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75話:経緯を教えた

 ――愚賢者ルフフの転移がどこに出るのか若干不安だったが――。


「ほう、空間転移してくるとは――この力は愚賢者かな」


「主さまにゃー!」


 実体化して飛びかかってきたナウメを、起き上がって受け止め。


「あぁ、メガロドンに飲み込まれそうになったんだが、寸前で愚賢者ルフフに助けられた。俺たちの味方ではなく、ただの気まぐれらしいが……」


 ふわふわの猫耳を撫でながら、トリウィアの疑問に答える。

 周囲を見渡すと――平野に立ち思案顔のアリア、そのやや後方で直立するリノ。

 ほかのメンバーは疲れたのだろう、地面に座りこんでいる。


 ――そして空中海が遠くに見える。

 ルフフは脱出した仲間のもとへ転移してくれたか。


 ……これでいい奴と判断するのは危険だろうな。気まぐれで助けるということは逆もありえるのだ。

 反則的な力を持つ愚賢者が敵に回ったらと思うと、ゾッとする。


 ――それでも正直助かった。ありがとうルフフ。心のなかで礼を伝える。


「――全員に報告しておくことがある! 愚賢者ルフフは知っているか? 愚賢者はメガロドンをしばらく……推定14日ほど北西部から出ないようにしてくれると言った」


「愚賢者って実在したんですねぇ、レア血ぃ欲しいですよぉ」


「――かの愚賢者さまより助力を得られるとは。ランマさまはやはり特別なお方ですね」


 アリアの微笑みは優しく包み込むようだが――なぜか苦手だ。


「……14日程度、時間を稼いでどうなるというのだ……」


 フードを降ろし無愛想な顔を晒した、30代後半に見える『破壊の杖(ヴァナルガンド)』の男が疑問を漏らす。


「クラス上げの好機じゃなかったのかよ?」


「……正直(ノウェム)を過小評価していた。ランマさまから麒麟(きりん)戦の真実を聞いた後ですら……」


「――お前もここで降りるか?」


 『破壊の杖(ヴァナルガンド)』はマスターが来ず、やってきたメンバーもすでに3人降りている。

 この男はおそらく『破壊の杖(ヴァナルガンド)』の実力ナンバー2だと思うが、無理に引き止める必要はない。


「…………相手が(ノウェム)では微量だろうが……。それでも俺は戦力になる。ならば勝率を減らす真似はしない」


 回りくどい言い方だが、降りる気はないか。


「僕もここで降りる気はないですよ。――プライドがありますから」


 自信ありげだった『破壊の杖(ヴァナルガンド)』の男は悔しげに言ってくる。


 ――『偉大十字(グランドクロス)』の方はアリアが折れないかぎり、死ぬまで戦う気がする。


「よし、多くはないが時間はできた。――体力、魔力が限界の者もいる、1度拠点へ帰還しよう。そして各自メガロドンの討伐方法を考えてみてくれ」


 方針を決めて号令を下す。


「ランマさまぁ、レイヤさまはどうするんですかぁ?」


 あー、そういえば自滅で硬直してたな。


「ナウメ、レイヤはどうなってる?」


「にゃうーん。――まだ解けてないようにゃ」


 ナウメ島を確認するためか目を閉じた後、教えてくれる。


「ということだ。あいつは俺がどうにかしておく、それでいいか『破壊の杖(ヴァナルガンド)』」


「構いませんよ。レイヤの氷を解かすのはマスターでも難しいでしょうから。……まったく自分を凍らせるなんて馬鹿ですね」


 言葉は辛辣だが、悪意は感じない。

 ――レイヤはクランメンバーたちと、そう悪い関係ではないようだ。


「――ランマさま、14日は確定ではなく推定なのですよね? 差し出がましいようですが、見張りを残しておくべきではないでしょうか」


 アリアが進言してくる。

 トリウィアなら魔法で見張れないかと考えたが――『光の意思たち(ライト・スピリッツ)』が貢献度を稼ぎすぎるのはよくないと思い直した。


「たしかにな。――アリア『偉大十字(グランドクロス)』に任せられるか?」


「承りました。――リノお願いします。何かあれば念話で報告を、交戦は絶対に回避するように」


「ハッ!」


 威勢がいい返事。

 疲れてないのかと思ったが、リノはメガロドンへの攻撃に参加していなかったな。


「1人で平気なのか?」


「お気遣いはいりません。私は光がある空間ならば休みなく活動できます」


 リノの天星スキルか? 気になるが特別親しいわけでもない。

 スキルが生命線のこともある。同盟を組んでいるとはいえ、詳細を聞くのはマナー違反だろう。


「わかった、見張りは頼んだ。アリアも言ってたが、メガロドンとは絶対に戦うなよ、仮に北西部から出そうでもだ。――流血で興奮させてしまうと、(オクトー)の俺でも反応すらできない速度になることを確認した」


 ――頷くリノを残し、俺たちはそれぞれのクラン拠点へと帰還する――。




 ――王都の拠点に戻ると、直樹(なおき)たちは女子の救出に成功していた。

 そしてトリウィアの言葉を疑う気はなかったが、北西部の外では本当に数日経過しており驚愕してしまう。

 レイヤのスキルを極めれば、愚賢者のような真似もできるようになりそうだな。



 ――クランマスター室で直樹から救出時の話を聞いた。


「タイガーとタイムねぇ。……ずいぶんイカしたコードネームだなぁ」


 肉丸(にくまる)どもやりたい放題だな、ゲーム気分かよ。

 しかも猫獣人にまで手を出すとは、本当に許せない。


「……にゃうーん。主さまそいつら見つけたら、ぶち殺していいにゃん?」


 ナウメもお冠だ。


「――いや、肉丸どもとはこの手で決着をつけたい。まぁ優先権は直樹にあるが」


「……悪いな、嵐真(らんま)、ナウメ。弾吾(だんご)たちは俺に譲ってくれないか? 誓ったんだ、この手で葬ると」


 自らの手を見つめながら力強く告げてくる。

 ――正直、直樹はどんな悪人が相手でも、手を汚すのは向いてないと思う。


「……俺が殺るのはお前にできなかったときの話だ。だから無理するなよ、直樹」


「しょうがないにゃぁ、猫獣人たちも助かったみたいだし、ナオにゃんに譲ってあげるにゃん」


「2人とも、ありがとな!」


 物騒な会話の内容と似つかわしくない、満面の笑顔で礼を言われる。


「……ところで話に出てこなかったが、コガロ侯爵はどうなったんだ?」


「――コガロ侯爵の行方は全力で捜索していたでござるが。昨日王城前に遺体が磔られていたでござる。下手人は不明、調査中でござる」


 七線級クランのマスターとしては地味な椅子に座り、黙って話を聞いていた眞朱(ましゅ)が答えてくれる。

 ……遺体を磔か。この世界で死体を残す手段は極めて珍しいが、いったい何者だ。


「……このタイミングで俺たち以外に暗殺されたのか?」


「現状もっとも怪しいのは亜人連合でござるな。コガロ侯爵は亜人狩りに積極的でござった。恨む者も多いはずでござる」


「因果応報、当然の報いだ」


 頷きながら言う直樹。

 ……ここまで過激だったろうか? 悪党だろうと死ねば悲しむ男だった気がするが……。

 敵の非戦闘員を殺してしまった件、折り合いをつけられたと思っていたが、少し不安になってきた。


 ――譲ると言ったが、俺が先に肉丸たちを仕留めた方がいいかもしれない。


「――嵐真、俺は大丈夫だから、そんな不安そうな目をするな。それじゃ俺は弾吾たちを探してくる、お前より早く見つけないとな! よければ秋口(あきぐち)たちの見舞いにも行ってくれ、全員ケライノに眠らせてもらっているが……。どうにか心を救う方法、見つけないといけないな、それも探してくる」


 まくし立てるように言ってから立ち上がり、直樹は部屋を出て行った。


「……眞朱、直樹のメンタル大丈夫だと思うか?」


「うむぅ……少し疲れているのは間違いないでござるが。肉体ではなく心の場合どうすればいいのかわからぬでござる……」


 そうなんだよなぁ。あのトリウィアですら心の治療はさじを投げた。


「主さまはナウメ島で凄く気持ちよさそうだったにゃ。ナオにゃんも招待してみるかにゃ?」


「うーん、俺なら最高の癒やしになるがなぁ」


 直樹からは猫好き(どうるい)の匂いがしないんだよなぁ。

 猫好きなら絶対反応しそうな、巨大猫形態のナウメを見たときも真顔だったし。


「……島に招待はやめとこうぜ。猫好きじゃなきゃ楽しめないと思うから」


 猫に興味がない相手を、強引に猫カフェへ連れて行ったときの空気はごめんだぜ。

 そう、この世に猫で癒やされない人間がいるなんてと絶望するハメになる!


 話の最後に眞朱からアウロラがしてくれた猫獣人の治療代金は、俺に請求されることになったと聞かされる。なぜそうなった。

 まぁ猫獣人の治療費を払うことに異論はない。無論、常識的な価格にかぎるが。




 ――そして眞朱と別れた後、ナウメ島へやってきた。


 ニャーニャーニャーニャー。

 ニャニャニャン。

 ニャオーン。


 視界一面の猫パラダイス。

 だが今日は遊びに来たわけではないのだ。


「ナウメ、レイヤはどこだ?」


 足下に近寄ってきた茶猫を撫でながら尋ねる。


「こっちにゃ」


 巨大猫形態のナウメが二足歩行で進んでいく。

 名残惜しいが茶猫を撫でるのをやめて、後に続く。


 ――仰向けでごろにゃーんとしている子。くっつきながら丸くなってる子たち。

 優雅に歩いている子。元気に走り回ってる子たち。

 歩いているだけで癒やされる空間を堪能――。


「ここにゃ! 念のため結界がある建物に置いたにゃ」


 ナウメをモチーフにしてそうな銅像が設置された神殿に到着した。

 石造りの廊下を進んでいくと広い部屋に出て、その中心にレイヤがピクリとも動かず突っ立てる。


「――見た目は氷漬けじゃないんだがなぁ」


 体だけが硬直しており、軽く叩くといい音が響く。


「どうにかするとは言ったけど、実際どうすっかな」


 アリアに頼んでみるか? ――いや、できるなら名乗り出ていただろう。


「――まぁ試してみるか、『うずくまる』。ナウメ、レイヤを持ち上げて俺の上に落としてみてくれ」


 思いつきを実行しようと、うずくまりながら指示を出す。


「了解にゃん」


 白黒の腕に持ち上げられるレイヤ。

 ――さて絶対防御にぶつけたら、どうなるか。


「いっくにゃー!」


 俺が試したいことを理解してくれたのだろう。

 ナウメは胴体を伸ばし、ほどほどの高さになってから手を離した。


「――ぎゃぶぅ」


 お、いけたか。うずくまっている俺に激突したレイヤは、変な悲鳴を上げる。


「ふっ、天星スキル対決は俺の勝ちだな」


 トリウィアですら干渉できない凍った肉体、考えようによっては凄まじい武器。

 よって天星スキルで自らを凍らせ、肉体を武器化したという解釈もできる。

 なら『うずくまる』にぶつければ、攻撃――肉体の凍結を無効化できるのではないか、という閃きは成功した。


 ――しかしこいつ、凍った肉体のまま戦えれば、ほぼ無敵の戦士になれそうだな。


「……っう、いったい何が……そうです! メガロドンはどうなりましたか?」


「凍ってる間の意識はなしか。――まず俺の上からどけ、レイヤ。話はそれからだ」


「これは失礼」


 身体機能に問題はないらしく、速やかに立ち上がってくれた。

 俺も『うずくまる』を解除、その後状況を説明してやる――。



「……私の攻撃では倒せず。14日程度の猶予ですか」


「あぁ、お前も何か手を考えろよ」


「そうで%E

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