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6話:オーク撃破

 うずくまることしかできない俺のスキル『うずくまる』は、即外れスキル認定で拠点班に決定された。

 当然戦闘に使うのはこれが初めてだ。

 まさか『うずくまる』に攻撃を防ぐ力があったなんて……そんなのわかるか!  


 ドンドンドン。ゴスンゴスン。


 ――冷静になれば見えてくることがある。


 まずオークが俺の元へ戻ってきた理由は友方(ともかた)の発言の影響。

 すなわち友方のスキル『告げ口』の効果だろう。

 クラス内の実験ではこんな効果は確認されなかったが。 

 知能が低い相手にしか効かない、みたいな制限があるのかもしれない。


 そして咆哮を上げるばかりのオークに、俺たちの言葉が通じているとは思えない。

 おそらくスキルの効果で、告げ口ならば言語の壁を超えられるのだろう。


 ドンドンドンドンドンドンドンドン。


「グモオオオオオオオオオオ」

 

 さっきの友方の告げ口を思い出してみる……。完全には思い出せないが、俺の名誉を毀損するような内容だった気がする。

 だがその結果、攻撃が効いていない状況でも狙いがそれることなく。

 凄まじい敵意を込めて殴り続けてくるオーク。


 ……木村の破壊光線と連携すれば相当強いなこれ。

 いまさらあいつと組むなどありえないが。


「おおおおおおお!」


 キン、ポト。


 雄叫びとともに小鎗(こやり)が剣をオークに投擲した。

 だが剣も吹き矢と同じく突き刺さることなく弾かれ、地面に落ちるのみ。

 マズいな、攻撃が小鎗たちに向かうかもしれない。


「友方ァ! オークがそっちに行ったら、さっきみたいに告げ口で俺にターゲットを向けろ!」


 うずくまりながら叫んで指示を出す。


「え、僕!? 告げ口って何のこと? そんなの知らないよ、僕何も言ってない。それよりホントに腰抜けて立てないのに、何で誰も助けてくれないの!」


 この期に及んであいつは……まあいいか。

 オークが向かえば自分のために同じことをするだろう。


 ドンドンドンドンガンガンガン。

 剣を投げられても意に介さず、俺を殴り続けるオーク。


 キン、ポト。キン、ポト。キン、ポト。


 そこに残りの剣も投擲されたが、結果は同じ。

 『剣鍛治』も戦闘系としては外れだな。ナイフ代わりとしては役立ってたが。


 そしてこれだけ剣をぶん投げられても、オークは執拗に棍棒を振り下ろし続ける。

 何が何でも俺をぶち殺したいらしい。すげー効き目だな、告げ口。


「小鎗殿使うでござる。物集(もずめ)殿にも……これは未使用の新品でござるよ」


「吹き矢か……だが剣でもダメなんだ……」


「塵も積もれば何とやらでござる」


「ああ、そうだな。諦めたら終わりだ。全員で吹き矢を撃つぞ!」


「はい!」


「ござる!」


「何で僕を無視するの! いまのうちに逃げようよぉ! 猫島(ねこじま)が逃げろって言ったんだよ? 僕間違ったこと言ってないよね」


 俺はお前に逃げろと言った覚えはないがな。


 フッ。フッ。フッ。カン。カン。ポト。ポト。ポト。


「刺さらないか……だが矢のかぎり撃ち続けるぞ!」


 フッ。フッ。フッ。カン。カン。ポト。ポト。ポト。

 フッ。フッ。フッ。カン。カン。ポト。ポト。ポト。


「まったく、ダメでござるな。やはり拙者の吹き矢はよわよわでござる……」


「くっ何か猫島を助ける手段はないのか!?」


 いや……違和感がある。

 

「待て! もう一度撃ってみてくれ!」


「何か閃いたのか猫島。よし撃つぞ」


 フッ。フッ。フッ。カン。カン。ポト。ポト。ポト。


 わかったぞ。

 吹き矢は3発命中しているはずが、命中音が2発分しか聞こえていない。

 誰の矢だ? ……順番に撃ってもらえばわかるか。


「小鎗だけ撃ってみてくれ!」


「わかった」


 フッ……ポト。

 いきなりビンゴ。命中音が聞こえないのは小鎗の吹き矢だ。


「小鎗! スキルを使ってるかッ!」


 うずくまりながら大声で尋ねる。


「あぁ! 吹く瞬間に使ってる!」


 それなら命中音が聞こえないのは、十中八九『極小貫通孔』の効果。

 なぜ音が聞こえない……? 


「けどダメだ。魔物には刺さらない! やはり俺のスキルじゃ貫通はできない……」


 矢は突き刺さらず地面に落ちているが……孔は空いていると仮定できる。


「いや! 孔は空いているはず。お前の矢だけ、命中音が聞こえない。たぶん極小の孔に、矢がぶつかったエネルギーが吸収されているんだ!」


「物理的にありえるのか!?」


「地球でならばありえぬでござるが……盲点でござった。どれだけ地球に物理法則が似ていようと、ここは異世界でござる!」


 毒島(ぶすじま)が補足してくれる。

 そう、これまで地球と同じような感覚で過ごしてきたから錯覚していたが。

 スキルなんてデタラメな力がある時点で、物理法則は違うに決まっている。


「何より女神に告げられた名称からだけでは、把握できぬ性質がスキルに隠されているのは、猫島殿の『うずくまる』からして明白でござる」


 まったくだ。うずくまってるだけで攻撃が効かないなんて、誰がわかるか!


「なら俺の攻撃は効いているのか?」


「命中音が聞こえぬことを、吹き矢のエネルギーが体内に流れていると仮定するならば。ダメージはあやつの体内に届いているはずでござるが……」


 声が沈む毒島。

 そう小鎗の吹き矢が効いていたとしても、オークを倒せるほどのダメージじゃない。0が1ダメージになる程度だろう。

 だがわずかでもダメージを体内に通せることで、倒す手段はないだろうか?


 ――――閃いたッ!


「毒だ! 毒を貫通孔を通して、オークの体内に注ぐんだ!」


 作戦を指示する。


「猫島、俺たちは毒なんて持ってないぞ!?」


「はっ! 拙者猫島殿の意図を理解したでござる! 物集殿、毒を拾うでござる!」


「そんな強力な物、私に拾えるの……?」


 ドンドンドンガンガンガン。

 

「できる! スキルの性能には精神状態が影響を及ぼす! 自信を強く持て! 物集になら拾える!」


 オークの攻撃を浴びながら激励する。


「頑張っても私に拾えるのは、誰でも拾えるありふれた物しか」


「問題ないでござる! 物集殿。あの魔物に効く自然毒を念じながら拾うでござるよ。花、虫、魚、貝、茸。平和な日本でも人体を殺せる自然毒なんて、そこら中にありふれていたでござる」


「わかった、拾ってみせる! 待ってて猫島君いま助けるから! お願い『物拾い』あの醜い化け物を殺せる自然毒を拾って! ――――拾えた! 木の実みたいのが拾えたよ!」


「よし。後はそれを吹き矢に塗って俺が撃てばいいんだな?」


「小鎗殿、待つでござる! 得体の知れぬ毒に迂闊に手を出すのは危険。あの魔物を殺せる毒ならば人間も殺せるはずでござる」


「それならどう使えばいいんだ!?」


「いまこそ拙者のスキルが輝くときでござる! 物集殿、木の実を拙者に。――かたじけない。矢と木の実を合成して毒矢を作るでござる」


「できるのか?」


「初めてでござるが、できる気がするでござる。いくでござるよ。『吹き矢作成』毒矢合成でござる! ――――できたでござる! 小鎗殿毒矢ゆえ慎重に扱うでござる」


「任せろ――毒島、物集お前たちの想い受け取った! 猫島いま助ける。行くぞぉぉぉ」


「小鎗殿!? なぜオークに向かって走るでござる!」


「貴重な1発だ、絶対無駄にできない、ゼロ距離で確実に当てる! そして近づいた方がより大きな孔を空けられる気がするんだ! うをおおおおおおおおお」


 オークを挟んで言葉を交わそうと、こいつは脇目も振らず俺を殴り続けている。

 だが近寄れば振り回された棍棒に当たる可能性がある。それは死を意味する。

 合理的に考えれば小鎗を止めて、遠距離から撃てと指示するべきだが――。


「――合理性? そんなもん異世界転移と謎スキルの時点でねーよな。――行けえええええぇぇぇ小鎗ぃぃぃ!」


 うずくまりながら応援する。


「おおおおおおおお! とったぞ背中。開け『極小貫通孔』ッ!」


 フッ。パシュ。

 小鎗がオークの背に、吹き矢筒をゼロ距離で当てながら矢を飛ばした。


「その矢は命中時破裂して、毒を塗り込む(やじり)をイメージしながら作ったでござる!」


「グモオオオオオオオオオオオ」


 オークが天に向かって咆哮を上げる。


「やったか!?」


 小鎗! それはダメなフラグだ!


「グ……モ…………オオオオオ」


 ヒューヒュー荒い息をしながらオークが、緩慢な動きで小鎗の方へと振り向いていく。

 マズい、ターゲットが俺からそれた。


「友方ッー!」


 頼りたくないがほかに手段はない、友方の名を叫ぶ。


「何なんだよもおおおおお! 僕は立ったよ、自力で! ああもう! オーク様聞いてくださいよ。僕の国にもオークたちが住んでいました。ですがその男、猫島嵐真(ねこじまらんま)によって皆殺しにされました。しかもその男はオークの娘たちを殺す前に暴行するクズ中のクズ。ついたあだ名はオークイーターランマです!」


「グモ……オオオオオオオ」


 咆哮から憤怒を感じる。

 1度はそれたオークの狙いが俺へと舞い戻る。

 

 ドンドンドンドンガンガンガンドンドンガンガン。

 オークは毒で死ぬまでのすべてを俺に使うと決めたようだ。

 死を恐れぬ勇ましき英雄のように、口から血を流しながらもオークは俺を滅殺するため凶器を振るい続ける。


 だがうずくまる俺にダメージはまったくない。無敵すぎないかこれ。


 ――友方の告げ口はかなり無茶苦茶な内容だったと思う。

 それでもこの憎悪……言語の壁を越えるだけじゃないな。

 おそらく告げた悪口を相手に信じさせる、洗脳のような効果もありそうだ。


 限定的とはいえ、洗脳効果に友方が気づくとマズい。

 ……友方のような人間が持ってはいけない力だろうに。


「グ……モ………………………………」


 バッタン。ついにオークが地面に倒れる。

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