63話:リーダーの決定
――『過剰な光』を継ぐと民衆の前で宣言してから数日――。
友方派メンバーを引き連れ悪党どもの粛正を繰り返した結果、王都の治安は友方が抑止力となっていたころへと戻りつつある。
これは予想どおりの流れだった。
友方の死後ならず者どもが調子に乗り出したのは、俺と直樹を謝れば命までは取らない甘ちゃんと舐めていたのが理由。
俺が殺意を込めて動けば、おとなしくなるのは自然だろう。
友方は『過剰な光』に怯え隠れ潜んだ奴らを、探してまでは殺していなかったようだが。
――抑止力が消えた途端どうなるかを見てしまった。
よって俺は隠れ潜んだ奴らも捜索し、掃討することを決めた。
クラン拠点1階会議室で、バキュウがメンバーから集まってきた情報をまとめ必要な事項のみを説明してくれる。
「ランマさまの活動とともに、王都より逃げ出した一味の行方がひとつ判明しました。どうやら西郊外へと拠点を移したようです」
「わかった。掃討に向かおう」
――席を立とうとした直後、扉にノックの音が響く。
「直樹か? 開いてるぞ」
気配で扉の向こうの相手を特定し声をかける。
「――嵐真、いま大丈夫か?」
会議室に入ってきた直樹は、異世界でも通じるイケメン顔を苦々しく歪めている。
「――何か悪い話か?」
俺の問いかけと合わせるように、バキュウは直樹へ目礼し会議室から出て扉を閉める。
「あぁいや、悪い、そういうわけじゃない」
想定外の修羅場ではともかく、日常で言いよどむのは珍しいな。
「なんだいまさら? 遠慮するような仲でもないだろ、言いたいことは言ってくれ」
「――そうだな、すまない嵐真ッ!」
突然頭を下げてくる直樹。
「――謝られる覚えないぞ?」
少し考えたが何も思い浮かばなかった。
まぁ直樹のことだから、謝る必要がないことに謝っている気がするが。
「『過剰な光』の件だ」
顔を上げた直樹は真剣な顔で視線を重ねてくる。
――あぁなるほど、直樹はこういう奴だった。
「別にお前がする必要はなかったことだぞ」
推測をもとに返答する。
「違うッ! リーダーは俺だ。本当は拓也にも背負わせちゃいけないことだった。なのに俺はまたしてもできなかった。機会はあった、なのに俺は……ただ王都を見回っていただけだ……そしてお前に背負わせてしまった……」
ふたたび自分を責めるような苦々しい顔になって、両手を震わせる直樹。
……直樹は俺が知るかぎり、もっとも正義の味方に近い男だ。
だからこそ推定有罪の相手を死刑にするのは難しく。
勝機がないからと相手が無抵抗になって、謝罪と反省を口にすれば詰みだろう。
俺は覚悟を決めて乗り越えたが……正直、直樹はこのままでいいと思う。
「『過剰な光』は俺が引き継がないと……いや違う。そもそも奴隷を救う、弱き民を救う、その方針を決定した俺がしなくちゃいけないことだった」
「何でもかんでも背負うなよ。お前以前、俺に手伝ってもらうって言ったろう? そして俺はいいぜと答えたはずだ。まさか忘れたのか?」
名前で呼び合う親友的な間柄になったときのやりとりだ、俺は忘れず覚えている。
「――あの日のことは一生忘れない…………拓也……」
悲しそうな顔になり、友方の名を呟く直樹。
……2人は最初から名前で呼び合ってたし、俺が知らない交友を転移する前から持っていたんだろう。
「友方だってお前に代わって欲しいなんて思ってなかったはずだ――むしろ僕の手柄をとるなって怒るだろうぜ?」
これ以上暗くならないように、肩をすくめながら戯けるように言う。
「ふっ、あぁ――たしかに拓也ならそう言うだろうな」
軽く笑って答えてくれる。
「そういうことだ、気にするな。それにここだけの話、俺は英雄に憧れていた。だから『過剰な光』は俺に譲ってくれ、好都合なんだよ」
直樹の気持ちを少しでも軽くするため、思いっきり茶化していく。
「それに肉丸たちは、お前に譲らないといけないんだろ?」
もっとも、いざその時が来たら直樹に手が下せるかは疑問だが。
……姫宮への印象は最期まで最悪だった――少なくとも友方を殺したことは絶対に許せないが――それでも最期の顔と謝罪は覚えている。
肉丸を許す選択肢はありえない、直樹が無理なら俺が殺る。
「あぁ、そこは譲れない。肉丸、いや弾吾はな、小学生のころつるんでた幼馴染みなんだ」
肉丸の名前、弾吾っていうのか……言われてみるとそうだったかなってレベルで忘却していた。
「――幼馴染みって初耳なんだが、それお前に殺れるのか?」
「中学からは疎遠になった。それでも……俺とあいつは屑のような行動をとってはいけないんだ……そう絶対に。なのにあいつはッ! 絶対に許せないッ! だから俺が殺る」
鬼気迫る何かを感じる。……屑のような行動をとってはいけないか。
直樹は先天性の正義マンと思っていたが、もしや後天性なのだろうか?
いまの関係なら聞けば答えてくれそうだが……。
「そうか――まあ無理はするなよ。殺れないときは俺に任せろ」
親しかろうと触れられたくないところの可能性が高い気がする、直樹から話してくるまでスルーしよう。
「あー、ホント悪いな。嵐真にはかっこ悪いところばっか見せてる」
頭を軽く掻きながら、自分の激情を恥ずかしそうにする直樹。
「それな! たまにはお前を持ち上げるメンバーが言ってるような、カッコいいところ見せてくれよな!」
「任せろ! ――と言いたいが、俺より嵐真の方が強いからなぁ」
「火力ならお前の方が上だろ――」
――暗い雰囲気を払拭するためお互い意図的に明るく振る舞う、直樹が気安く腕を肩にかけてくるのにも慣れた。
――その後直樹と別れ、当初の予定どおり王都より逃げ出し西郊外に隠れ潜んでいた一味を掃討。
夜、クラン拠点へ帰還した俺たちを水希が出迎えてくれた。
「お帰り、嵐真君。ガラトさんたちもお帰りなさい」
優しく微笑む水希に、ガラトパーティーのメンバーたちは照れたような反応で挨拶を返しながら食堂へ向かっていく。
ガラトは水希に微笑まれても、まるで動じていなかったな。
「わざわざ、どうした?」
偶然タイミングが一致したようには見えなかったため、メンバーたちを見送った後問いかける。
「うん、眞朱君が重大なお知らせがあるから、食事後クランマスター室に集まるようにって」
「わかった、言伝ありがとな」
即時招集でないなら、重大ではあるが緊急ではないのだろう。
「ううん、私たちも食事にいこ」
先に行ったメンバーたちの後を追うように、水希とクラン食堂に移動する。
――しかし水希ではなくトリウィアなら、わざわざ入り口で待ってもらわずとも念話で直接教えてもらえたな。
トリウィアと念話で話せる『固有魔導具』を受けとったことを眞朱に伝えておこう。
「主さまにゃー!」
食堂に入るなり、エプロンをつけた白黒髪の少女――ナウメが飛びついてくる。
頭を撫でてあげるが、猫耳がない完全人化形態なのが残念だ。
「さぁにゃんが作った、主さま専用料理を食べるにゃ! ミズにゃん専用料理もあるにゃよ!」
「それは楽しみだな」
「ありがとう、ナウメちゃん」
Ⅸ以外との戦いでは頼らないと告げてから、ナウメはおやつを求めて食堂にいることが多くなり、対価に料理を手伝うようになった。
微妙な味の違いがわからない奴は厨房に立つなと言って、大所帯であるうちの食事をほぼひとりで作り続けていたダンダンが、料理の手伝いを認めたのには驚いたな。
「――ごちそうさま、ナウメ今日も美味しかったぞ」
隣に座って楽しそうにしている、ナウメの頭を撫でながら感謝する。
「にゃははは、ダンダンより美味しいにゃろ?」
こいつ答えにくい質問をっ。
厨房にいるダンダンの兎耳がピクリと動いたのを俺は見た……どう答えよう。
「――お前とダンダンじゃ年齢に差がありすぎるし、アニマからの身体補正もデカすぎる。何より個人に合わせて作ってる専用料理と、クランメンバー全体のためにまとめて作る料理じゃ比べるのが間違――」
「ランマァァァ! 回りくどく言ってんじゃねぇよ! はっきり俺が負けてるって言えよ! ちくしょー! ナウメ俺は負けたまま終わらないからな!」
ダンダンを庇うため遠回しに言ってたのだが、ほかならぬ本人の怒声によって遮られてしまった。
「にゃは、いつでもかかってくるにゃ!」
ドヤ顔で上から目線で宣言するナウメ。
「……つーか、料理達人級ならプリン自分で作ればよかったんじゃないのか?」
「にゃうーん、自分のために自分で作っても美味しくないにゃよ」
両手を伸ばしテーブルに頬をぺたーとくっつけながら言ってくる。
まぁそりゃそうか。料理下手の俺でもナウメが言いたいことは何となくわかった。
「必ず、お前の作ったやつより美味いプリンを作ってやるからなァ!」
吠えるようにダンダンが宣言している。
「楽しみにゃん」
しかし数日でナウメとダンダンのパワーバランスが、こうも逆転するとはな――。
――そして食後クランマスター室に、4人の彼方の来訪者が集まる。
俺、直樹、水希、眞朱――こうして全員が集まると、1人欠けてしまったことを嫌でも意識してしまう。
死んだ直後は平気だったのになぁ、地味に効いてきた。
「皆の者、急な招集に関わらず集まってくれたこと感謝するでござる」
考え込んでいると眞朱が話を始めた。
「重大な知らせがあるでござる。嵐真殿の閃きをもとに調査を進めた結果、姫宮殿襲来前後に消息を絶っている大貴族を発見したでござる」
「女子たちのヒントかッ!」
直樹が身を乗り出す。
「王都東に領地を有するゴヌレ侯爵――拓也殿が作った嘘つきリストに名前が載っている男でござる」
「杏奈ちゃんはそこから逃げてきたのかな……?」
姫宮の名前を何ともいえない表情で呟く水希。
この世界に転移する前は交流があったようだし、思うところがあるのだろう。
「確定はできぬが、可能性は低くないと拙者は判断するでござる。現在ゴヌレ領では当主の失踪を隠蔽するため、必死に奔走しているようでござる」
「つまり、そいつの館に乗り込めばいいのか!」
言いながら席を立つ直樹。
「落ち着け直樹、いくら何でも焦りすぎだ」
いまにも飛び出しそうになる直樹を制する。
「姫宮殿は1人でござったし、女子がまだ捕まっているなら拙者らに教えていたはずでござる。注目すべきはゴヌレ侯爵の失踪隠蔽に助力している大貴族がいること――そしてその者も拓也殿のリストに名があることでござる」
「――そっちが本命だな、誰だ?」
眞朱に尋ねる。
「王都北東に領地を有するプッパス侯爵でござる」
知らない名前だが、侯爵ということは王国でもかなり上位。
国際法的にタブーであり、さらに非常に高価らしい彼方の来訪者の人身売買に手を染めることもできるはず。
「つまり、そいつの館に乗り込めばいいんだな?」
「ござるな。しかし直樹殿これらはすべて推測、何一つ確定していないでござる。外れならば『光の意思たち』の立場はかなり悪くなるでござる」
だがこのまま手をこまねいて確実な証拠を待っていても、女子たちが手遅れになる可能性は上がり続ける。
――ナウメに頼って遠視で確認してもらう手もあるか? いや、ダメな思考だ。
自分に都合よく縛りを解いてどうする、プッパス侯爵とやらにⅨ級が味方しているのはありえないレベル。
……直樹と違い、俺にとってはクラスの女子よりナウメの方が大切だしな。
「――リスクはあるが、いくしかない局面だろう。これ以上待っていても仕方ない」
「私もここは攻めた方がいいと思う。――それとごめんね、私が証拠を何か拾えたらよかったんだけど……」
水希は結局何も拾えなかったようだが、それを責める者はいない。
「水希は全力を尽くしてくれた、嵐真は気づきを与えてくれた、眞朱は調査をしてくれた、みんなありがとう――」
感謝を伝えた後、大きく息を吸う直樹。
「俺はパーティーリーダーとして決定する――『光の意思たち』はプッパス侯爵を、彼方の来訪者の人身売買者と仮定。プッパス領へ武力を用いた調査を行う。――殴り込みをかけるぞッ!」
直樹が溜めていた怒りを発露するように、強く宣言する。
――ついに邪悪な貴族と武力衝突か。
負けは考えられない、問題は被害ゼロで勝てるかどうかだな。




