口調してるんだ。


「ゴミクラスに戻るなんて論外でしょ。ていうか僕らのパーティーアイツらより強くない? 猫島盾にして僕が攻撃させれば無敵じゃん」


 自慢げに俺にタゲを集めるという宣言。

 合理的だし俺もそれが最適と思うが。友方が言うとくっそムカつく。


「私もクラスに戻るのは、ちょっと嫌かな……」


「そうか……わかった、戻るのはなしだな」


 心なし声が沈んだ小鎗。

 ひとつの案として、いちおう言ったわけじゃなく。

 ガチ提案だったのか!? やべーわ、コミュ力のお化け。


「それじゃあ、これからどうする?」


 今度は小鎗が俺に問いかけてくる。

 やれやれ、サブリーダーみたいなポジションになってるな。

 だが俺がしないと、友方が無責任にやりたがるのは明白。

 ――やむを得ないか。


「……木村たちと同じ方針しかないだろう。森でのサバイバルは限界だ。葉っぱを食べて泥水をすすって魔物を倒しても、ここじゃ先がない」


「そうだな。この世界のどこかに地球に戻る方法があればいいんだが……」


 小鎗は地球に未練があるか……何も不思議ではない。むしろそれが普通だろう。


 ――だが女神は、2度と地球に戻れないあなたたちへ送る選別として、スキルを与えると言った。

 帰還を目標にするのは――。


「そうだよ! 僕お風呂入りたい家族に会いたいよ……」


「拙者も大河を楽しみにしていたでござる……」


「友方君と同じ感想は(しゃく)だけど。私もお風呂入りたいし家族に会いたいな……」


 ――いや、余計なことは言わない方がいいな。

 行動するためには希望が必要だ。


「みんなの想いはひとつだな。森を出よう、そして地球に帰る方法を探そう!」


 小鎗がリーダーとして方針を宣言する。


「そうだな!」


 俺は生活の利便性以外で地球に未練はないが、和を乱さないよう同意しておく。


「ござる!」


「はい!」


「うん! どうせならクラスの奴らより早く見つけてさ。アイツらに帰りかたをチラつかせて教えて欲しいならって土下座させちゃおうよ! そんで教えずに僕らだけで帰るの! むふふ。最高のざまぁだね」


 平常運転の友方。

 ……こいつの辞書に和という言葉はないのだろうか。

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