67話:もっと傲慢な男と思っていた
――アウロラから教えられた、『砕けぬ刃』が大怪獣メガロドンの領域から退避後、留まっている王都北西の村へ向かう。
「――それにしても、この短期間でふたたびⅨと戦うことになるとはね。やはり彼方の来訪者が現れると歴史が大きく動き出すようだ」
馬車を使わず走って移動――隣を走るトリウィアが、銀髪を小さくまとめたローポニーを風に揺らしながら話しかけてくる。
その声音はどこか楽しげである。
「……なぁ俺たちって吉兆と凶兆、どっちだと思う?」
「さてね、そんなことはそれぞれが好きに言ってるだけだろう。かつての大戦時、神獣王が味方した国からすれば、神獣王は吉兆。しかし味方されず滅んだ国から見ればどうだい? 凶兆ではないかね」
――そりゃそうか、万人の味方など不可能。
体勢を破壊する気の俺たちは、現体制で甘い汁を吸う奴らにすれば凶兆に決まっている。
「にゃは、父はそれぞれの大陸で1番まともな国を選んで味方したにゃよ」
俺の影がニュルリと伸び猫型になって、ナウメは神獣王を庇うように発言。
しかしルミガ王国の腐敗を見ると……いやまぁ400年前の人間にそこまで責任を求めるのがおかしいか。
神獣アヌビスに守らせている法が、魔法の人体実験による殺人のみなことを考えれば、すべてを管理したディストピアにする気がなかったのは明白だしな。
「――ルミガ大陸の後世で、俺たちは吉兆だったと語られたいところだな」
そのためにはメガロドンをどうにかしないといけない。
――目標の村へ到着。
のどかな農村だが――村の雰囲気に合わない、素人目にも良質とわかる鎧を纏った人間たちが視界に入る。
彼らの鎧には大剣のエンブレムが描かれている――『砕けぬ刃』のメンバーたちだな。
そのひとり疲労感を滲ませた表情の男に声をかけ、マスターアンドレアスの居場所を尋ねる。
――教えてもらった村の診療所を訪れ。
「――ずいぶん手ひどくやられたみたいだな、アンドレアス」
小さな診療所の一室は横たわる11人でいっぱいいっぱい、ベッドが足りず床に寝かされている男もいて、そのひとりであるアンドレアスに声をかける。
……しかしクランマスターが床? 傲慢そうなこの男がよく許したな。
「……ひどくやられた? はんっ……まさか、それなら死んでる。メガロドンは俺たちと戦ってすらいない。……Ⅸは天変地異だ……」
見た目は五体満足に見えるが、おそらく瀕死なのだろう声に力がない。
「――それで、天変地異の隔離が解けたことは?」
床に横たわる男を見下ろし問いかける。
自らの非を認め謝罪した後なら、俺の嘘を責めても許す。こっちも謝ろう。
「……あぁ『破壊の杖』の奴から聞いた……」
声を震わせ顔を歪ませた屈強な男は、片手を持ち上げ眼を覆う。
「……すまない。俺は……功を焦り取り返しのつかないことをした……」
交流会で受けた印象からズレてきた――もっと傲慢な男と思っていた。
「……虫のいい頼みだが……彼方の来訪者、ランマ。……メガロドンを討ってくれ……」
「――ここに来たのはもとよりそのためだ。『光の意思たち』は『砕けぬ刃』と同盟を結んでいる」
「……すまないっ……」
「――だが俺だけで倒せる保証はない。お前たちはまだ戦えるか? アウロラに七線級クラン同盟から代表を出し合って戦うことを持ちかけられた」
――絶対防御は倒されないだけにすぎない。
道中でナウメに聞いたが、メガロドンは神獣王すら戦いを避け隔離状態のまま放置することを選んだⅨらしい。
俺1人の火力で撃破はおそらく無理。倒すためには火力を集める必要がある。
七線級クランにならば俺以上の火力を持つ者もいるはず、七線級クラン同盟で戦うことに異論はない。
……何よりこいつらの暴走理由を考えれば、七線級クランをこの戦いからハブらない方がいい。
どのクランにもある程度、活躍したという成果を与えたうえで倒すのが理想。
……やっぱ組織運営って面倒だよなぁ、関係者の顔を立てなきゃいけないのとか。
眞朱がいなかったら、俺たち本当ヤバかった。
「……正直に言えば……無理だ。格の違いがわかった、俺たちが戦力になれるとは思えない……」
片手を下ろし視線を合わせながら言ってくる。
「……そうか」
心が折れてるならどうしようもない。
「……だが、このままでは終われない。何よりこの事態を招いた責任がある。……メンバーの参戦は保証できない……。だが俺は戦う……この命お前に預ける、使いどころは決めてくれ」
胸元のクリスタルを握りながら、アンドレアスは言ってくる。
……命を預けられても困る、ぶっちゃけ即時返却したい。
「――わかった、まずは傷を癒やせ。話はそれからだ」
とはいえ、男の覚悟を無下にできるはずがない――ここは預かろう。
――診療所を出て、外で待っていたトリウィアとその影に潜り込んでいたナウメと合流する。
……そういえばアンドレアスの奴、俺の嘘を一言も責めなかったな。
「それで、これからどうするのかな?」
「あぁ、『破壊の杖』と『偉大十字』の代表パーティー到着をここで待つ」
トリウィアの質問に答える。
「ふむ。ところで、私が『始祖氷狼』に瞬殺されたことを思えば、同盟の主戦力を一気に失いかねないが、考えはあるのかね」
そうなんだよな。
ルミガ人最強を自負していたⅧのトリウィアを、開幕真っ二つにできるのがⅨ。
普通に戦えば俺とナウメ以外、容易く全滅するだろう……。
「……俺に攻撃を集める魔法か魔導具ってない?」
「あるにはある。しかしⅨがその気になれば、簡単に無効化されるだろう」
たいていの事はどうにかしてくれそうなトリウィアだが、やはり相手がⅨじゃそう都合よくはいかないよなぁ。
「うーん。ナウメはメガロドンの攻撃平気か?」
「にゃんは生存特化だから、大丈夫のはずにゃ。……けどにゃんの攻撃は通じないと思うにゃ」
「ナウメが安全に倒せるなら、人類の味方だった神獣王が倒してるよなぁ……」
代表パーティーが集まるまでの間、頭を捻らせたが閃きは生まれなかった――。




