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72話:激突する、ナオキとタイガー

◆◆◆


 ランマたちがメガロドン討伐へ向かう一方で、ナオキたちは『物拾い』で拾われた日誌の所有者、コガロ侯爵の居城を目指した――。


 プッパス侯爵の死後、事情を知らぬ貴族たちは警戒を強めたが、ルミガ大陸東端を領地とするコガロ侯爵のそれは際立っている。


 決して表沙汰になってはいけない彼方の来訪者(エトランジェ)の人身売買という秘密によって繋がりを持つプッパス侯爵が、恐るべきやり方で暗殺された。

 怯えるコガロ侯爵は、金と権力を惜しむことなく守りに費やしていった。

 その異様は『物拾い』で証拠を拾えてなかったとしても、関係者と容易に推測できるレベルである。




 ――マシュからコガロ侯爵の厳戒態勢を聞いたナオキは、1人で様子を見てくると告げ、隣接するゴヌレ侯爵領にクランメンバーを待機させ動く。

 そして関所だけでなく、広大な領地の境界線を余すことなく傭兵に守らせているのを確認し呟いた。


「――たしかに凄いな、まるで隙がない」


 特殊な天星スキルでもなければ、山岳地帯を越えようと秘密裏の侵入は不可能とナオキは判断。

 同時に『光の意思たち(ライト・スピリッツ)』が、あの傭兵たちと激突すれば双方に大量の死傷者が出ると考える。


「――このまま俺だけで行くのがベストだ」


 この判断は暴走ではないと自問するかのように呟き、ナオキは単身突き進むことを決める。


嵐真(らんま)、リタさん、ローゼンさん――使わせてもらいます」


 背負う黄色い長槍を片手で持ちながら、核たる麒麟(きりん)を撃破した立役者と、槍の制作者に感謝を示す。

 

「覚醒しろ、『麒麟槍』!」


 ナオキは槍を手前に突き出しながら、力を解き放てと念を捧げる。


 『麒麟槍』から微弱な雷がパチパチと迸り始めた。

 放出される雷が徐々に増幅されていき、バチバチ――バヂヂヂヂヂヂヂ。

 ドゴオオオオン――槍より駆け上った一筋の雷光が雲を穿つ。


 雷鳴が境界線を警備していた無数の傭兵を引き寄せる。


「いたぞ! あいつだ!」


「おい待て、あいつ、まさか、ナオキじゃないか!?」


 声を上げる傭兵たちの前に、姿を隠すことなく槍を構えたナオキが立つ。


「俺はコガロ侯爵に用がある。退いてくれ、お前たちは最近雇われただけだろう?」


 ナオキは眼前の傭兵たちが、彼方の来訪者(エトランジェ)の人身売買に関わっているとは思っていない。よって戦いたくないと本音で求めた。


「っそう言われてもな、金は受け取っている。あっさり退いたら傭兵失格だろ?」


 金を惜しまず集めただけあり、傭兵たちは大陸でも実力者の部類――(クァトゥオル)以上も存在している。


「……俺にお前たちを雇える金があれば、よかったんだがな……」


 逃げ出さないプロ傭兵の覚悟を見て、悲しげに呟くナオキ。


「加減はするが上手くない。全力で防御して生き延びてくれ」


 突き出した槍を一回転させ、雷を飛ばしながら威嚇する。


 ナオキは火力の制御が苦手であり、とくに『極小貫通孔』は必殺。

 可能なかぎり殺したくないと考えている、この状況では使わない。


「防御? 違うな! 先に倒す! おおおおお!」


 1人の傭兵が剣を抜き、ナオキに向かい間合いを詰めていく。

 その動きに即興で合わせ、周囲の傭兵たちもナオキを囲うように動き出す。


「――悪いな、お前たちじゃ俺の先手は取れない」


 ナオキは(セクス)、最初に動いたこの場でもっとも強い傭兵でも(クァトゥオル)

 格差は歴然――それを補いうる天星スキルの持ち主はおらず、武器性能も『麒麟槍』が遥か上位。


「ハッ!」


 後から動いたナオキが先手を取り、全員を攻撃範囲に収めた横薙ぎを放つ。


「ギィアアアア」


 『麒麟槍』より放たれた雷光に焼かれ、苦悶の悲鳴を上げて倒れる傭兵たち。

 ナオキは可能なかぎり手加減していたが――それでも数名の傭兵は耐えきれず絶命した。


「――俺は進む。女子たちを助けないといけない。……お前たちは覚悟を決めて立ち塞がったんだ……」


 物言わぬ焦げた傭兵たちへ言い訳するかのように呟きながら、ナオキは進撃を開始する。


「うおおおおおおお!」


 咆哮を上げ『麒麟槍』を突き出しながら、コガロ侯爵の居城を目指して突進。


 槍より放たれる稲妻で全身を覆ったナオキは、さながら雷の化身。

 徐々に加速していき到達した最高速度は、(オクトー)のランマを上回る。


 傭兵たちが存在を認識しても、目標を定めて駆ける生きた雷光を食い止めることなど、その身を盾にしようと不可能であり――――。




 ――――無謀にも止めようとした傭兵をひきながら、ナオキはまたたく間にコガロ侯爵の居城へ到達。

 張り巡らされた結界と、閉ざされた城門を加速のまま力業で粉砕し殴り込む。


「コガロぉおおおおおおおおお!」


 城の広間で殺意を込めて咆哮するナオキ。またたく間に兵士が現れ取り囲む。


「――コガロ侯爵はどこだ?」


 周囲を圧しながら尋ねるナオキの息は荒い――それは疲労ではなく怒りである。


「全員かかれッ! 彼方の来訪者(エトランジェ)といえど(セクス)である。討伐は可能、侯爵の城へ踏み込んだ、ならず者を討てェ!」


 ナオキの言葉には答えず、アニマクラスを確認する貴重なレンズ型『固有魔導具(アーティファクト)』を下ろしながら、リーダー格の男が号令をかける。


「――そうか、お前たちは庇うんだな」


 怒りの感情はどこにいったのか、冷めた声でナオキは周囲の兵を見回す。


「『シャドウバインド』」


「『ファイアーボール』」


「をおおおお!」


 拘束魔法からの攻撃魔法、その後物理攻撃が雷を纏うナオキに襲いかかる。

 ――しかしこの場の兵は、ルミガ王国軍最弱とされる『第2騎士団』。

 その構成は貴族の子弟など上位の身分を持ちつつも、近衛である『第1騎士団』に入れるほどの実力がない者たち。

 

 当然のごとく――神雷を纏ったナオキを突破できるはずがない。

 拘束しようと伸びた魔法の影は、雷に触れると同時焼かれて消える。

 火の球もしかり。物理攻撃をしようと近寄った男たちなど、火に飛び込む蛾のように自殺となった。


 第1波が棒立ちのナオキ相手に壊滅したのを見て、兵の一部が逃げ出すが――。


「――お前たちは許さない」


 ナオキが槍を振るって飛ばした稲妻に背中を貫かれ絶命する。


「ま、ま、ま、待て! 俺は伯爵家の長男だ! 手を出せばどうなると思う!」


 錯乱した男が尻餅をつきながら、合理性のない命乞いをする。


「俺はいま侯爵に攻め込んでる」


 軽く振り下ろされた槍より放たれた稲妻に焼かれ、焦げる伯爵家の長男。


「ひ、ひぃ、待った。彼方の来訪者(エトランジェ)の女だろ! 探してるのは? 知ってる! 教えるから俺は殺さないで」


「――お前が知ってるのか」


 バヂイイイイイイイ。

 ナオキは無表情で言いながら『麒麟槍』から雷を飛ばし、ほかの兵をすべて焼き払う。


「ひいいいいいい、ゆ、許して! お、俺はそんなにひどい扱いはしていない! 全部、コガロ侯爵が悪い! そもそも彼方の来訪者(エトランジェ)と知ったのは後からだ! 知ってたら手は出さなかった本当だ、誓って嘘じゃない」


「言い訳はいい、4人はどこだ?」


 日誌から詳細な場所はわからず。

 女子たちを救出できていない状況では、『極小貫通孔』で消し飛ばすことができないため。ナオキはギリギリのところで怒りを抑え込んでいる。


「それは――えっ……?」


 喋ろうとした男の首がギロチンに処されたかのように、突然切り落とされた。


「あー、わざわざ言わなくていいぜ! 俺が連れてきてやったからさ!」


 笑いながら男――タイガーが女子たちの首輪と繋がった鎖を引きずって歩いてくる。


「――――左木流(さきる)


「いまはタイガーだぜ」


 男は立ち止まり訂正する。


「引きずるな、その手を離せ、お前がやったのか?」


「おっかねぇ! お前のそんな顔見たことないぜ。つーかさ、お前らこのブスどもに追放されるとき、どんだけ罵倒されたよ。むしろざまぁってならねーの?」


 鎖を持ち上げながらタイガーは言う、女子たちは軽くうめき声を上げるだけで抵抗はなく、言葉を発することもない。


「その手を離せ。人として最低のことをしているとわからないのか?」


「大量殺人鬼に言われたくねーな。いまそこで何人殺したよ? それだけで俺のキルスコア上回ってるぜ、ナオキ?」


 無表情だったナオキの顔に動揺が走り、周囲の焦げた兵士たちに視線を巡らせる。


「おいおい、何だその顔、無自覚で殺ってたのか? まさかあのナオキがプッツンすると人殺しちゃう系だったなんてな。とてもそんな人には見えませんでしたって機会があれば答えておくぜ」


「――俺はお前がここまでのクズとは思わなかった」


 ナオキは一瞬悲しげに目を細める。


「ははは――俺が予想以上のクズってのは同意だ。俺自身ここまで狂うとは思ってなかった。だけどさぁ? いきなり望んでもない異世界転移で地球に帰れません、さらに超能力をゲットだぜ? 仕方ねぇだろ? ――俺は悪くない」


「――環境のせいで許せる範囲じゃないぞ、左木流」


「タイガーだ。――俺の能力覚えてるか? 『よらば斬る』ってさ、相手が近寄ったときだけ発動できるカウンター系って分類になっただろ? アニマが上がった後できるようになったんだけどな――」


 一歩間合いを詰めるタイガー。


「――俺から近寄っても発動できるんだわ」


 瞬間『よらば斬る』を首に発動。

 A級天星スキルによる、不可視の斬撃がナオキを襲う。


「ッう」


 横合いから首に、不可視の斬撃を打ち込まれ弾き飛ばされるナオキ。

 神雷を纏っていなければ、この一撃で首を落とされ死亡していただろう。


「首繋がってるってマジかよ、スゲーなその槍。俺にも使える系か?」


 人間の首を落とせなかったのはタイガーにとって初めての経験だが、その声に焦りは感じられない。


「……そうだな、俺たちは殺し合うしかない」


 首に手を当て、ダメージに顔を歪ませながらも立ち上がるナオキ。


「……お前に『麒麟槍』は使えない。俺の仲間は血統専用で作ることを認めてくれた」


 槍の作成者ローゼンから提案された、ナオキの血統専用化にランマ、タクヤ、ミズキ、マシュ――4人の誰もが反対せず、むしろ気後れするナオキの背中を押した。

 そのことを誇るようにタイガーへ告げ、『麒麟槍』を構える。


「いくぞ……タイガー、俺はお前を殺すッ!」


「そう、俺はタイガーだ! そして死ぬのはお前だ――『よらば斬る』ッ!」


 天星スキルは精神の影響を強く受ける。

 『よらば斬る』は宣言し、カウンターとして発動することで斬撃力が跳ね上がる。


 ナオキが飛ばした稲妻は、不可視の斬撃に切り伏せられ消えていく。


「うおおおおおおおおお!」


 女子たちを巻き込まない出力で遠距離から倒すのは困難と判断したナオキは、槍から放出する雷の量を増加させ、全身をより強固に保護しながら突撃する。


 ザギィン、ザギィン、ザギィン――不可視の斬撃が無数に打ち込まれていく。


「ちぃ、武器頼りの雑魚スキルのクセにつえーじゃねーかよ! ――テメェが最初から強ければ! 俺らは! クソがぁ!」


 ナオキへの不満を斬撃と言葉でぶつけながら、振り回される槍を紙一重で回避し後退するタイガー。

 近接戦闘の技術が高いとはいえないランマに対し、開拓領域(フロンティア・エリア)で命を賭けた戦いを繰り返したナオキの槍捌きは、地球基準なら達人のレベルに至っている。


「――何度も何度も考えた。俺らが最初から強ければ! 追放前に気づけていれば! クラスは! 俺たちはァ!」


 久しぶりに会った同級生に感情を吐き出しながら、いっさい手加減はなく殺す気の攻撃を繰り返すナオキ。

 格上のアニマを持つナオキの猛攻を、ギリギリだが回避し続けるタイガー。

 それは槍が振るわれる寸前、不可視の斬撃を的確な箇所に飛ばし動きを鈍らせることで成立している。


 ――主導権が『暗黒卿・肉丸弾吾(ダークロード)』に移るまでの間、クラスは安全を重視し大陸北部の辺境に隠れ潜むように暮らしていた。

 危険は少ない環境だったが、タイガーを始めとした一部の男子は日夜戦闘訓練を続けていた。


「はっ! 戦いもしねぇクソブスどもに汗臭いだの、スキルがあるんだから訓練なんて無駄でしょとか、好き放題言われたけどよぉ。役に立ってるじゃねぇか!」


 現在タイガーを『麒麟槍』からギリギリのところで生かし続けているのは、当時した訓練の成果である。


「――それが女子に残酷なことをした理由か? 女子を戦わせないと決めたのはクラス投票の結果だろう!」


「投票結果はいつまで有効なんだ? 決めなかったよなぁ。――木村が『破壊光線』がつえーだけのゴミリーダーだったからよぉ、ブスどもの増長はひどかったぜ? 私たちは守られて当然ってな! あぁ思い出すとイラついて来るぜぇ!」


「話し合えばいい! できたはずだ、女子たちに少しずつだろうと戦ってもらうことも!」


「できるかよぉおおおおおおおおおおおおお! お前じゃないんだ! そりゃ、お前がリーダーならできただろうよ! けどお前はいない! 月島(つきしま)もいない! 俺は悪くないッ! お前が悪いッ!」


 タイガーの感情が爆発――冷静に攻撃を捌けなくなり致命的な隙が生まれた。

 この問答によってナオキはタイガーに対する、越えてはいけない一線を越えたという評価を(ひるがえ)すことはなく。


「俺も悪い」


 ――がお前を許せないと言外に含ませながら、短く言い放つナオキ。

 致命的な隙を見逃すことなく、槍はタイガーの心臓部目指して突き進む――。

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