62話:過剰な光に恐怖せよ
『過剰な光』を受け継ぐと宣言した俺に、バキュウは自分たちが向かおうとしていた場所の情報を伝えてきた。
――王都南端の酒場が調子に乗った悪党どもに占領されている――。
しかし悪党はどうしてこう酒場が好きなのだろうか? まあいい。
「よし、行くか。お前たちは手を出すな、逃がさないようにだけしてくれ」
過激派メンバーたちが暴走しないように指示を出して、酒場へ向かう――。
――酒場に入った俺が目にしたのは、無残な姿となっている数人の女。
そして扉を開けた俺に視線を向けてくる、10人を超える男たち。
その中心に覚えがある顔がいた――ちょっと前に王都で地面に叩きつけた男だ。
――ドゴオン。
そいつを酒場の床に叩きつけた。今回は死なないように手加減していない。
十中八九、即死だろう。
「――いい薬にはならなかったようだな」
あぁクソ。あの時殺しておくのが正解だった。
「ひぃいいいいいいいいいいい」
「ああぁぁ、俺たちが悪かった! ランマさまぁ! 許してくれぇ!」
――酒場を我が物顔で占領していた奴らが、必死の命乞いをしてくる。
「……お前たちが酔っ払って少し調子に乗るぐらいなら、命までは取らなかったがな」
こいつらに情状酌量の余地など微塵もない――死に絶えろ。
――友方は『告げ口』で自害させていたが、俺にできるのは――。
「ゴフゥ」
拳を腹に打ち込む。
「ッガ」
回し蹴りを放つ。
「ゆるじで、ゲブァ」
かかと落としを頭部へ。
アニマの差は圧倒的、よって技など不用。徒手空拳で殴殺できる。
返り血をわざわざ回避するような真似はせず、体が血に染まっていくのを感じる。
「ひぃひぃ、ま、待てよ! 話ぐらい聞いてくれ」
ゴロつきの1人が店の壁に背中をへばり付かせながら言ってくる。
「――俺がその気ならお前はもう死んでいる、なぜまだ生きているかわかるか?」
「は? あぁ! 話を聞いてくれるんだな!」
表情にわずかの安堵が見えた。
「いや、ゆっくり殺しているのは恐怖を与えるための見せしめだ。――その程度は償ってから逝けよ屑ども」
「ひいいいいい、い、嫌だぁ――ギハッ」
蹴りを叩きこんで壁にめり込ませる。
――そしてゴロつきどもの言い訳を、いっさい聞くことなく皆殺しにした――。
「ランマさま、お使いください」
バキュウがタオルを渡してくる。
「あぁ、次はどこだ?」
受けとったタオルで顔の返り血を拭いながら尋ねる。
「はい、この近くにもう1箇所占領されている酒場があります」
「わかった。ケライノ、女たちは生きているか?」
「……1人すでに事切れておりますが、あとの者たちはまだ生きております」
……衛兵に任せても治療は望めないだろうな。
「そうか――治療と埋葬の手配を頼む。費用は俺が出す」
Ⅲのクリスタルを売って補充した金を、ケライノに渡そうとするが受けとらない。
「いえ、この費用は私たちの方で出します。――トモカタさまは自らの取り分をすべて、我々の活動資金として提供してくださっておりましたので」
何だと? ……いや、だとしてもまったく褒められないぞ。
あいつ俺に結構金せびってきたし、クラン運営の共有資金をこっそり抜き取ったりもしていた。
それを問い詰めると、謎のツボや絵をドヤ顔で見せられたんだが?
こいつらの前でだけ、いい格好をしてもな……。
「わかった、それなら事後処理はお前たちに一任する」
「ハッ! 『光の意思たち』の名を汚すような真似はしないとお約束いたします」
ガラトが力強く答える。
俺は仲間を信じて、次の酒場へと向かった――。
――先ほどと同じように酒場を占領している悪党どもを、1人残らず殲滅。
「バキュウ、次は?」
バキュウを含めて半数ほどのメンバーは俺の方についてきている。
「私が把握しているかぎり、南はこの2箇所のみです」
2箇所か――いや、むしろ友方の死後それほど経たず2箇所もと考えるべきか。
……相当な不安を民衆には与えてしまっただろうな。
「――南広場に行くぞ」
「広場ですか? ランマさま、何かお考えがあるのですね」
俺の顔を見た、バキュウが頷いてくる。
「そんな大それたことじゃないがな、ただ宣言するだけだ。お前たち先に行って『光の意思たち』と俺の名前を使い、南の住人を広場に集めてくれ」
亜人の呼びかけでも、クランと俺の名を出せばある程度は人を集められるはず。
メンバーたちに指示を出すと威勢よく返事をして、統率が取れた動きで駆けだしていく。
あぁ、こいつら思っていたより頼りになるな。
――少し時間を置いてから南広場へ向かうと、想像以上の人だかりができていた。
「ランマさまだ!」
俺を見つけた1人が声を出すと視線が集まり、ざわめきだし、ひれ伏す者までいる。
手を上げ民衆に応えながら広場の中央へと進む俺に、道を空けるよう人だかりが割れていく。
広場中央に立ったときには俺を民衆がぐるりと囲む形となった。
「よく集まってくれた、礼を言う」
俺が話し始めると同時、ざわめきは消えて静まりかえる。
「――まず謝罪しよう。『光の意思たち』彼方の来訪者、死告のトモカタの死によって、王都の治安を乱してしまったことを――」
謝罪というには尊大な態度だが、俺の肩書きを考えるとこれぐらいでいいはずだ。
「そしてッ! この場で宣言するッ! 死告のトモカタの後は『光の意思たち』彼方の来訪者、紅き聖弓のランマが継ぐことをッ!」
「――――――ッわあああああああああ」
弱き民衆たちは俺の言葉こそを期待していたのだろう。
一瞬の静寂の後、広場に大歓声が巻き起こる。
「紅き聖弓のランマさま、ばんざーい!」
「『光の意思たち』ばんざーい!」
「『吉兆の彼方の来訪者』ばんざーいッ!」
「あぁこれでまた安心して暮らせるようになるのね!」
俺やクランを喝采する者、涙を流し喜ぶ者。
トモカタ、お前は仲間の亜人たちを守るために始めたらしいが、それでルミガ人をも救っていたんだな……。
「あのっランマさま」
女が1人前に出て近寄ってくる。
「どうした?」
「トモカタさまのクリスタルに、これを捧げていただけますか」
手に持った花束を渡される。
「……あぁ約束しよう」
「ありがとうございます!」
笑顔で頭を下げられる、そしてそれを見ていた民衆たちが――。
「それなら俺もトモカタさまに捧げ物をしたい!」
「私も何かを!」
――あぁ、俺はトモカタと同一視されるのが嫌で中央以外にはめったに立ち寄らなかったので、話半分だったが。
……お前本当に英雄視されていたんだな。
「待て、お前たち。生活があるだろう? 気持ちはこの花束だけで十分だ」
沸き立つ民衆を落ち着かせる。残念がる者たちもいたが理解してくれた。
――そして広場の端から隠れるように窺っている、ゴロつきじみた風体の者たちを意識しながら俺は――。
「――王都の邪悪よッ! 『過剰な光』に恐怖せよッ!」
高らかに宣言した。




