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69話:作戦決行

 麒麟(きりん)戦の真実を教え(ノウェム)への認識を正したうえで、どう戦うか俺たちは議論していく。


「『始祖氷狼(ハティ)』を倒したやり方では討てないのですか?」


「正直厳しいだろうな」


 アリアの問いに首を横に振って答える。

 『アニマ・コンバーション』は俺にとって最後の切り札だ。

 倒しきれなければアニマを無駄に下げるだけで終わってしまうし、倒せたとしても下がった分を取り戻せる保証はなく、気軽に使える代物ではない。

 

「……少し気になっていることがあるのですが」


「何だ月島(つきしま)?」


「『砕けぬ刃(ツヴァイハンダー)』たちの負傷です。全員瀕死でありながらも四肢に欠損はありませんでした」


 たしかにぱっと見、五体満足なことは俺も気になっていた。


「――そして流血も確認できませんでした。あれは私たちが到着前に治療した結果ですか?」


 月島は『砕けぬ刃(ツヴァイハンダー)』の代表として参加している男に問いかける。


「……いえ、マスターたちは生還したときから欠損や流血はなかったです。メガロドンへ挑む直前マスターたちにかけた『全力強化魔法(フルバフ・クレーシャ)』には肉体強化と流血を防ぐ効果が含まれています……」


「ありがとうございます。――憶測ですが、メガロドンは古の彼方の来訪者(エトランジェ)が創造したサメ型の怪獣。『砕けぬ刃(ツヴァイハンダー)』は流血しなかったため、敵として認識されず生還できたのではないでしょうか」


 なるほど。サメは血の臭いに敏感で獰猛になるって話は聞いたことがある。

 何巡前の文明かは知らないが、似た認識を怪獣王が持っていても不思議はない。


「つまり流血しなければ、敵として認識されないか?」


「根拠としては弱い憶測ですし、傷を負わせたならば見逃されるとは思えませんが」


 それでも何もしないよりはマシだろうな。


「――挑むさいには流血対策が必須だな。『砕けぬ刃(ツヴァイハンダー)』はまだ使えるか?」


「……無理です……魔力の回復にはまだ時間がかかります……」


 だよなぁ。

 『砕けぬ刃(ツヴァイハンダー)』のメンバーは一目で疲労困憊とわかる。

 トリウィアなら可能だろうが魔力は有限。できれば別の奴に使って欲しいところ。


「流血対策は我々が受け持ちましょう――可能ですよね?」


 後ろを振り向きメンバーに確認をとる月島。


「――レイヤ、僕らを舐めているのかい? その程度の魔法、使えるか問うまでもないことだろ」


 『破壊の杖(ヴァナルガンド)』の1人が小馬鹿にしたような口調で答える。

 ――驚いた、彼方の来訪者(エトランジェ)の月島相手にこの態度。


「私ぃは使いたくなぃですぅ、血ぃ流しましょう。血ぃが欲しいですぅ」


 気持ち悪い声音で喋る小柄なローブ――こいつら大丈夫か? まったく統率が取れてない気がする。


「ふぅ、流血はダメです。血の採取は諦めてください」


 月島の命令を聞いているのかいないのか……ニヘニヘ笑っている。


「……さて根本的な攻略方法は何も出なかったな」


 『破壊の杖(ヴァナルガンド)』をスルーし話を進めていく。


(ノウェム)に攻略法などそうないさ――生物としての格が根本的に違うのだからね」


 トリウィアに頷き。俺はナウメの存在を明かすことにする。


「――出ろ、ナウメ。そして名乗ってくれ」


 影に命じる――ニュルリと猫型の影が持ち上がる。


「にゃんにゃかにゃーん! ――にゃんは主ランマさまの使徒『神獣王二十一大傑作序列十位』化け猫のナウメにゃ!」


 影は巨大な白黒猫形態へ変化し集会場にドドンと顕現。

 ナウメは自らの力を誇示するように――強烈なプレッシャーを放った。


「なっ、神獣!?」


「ッまさか神獣を使役していらっしゃるとは」


 リノはわかりやすく、アリアは冷静さを崩しはしないが息を飲んで驚愕を示した。

 そして『砕けぬ刃(ツヴァイハンダー)』の男と『破壊の杖(ヴァナルガンド)』から3人が、ナウメ(ノウェム)の威圧に耐えきれなかったらしく気を失った。


「の、(ノウェム)ですかぁ。ランマさまぁ私ぃなんでもしますぅから! その子の血ぃくださいぃ」


 正直1番気絶して欲しかった不気味な奴が、地面にペタリとひれ伏しながら俺の足を掴んでくる。


「やらん! 掴むな、離せッ!」


「私ぃ靴ぅ舐めますぅ!」


「や・め・ろッ!」


 ドーン。

 這いつくばりながら舌を出してきた瞬間、気持ち悪くて蹴り飛ばしてしまった。

 集会場の壁を突き破り小柄なローブが外に転がる――たぶん生きてるだろう。


「はぁはぁはぁ、月島ァー! お前のメンバーだ! どうにかしろ!」


「あぁ、彼女は…………『光の意思たち(ライト・スピリッツ)』で引き取ってくれませんか? いちおう、うちの実力ナンバー3ですよ」


「ふざけるなぁ!」


 まさかアウロラよりヤベー奴が、『破壊の杖(ヴァナルガンド)』に控えているとは思わなかった――。




 ――――俺は大陸北西部中空に広がる、メガロドンの領域たる空中海を視界に収め感嘆を漏らす。


「――空に大海、スゲーな。開拓領域(フロンティア・エリア)でも見たことがないレベルのファンタジーだ」


「えぇ、これは幻想的な光景です――ふっ」


 隣で月島が小さく笑う。


「なんだ?」


「いえ、女子たちがいたら、こぞって自撮りしそうだと思いまして」


 ……皮肉か? いや表情に嫌みを感じない。

 こいつ自分がクラスを抜けた後、女子たちがどうなったか知らないのか?

 ――知らなくても不思議はないか、俺たちが知ったのも姫宮(ひめみや)が来たからだ。

 どうする? 教えるか? …………俺は月島のことを許しちゃいない……この戦いが一段落したら教えてやろう。

 ――自責の念に駆られてくれるはずだ。


「……ざまぁ……」


 聞こえないよう意識して、小さく口の中で呟いた。


「ランマ? 何か言いましたか」


「別に。俺のこと猫島(ねこじま)って呼ばないのな」


「あぁ、失礼しました」


「――構わないぜ、俺もこれからはレイヤと呼んでやるよ」


 追放の元凶に友方(ともかた)よりマシな印象を持ってるのは、自分でもどうかと思うが……。

 思考パターンが似通っていたせいで、理解できてしまうんだよなぁ。


「まっ覚悟しておけ、レイヤ」


 ニヤリと皮肉な笑みを作って告げる。


「えぇ、相手は(ノウェム)メガロドン――死ぬ覚悟はしています」


「フッ」


 そっちの覚悟じゃないさ。死ねば一瞬――生きれば永続。

 お前はまともだ、よって効く。せいぜい苦しんでくれ、それが追放の復讐になる。


「――さて全員準備はできたか? 作戦を再確認するぞ」


 レイヤとの会話を打ち切り、メンバーを見回す。 


「メガロドンを最終的に狩るためには――まず俺たちの火力が通じるのか知る必要がある。そのため空中海を進み、メガロドンを攻撃射程ギリギリに捉える」


 空中海の移動は離脱を考えると、可能なかぎり高性能な方が望ましいのでトリウィアに頼る。

 流血防止は『破壊の杖(ヴァナルガンド)』の魔法に任せ。


「その後、遠距離火力をぶつけていく。メガロドンの反撃はすべてナウメに防いでもらう作戦だが……安全の保証はできない覚悟はしてくれ。――そして攻撃が通じ俺たちが敵と認識されたときは即時撤退する、トリウィア頼むぞ」


「任せておきたまえ――と言いたいところだが、無事離脱できるかはナウメ君頼りとなるだろうね」


「頑張るにゃん!」


「状況によっては全員ナウメ島に取り込んで、逃げることも考えてくれ」


「猫好き以外はナウメ島入り、お断りしたいにゃぁ」


 むぅ、同意できてしまうが……。


「それ神獣王の定めた破れないルールなのか?」


「違うにゃ」


「なら、もしものときは我慢してくれ――そうだ、どうせなら猫好きになるまで出られない島にしてしまえ」


「名案にゃ!」


 会話の意味がわからないのだろう、一部メンバーたちは怪訝な表情を見せる。


「――まぁ作戦は以上だ。異論があるなら代案と合わせて言ってくれ」


「『偉大十字(グランドクロス)』に異論はありません。考えてどうにかなる相手ではないでしょう。我々はランマさまを信じるのみです」


 ……アリアには俺の性格が読まれてる気がする。

 そう言われると見捨てるのが難しくなる……けど七線級クラン同盟の立場は対等だろ。自分の命は自分で管理して欲しい。


「『破壊の杖(ヴァナルガンド)』にも異論はありません」


 レイヤの同意も得る。

 『砕けぬ刃(ツヴァイハンダー)』はおらず、この場の全員が作戦に同意。


「よし! 行くぞ、頼むトリウィア!」


「『ワンダードリフターズ』」


 移動魔法を唱えながら指を鳴らし銀の魔力が迸る。


「ッ……これが無尽のトリウィアか」


「この魔力量異常だ、ホントに人間かい!?」


「血ぃ欲しいですぅ」


 『破壊の杖(ヴァナルガンド)』のメンバーたちがそれに反応。

 同じ魔法使いとして格の違いを感じているようだ――1人怪しいけど。


 ――俺たちをそれぞれ包むように銀色の膜ができあがり――。


「うおおおッ」


 体が急加速、大砲から射出される砲弾のように吹き飛ばされる――。

 ――反射的に『うずくまる』を使いそうになるが、何とか抑えることができた。

 使って無効にすると、俺1人だけはぐれてしまう。


 バチャアアアアアン。

 バランスを取ろうと手足を動かしていると、空中海に突入――あまり格好がつかない体勢のまま、グングン進んでいく。

 ――海中だが呼吸できてローブも濡れていない、ひとつの魔法にどれだけ効果を複合しているのか。


 視線を周囲に巡らせる――アリアたち『偉大十字(グランドクロス)』は全員見事にバランスを取っている。俺の方がアニマは上のはずなんだがな……。


 『破壊の杖(ヴァナルガンド)』は最初ひどかったが――魔力を放ってからまともになった。自前で制御したのだろう、魔法使いはやっぱ羨ましい。


 ただレイヤだけは制御できないらしく、手足をバタつかせている。俺より無様!

 つーかパーティーリーダーなのに、魔法使いとしては格下なのか。


 ――どうでもいい思考をしながら、体勢を整える努力は続け――。


「――ふぅ、まぁ慣れてきたな」


 別に俺、運動神経悪くないしな。

 そもそも七線級クランの現地人とかプロ中のプロだ、比べるのがおかしかった。

 

「どうしたレイヤ! まだ白鳥かよ!」


 顔はすましているが、手足を必死にバタつかせているのが笑えるぜ。


「――白鳥の話ですか、それ嘘ですよ?」


「えっ」


「白鳥は浮くために足を必死にバタつかせてなどいません」


 眼鏡の真ん中に指を当てクイッと持ち上げながら言ってくるレイヤ。


「――知識マウントかよ、メガネマン! お前(クァトゥオル)だろ、なんで眼鏡してんだよ!」


「――眼鏡はファッションに含まれる派ですので、私にその罵倒は効きません。そもそも煽ってきたのはランマでしょう?」


 むぐぐぐぐ。


「――楽しそうなところ悪いがメガロドンが見えてきたぞ、ランマ」


 トリウィアには馴れ合いに見えたのか。


「別に楽しくねぇ! ――あの真っ黒な塊がメガロドンなのか?」


 視線を前に向けると、視界に小さい漆黒の塊が映る。

 さらに(オクトー)の補正を全開にして視力を強化――黒いサメと認識できた。


「――ッ思ったよりデカいぞ」


 近寄るほど、その巨大さがわかってくる。

 おいおい、マジかよ――村ひとつをまるごと潰せそうな大きさだ。


「トリにゃん、これ以上近寄るのは危険にゃ」


 ナウメの制止でトリウィアは、俺たちを近くの崖に着地させる。

 まだかなりの距離がある――それでも肌がひりつく。


「……これがメガロドンですか。――正直どうにかなる気がしませんね。手を出せば全滅するイメージしか湧きません」


 アリアの言葉にほぼ全員が無言で賛同を示す。


「……放置してオッケーなら、それ一択なんだけどなぁ。このまま北西部に留まり続けてくれないかな?」


「その可能性に賭け放置するのも選択肢ではあるが……英雄譚としてはつまらない」


 トリウィアは赤い目で炯々(けいけい)と見つめてくる――挑んで勝てといわれてる気がしてくる。


「……放置で『襲来する始祖炎霊ナイトメア・イフリート』の再来になってから後悔しても遅いな。――ここから攻撃が届く奴は?」


「……ランマさま、すまぬが儂には無理じゃ。この場にこれ以上留まることすらできぬ……」


 『破壊の杖(ヴァナルガンド)』の1人が声を震わせながら宣言し離脱した。

 あの爺さんはナウメの軽い威圧でも気絶していたし、まあ仕方ないか。


「……ほかに降りる奴は?」


 『破壊の杖(ヴァナルガンド)』から、さらに2人が去っていった。


「たいしたメンバーだな、レイヤ?」


「そう、責めないでください。『破壊の杖(ヴァナルガンド)』は魔法研究を主目的としています、戦士の集まりではありません」


 レイヤは逃げ出した仲間を庇うように言ってくる。

 正直いま降りた奴らはどうでもよくて、レイヤを責めたいだけだと思う。

 ――追放された恨みが尾を引いてると自覚。


「お前たち3人は降りないでいいのか?」


 レイヤ以外の『破壊の杖(ヴァナルガンド)』に確認する。


「僕たちは七線級クランですよ? ランマさまといえど、あまり舐めないでいただきたい」


「メガロドンの血ぃが手に入るかもしれないですしぃ」


「魔法取得において、アニマクラスが与える影響は大きい。クラスを上げる好機みすみす逃す気はない」


「――よし、作戦どおりいくぞ!」


 自信ありげな『破壊の杖(ヴァナルガンド)』の男に、流血防止の魔法をかけてもらい。


 ――遠方のメガロドン目がけて総攻撃を敢行する――。

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