68話:麒麟戦の真実を教えた
――各クランの代表パーティーが集まったのはいいが……。
おい、『破壊の杖』! マスターのアウロラはどうした。
「……月島、この話を俺に持ちかけた張本人はどこだ?」
診療所の外でアリアを待ちながら、隣に立つ眼鏡男を問い詰める。
『破壊の杖』代表パーティー『フローズヴィトニル』のリーダーを任されているらしい。
「……師匠ならクラン拠点で、壊れた魔導具を修理できないか試みると言ってましたよ」
自分で修理は絶望的と言ってなかったか?
まさかとは思うが……死ぬ覚悟をしておけと言ったからビビったのか?
「おいおい、同盟組んでⅨと戦おうってときにクランマスターが出てこないのはなしだろ……」
「マスター不在は『光の意思たち』も、ではないですか?」
心持ち月島の声が沈んだような気がするぞ。
そしてツッコミは至極もっともだが……。
「……こっちには別件がある。そもそもうちのマスターは戦闘員じゃないから!」
「それでも指揮は取れると思いますが」
「……お前眞朱に死んで欲しいのか?」
「まさか! 私は――ライバルの勇姿を見たかっただけですよ」
声に熱を込めながら言ってくる。……月島って、こんな奴だったっけ?
……昔は思考パターンが俺と似ている気がしていたんだけどなぁ。
「――彼方の来訪者さま同士で言い争いですか? これからの戦いを思えば、クランが違おうとも手は取り合うべきですよ。――無論彼方の来訪者さまなら心得ていると思いますが」
診療所から出てきた『偉大十字』のマスター、聖光のアリアが仲裁に入ってくる。
「別に喧嘩していたわけじゃない。――それでアンドレアスたちの容態はどうだ?」
「『聖なる光』で治療可能な傷でした、体力が戻れば目を覚ますでしょう。――もっとも心までは癒やせませんので、愚か者たちが戦線復帰できる保証はありませんが」
とくに揉めることなく、信徒ではないアンドレアスたちに天星スキルを使い、治療してくれたのは助かった。
しかし問題は精神の方だよなぁ……そっちも治せるなら眠らせている女子たちの治癒も頼めたんだけどな。
「まったく、アリアさまのお力をあのような者たちに使わせるなんて……」
合流の挨拶以降、無言で少し離れた位置に立っていた『偉大十字』代表パーティー『ホーリーセイバー』のリーダー、リノが口を開き。
視線が俺を睨みつけてくる――気の強そうな眼以外はリタそっくりだ。
「あぁ悪かったな、信徒以外に力を使わせて」
「ランマさまの頼みであれば是非もなく」
アリアは頭をうやうやしく下げてくる。
……俺が頼まなければアンドレアスたちを見ても、治療せず放置したのだろうか。
――アリアのエメラルドグリーン色をした鮮やかな髪からは、微かな毒が含まれているような気がした。
――さすがにアンドレアスたちが目を覚ますのを悠長に待つことはできない。
大怪獣メガロドンをどうするか作戦を立てるため、村の集会場を借りて各クランの代表が集まる。
『光の意思たち』より3人。
固有のパーティー名はない。
俺とトリウィア――そして、ほかクランにはまだ存在を秘しているナウメ。
『砕けぬ刃』より1人。
代表ではなく、アンドレアスが目覚めたときに会議内容を伝えるための伝令役。
『破壊の杖』より7人。
代表パーティー『フローズヴィトニル』、月島をリーダーにするパーティー。
全員大陸最高峰の魔法使いだと思うが……陰気なパーティーだ。
俺はフードを降ろしているというのに、こいつら……月島以外全員フードを目深に被って顔を半分ほど隠してやがる。
――Ⅸの血欲しいですぅ――とか、小声でボソボソ呟いている奴もいて怖いぜ。
……高位アニマの血は使える素材らしいが無理だろ、死体が消える世界なんだ。
Ⅸ相手に戦闘中の採血や、生け捕りができるはずもない。
――ニヘニヘニヘと不気味に笑う小柄な奴から眼を逸らし、アリアたちに視線を移す。
『偉大十字』より13人。
代表パーティー『ホーリーセイバー』、リノをリーダーにする12人パーティー。
さらにクランマスターのアリア、パーティーメンバーではないが指揮はリノより優先されるらしい。
Ⅸ撃破の瞬間を見せようと、数万人を越える大量の信徒を連れてきたりしないか内心ハラハラしていたが、常識的な選抜でほっとする。
アリアとリノは黒を基調にした修道服で、ほかのメンバーは赤い修道服。
全員アリアの後ろに並び――口を開かず背筋を伸ばし直立する。
診療所に寝ていた『砕けぬ刃』の幹部たちは男のみだったが、こっちは女のみ。
……たしか宗教的な理由で女しか上位信徒になれないんだっけか? 眞朱から軽く説明されたことがある、細かい理由は忘れた。
「――さてⅨ、『始祖氷狼』を狩った俺の経験からまず言わせてもらってもいいか?」
全員を確認したので一呼吸置いてから話し始める。
「はい。この戦いの中心はランマさまです、ご随意にどうぞ」
全員を見渡すように視線を巡らせ確認、アリア以外も俺が仕切ることに不満はなさそうだな。
「お前らが無対策でⅨに敵と認識されたら、十中八九即死する。……ひとつ俺が吐いた嘘を告白しておく」
教えておかなければ、七線級クランの自分たちならⅨに通じると、誤認したまま挑むことに繋がりかねない。
――大きく息を吸ってから俺は、麒麟戦の真実を教えた――。
「……あぁ、そうでしたか」
黙って話を最後まで聞いたアリアは取り乱すことなく頷いた。
「いまさらですが……麒麟を瀕死にまで追い込んでから全滅という話は『偉大十字』に都合がよすぎましたね。――ランマさまお心遣いありがとうございました」
「――――――――――お姉ちゃんがその紅い弓?」
冷静なアリアとは対照的にリノは目を丸くして、俺が持つ聖弓を指差しながら言葉を漏らす。
やはり血縁、それも妹だったか。
「あぁ、黙っていて悪いな。――ただ家族だろうと聖弓を渡すつもりはない、託されたのは俺だ」
――俺の意思を強く示しておく。
「………………姉がいなければ麒麟は討てなかったのですよね?」
数秒で内心の動揺を抑えきったか。
落ち着いた声で先ほどした説明の一部――麒麟を討てたのは聖弓の一撃で流血させ、激昂させた結果――を改めて確認するように問いかけてくる。
「そうだ、当時の――いや、いまの俺にとっても聖弓が最大火力。リタがいなければ勝てなかった。……『ホーリークロス』の活躍は全部が嘘というわけじゃない」
「……アリアさま、姉のアニマが転生した形が紅き弓ならば、弓は姉の遺したクリスタルともいえます。砕かなければ姉を弔うことはできないのでしょうか」
彼女たちの教義――死者を弔うためにクリスタルを破壊する――か。
アリアの回答によっては揉めそうだ。
「聖書の解釈、難しい問題ですね。――私はルミガ大陸の代表にすぎません、そのうえで解釈を語るならば……クリスタルではありませんので、鎮魂のため砕く必要はないでしょう」
アリアは口元に片手を当て思案顔を見せた後、リノたち教徒に考えを伝えた――俺にとって都合がいい解釈だ。
「――ありがとうございます、アリアさま。……彼方の来訪者ランマさま、あなたがその弓を持つことに対する異論はなくなりました。――姉のことよろしくお願いいたします」
リノが頭を下げてくる、穏便に収まってよかった。息を吐く。
……リタの意識が一瞬戻ったことは話していない。
アリアになら教えても――死者蘇生ではないと都合よく解釈して、意識を常駐させる方法を探ることに協力してくれないだろうか?
俺にはさっぱりわからず、トリウィアにも無理だった。実力者の協力が欲しい。
――アリアの金眼と視線が合い、優しく微笑まれる――。
悪意や敵意はまったく感じないが……背筋が少しゾクリとした。
交流会で受けた七線級クランマスターたちの印象はアウロラが1番アレで、次にアンドレアスが粗野だと感じた……しかし1番底知れないのはアリアかもしれない。
……俺の人を見る目は正直怪しいレベル、現状で協力を頼むのはやめておこう。




