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74話:空中海からの脱出

 空中海をトリウィアの移動魔法によって、吹き飛ぶように横断する俺たち。


 ――大怪獣メガロドンが追跡してこないことを祈っていたが、願い叶わず。


「ロドオオオオオオオオオオオオオオオオンン」


 レイヤの氷を食べ終えたか、それとも飽きたのか。漆黒のサメは咆哮を放ちながら距離を詰めてくる。


 ――無理だな、このままじゃ追いつかれる。


「『ワンダースワール』」


 メガロドンの方へ振り向いたトリウィアが指を弾き、魔法を行使した。

 俺たちの背後、迫りくる追跡者にとっては進行方向に銀の巨大渦が作られる。


 魔法の効果は知らないが、(ノウェム)に効くのだろうか?


「ドオオオオオオオン」


 メガロドンに回避という思考はないのか、躊躇なく渦に食らいつく。


「あれの効果は?」


「拘束魔法なのだが――おやつを与えただけのようだ」


 悠々と泳いでくる漆黒のサメ。

 トリウィアでこれだと、足止めできそうなのはナウメしかいない。


 しかし仮にこのまま空中海の外まで逃げることができたとして、メガロドンはそこで止まるのだろうか? 隔離は解けている。

 もしその先に追ってこられたらどうなる、迎撃の備えなどなにもない。


 ルミガ王にぶつければ、守護神獣『山羊の悪魔(バフォメット)』が排除するだろうか?

 ――だが、あれを王都にまで引き連れていけば何人死ぬ? 


 ……そこには、俺の仲間や知り合いも含まれるだろう。


「トリウィア、俺に攻撃を集める手段、あるにはあるんだろ? 物は試しだ、使ってくれ」


「ふむ――残るのか?」


 赤い瞳が覚悟を問うてくる。


「あぁ、俺があいつの興味を稼ぐ。――メガロドンを空中海の外に出してはいけない」


 真っ向から視線を受け止めながら答える。


「――飲み込まれたら、誰にも助け出せない可能性が高いぞ? キミの天星スキルを考えれば、腹の中でひとりぼっちの数千年もありうる」


「わかっている」


 無論そんな展開はごめんだが、やるしかないなら――選ぶのみ。


「主さまをひとりぼっちにはしないにゃん。食べられるときはいっしょにゃ!」


 猫型の影が離れないと主張するように、頭をこすりつけてくるが――。


「――悪いがナウメはみんなを頼む。隠形系の力でメガロドンからの敵対心(ヘイト)を減らしてくれ」


 ナウメなら、メガロドンの意識を俺に逸らしさえすればできるはず。


「――俺が食われて脱出できないときは、できれば直樹(なおき)たちに力を貸してやって欲しい。――そして戦力を整え助けに来てくれると嬉しい」


 俺なしで(ノウェム)に守られる王を討ち、革命を成功させるにはナウメの協力が不可欠。

 いっしょに腹へ囚われて、もし脱出できなければ『光の意思たち(ライト・スピリッツ)』は詰んでしまう。


「……にゃうーん」


 影が悲しげに鳴く。


「――俺たちは、ほぼ不老不死だろ。必ずまた会える、『光の意思たち(ライト・スピリッツ)』を頼むぞ」


 影の耳に触れる――やっぱ影形態は手触り微妙だなぁ。

 実体化したナウメを撫でたかったがそんな状況ではない、メガロドンは徐々に近づいてきている。


「いい覚悟だ、ランマ! 受け取れ、鳴らせば注目を集める! 大怪獣は任せるぞ! なんならこの場で倒すといい!」


 投げられた『固有魔導具(アーティファクト)』を受け取る。

 ――以前部屋を片付けようとして、轟音を響かせてしまった物だ。


「倒せって……簡単に言ってくれる――行け、トリウィア! ――『うずくまる』」


 離脱を指示しながらスキル名を宣言し発動。

 うずくまることで移動魔法は無効となり、空中海に沈んでいく。


 渡されたベル型の『固有魔導具(アーティファクト)』を使用。


 リーンゴーンリーンゴーン。


 ――爆音が響き渡る、これで俺にターゲットを向けられるといいのだが。

 あくまでダメ元、ベルの金具をローブの帯紐に引っかけ。


「――聖弓よ!」


 沈みながら聖弓を覚醒させ攻撃態勢に入る。

 先ほどは空中海に阻まれ途中で消えたが、いまはメガロドンの方から向かってきている。


「届け――『青き魔法の矢』」


 魔法の矢を放つ――仮に命中してもダメージはないだろう。

 タゲをわずかでも、俺に引きつけられるならそれでいい。


 敵の巨大さと比較し、俺の矢はあまりにも小さい――狙うなら眼球。

 意識で矢の弾道を操作しながら空中海を飛翔させる。

 

 ――矢は小さすぎて食べる気になれないのだろうか。

 メガロドンは巨大な口を開くことなく、正面からぶち当たってくる。


 狙いどおり眼球に命中――わずかの怯みも見られない。


 リーンゴーンリーンゴーン。


 ……メガロドンは俺をタゲってくれているのだろうか?


 ――まだ距離はある。


「――試してみるか」


 呟き、『うずくまる』を解除。

 ゴポォ――!? っ息が。

 ――さっきは平気だったが、思い返せばスキル解除と同時に、トリウィアが移動魔法をかけてくれていたな。


 ――問題ない、目的を果たしうずくまればいいだけだ。


「――ッ」


 左手をメガロドンに向けて突き出しながら、強く握りしめる。

 うずくまることによって、俺の装備である聖弓の自己強化以外は解除された。

 ――当然、流血防止の魔法も効果を失い。


「――」


 リーンゴーンリーンゴーン。

 効いているのかわからない、ベルが鳴り響くなか。


 ――左手の平から血が流れ出る――。


「ロドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンン」


 ――『うずくまる』――。


 ――俺は間に合ったのか? 間に合わなかった気もするが……。


 頭はハッキリしている、なのに記憶がぼんやりとモヤがかかったよう。


 ――少し前を思い出していく。


 流血と同時――加速――という言葉では生ぬるい。

 ――瞬間移動と呼ぶべき速度で、漆黒の壁が眼前に現れぶつかってきた。


 補正による瞬間発生でも間に合う気がせず、死を意識した――と思う。

 だが俺はいま、手の平の流血も止まり、無傷で生きている。


 ……ぶつかられたのは錯覚で、実際は発生補正で間に合ったということか?


 ……どことなく違和感もあるが。――いまは思考を切り替えよう。


 現状俺は空中海を沈みきって、崖の上に落ちたようだ。

 そして漆黒の壁――メガロドンに押し潰されている。

 胸、腹、尾、どの部位で潰されているのかは、サイズ差がありすぎてわからない。


 流血が完全に止まっているためか、興奮は収まっているようで動きは鈍い。


 リーンゴーンリーンゴーン。


 ベルが鳴る。

 聖弓や服と同じく俺の装備扱いで、うずくまるによって守られている。


「ロドオオオオオン」


 咆哮とともにメガロドンが大きく動き、どの部位に潰されていたのか理解する。


「――尾か」


 持ち上がった尾が、ふたたび落ちてくる。


 ――絶対防御に変わりはない。


 ベルが効いているのだろうか? 漆黒の尻尾を何度も叩きつけられる。


「『青き魔法の矢』」


 ――ゼロ距離で射るが、漆黒の肌に触れると同時霧散した。

 ……聖弓の魔力がもったいないな。


 うずくまりながら、尾が振り下ろされるタイミングに合わせ全力のアッパー。

 ――激突。ダメージは皆無だが凄まじい重さを感じる。

 まぁ麒麟(きりん)の神雷よりは軽いが……絶対防御の俺的には、エネルギーを使い果たす自滅をしてくれたあっちの方がマシだ。


 ――まるで倒せる気がしない。


 もっとも注意を引きつける目的は果たせている。

 後は俺が空中海の外に無事脱出できれば悪くない。

 このままうずくまってたら、飽きてもとの場所に帰ったりしないかなぁ……。


「ロドオオオオオオオオン」


 ダメそうだ。俺から離れ空中海を昇っていくメガロドン。

 海の外から降り注ぐ陽の光に照らされながら、漆黒のサメは反転。


「ロドオオオオオオオオオオオオオオオオンン」


 大口を開き――ピンクの口内が見え――天空から迫ってくる。


 ――俺を狙う噛みつきなら、どんな破壊力だろうと防げる。

 だが崖を飲み込む一撃ならば、体内送りになるだろう。

 ――そして後者だと確信じみた予感がある――。

 

 ――体内送りは確定的――。


 ――アニマを捧げ内部から攻撃すれば倒せるだろうか? ――無理だと感じる。

 ――直樹たちが外から俺を救出できるだろうか? ――不可能だ。


 ――俺が革命に無関係でいいのか? ――いいわけがない。

 ――俺が始めたことではないが、ここで降りるなんて許されない。


 ――『過剰な光(オーバーライト)』を継いでまだ日も浅い。

 ――これで誰かに投げるなんて、かっこ悪すぎだろ――。


 迫りくるメガロドンが緩やかに見える――思考が加速している。


 ――アニマを捧げ全力で攻撃しても倒せない、無理だと感じている。

 ――だからなんだ、試していない。


 ――俺のスキルは(ウーヌム)時点で絶対防御を発揮した――問題ない。


 ――(オクトー)から(ウーヌム)まで、7段階のアニマを捧げる覚悟を決め――。


「アニ――」


「やぁやぁ、気が向いたので助けてあげよう」


 緩やかな世界に、突如異物が現れた。


「――なっ、愚賢者ルフフ!?」


 歓迎を受けたあの日以来、姿を見せなかった金髪の少女が現れたことに驚き『アニマ・コンバーション』を中断。

 そして言葉の内容を遅れて理解。こいつは誓約で嘘を吐けないと自称していた。

 ――つまり本当に助けてくれるのか? メガロドンを倒してくれる?


「そうだね、嘘は吐かない。だけど私は選ばれし祝福者(ゲニウス)にすぎない。天星スキルもS級さ。――だから助けるといっても限度がある、大怪獣を倒すことはできないね」


 以前と同じく、心を読んで答えてくる。


 緩やかな世界は、あくまで俺の思考が加速していた結果のはず。

 だがいま俺とルフフが普通に会話する間、メガロドンはピクリとも動かない。


 ――まるで世界が止まっているようだ。


「まるで――じゃないよ。止めているのさ、ここだけね」


 デタラメだ。これでS級天星スキル? それとも魔法か?

 ――どちらにせよ(ノウェム)級だろう。


「私がする助力は2つ。キミを北西部の外へ転移してあげよう」


 トリウィアやナウメですら、困難なことをさらりと言うルフフ。


「そして大怪獣メガロドンの動きに制約を付加しよう。しばらく北西部から出てこないはずさ。ただし長くは持たない」


「具体的な期間は?」


「さてさて、私にはわからない。14日はもつと思うが、保証はできないさ」


 ……短い。それで突破口を見つけ出せるだろうか?

 というか、メガロドンが暴れると人類が滅びる可能性すらあるはず。

 なぜ他人事なんだ。


「――私は無尽と違って世界を日々楽しんでいるからね。愛を探し求めてなどいない。大怪獣が暴れ人類が滅びるのも一興、倒す英雄が現れるのもまた一興。どちらでも構わない、どちらでも楽しめる」


 ――なるほど、こいつは別に味方じゃないんだな。


「その通り! だからこその愚賢者。最初に言ったろう、気が向いたからと」


 人類が滅んでも構わないと言った金髪の少女は、無邪気な笑みを見せる。


「さぁ彼方の来訪者(エトランジェ)、キミはキミの好きに生きたまえ!」


 占い師のようなローブを纏った少女は、片手を彼方に伸ばしながら宣言。


 ――うずくまる俺の周囲が歪んでいく――空間転移か。

 この止まった世界にしろ、フィールド対象を防げないのは弱点だ――。

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