60話:過激派メンバーたち
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王都において真っ当に治安が保たれているのは、王城への道があり貴族の館が存在する北部。
そして商人、冒険者が活動拠点とする中央部とその近辺のみである。
王都の南端は中央部の賑やかさと比較して、嘘のように薄暗い雰囲気を纏う。
衛兵たちも真面目に仕事をこなさない無法地帯で、血だまりに沈む複数の男たち。
ろくな手入れもされていない汚れた皮の防具を身につけた男は、切り傷を押さえながら悪態を吐く。
「……クソがぁ、亜人の分際でぇ、人間さまにぃ!」
「アァン! この期に及んでそれか! トモカタのアニキに謝れゴミ屑がぁ!」
『光の意思たち』の過激派筆頭である狼獣人の男ライカスが、瀕死の男に蹴りを放つ。
「ゴファッ、ハァ……ハァ……彼方の来訪者のペットどもが調子に乗るなよ……」
瀕死の男はもはや生還を諦めており、憎まれ口を叩き続ける。
「……ペットだと? ――俺らとアニキは家族ダァ! 死ねや!」
ライカスの爪が瀕死の男を貫き、男は言葉もなく息絶えた。
「はぁはぁ……クソクソクソッ。どいつもこいつも、俺らは『光の意思たち』なんだぞ!?」
狼の顔を歪ませ叫ぶライカス。
それほど頭がよくない彼には、なぜ七線級クランのメンバーである自分たちがここまで舐められるのか、その理由を理解することができない。
「落ち着けライカス――仕方ないさ。七線級クランになったのだってランマさまのおかげだ。『光の意思たち』で実力を認められているのは彼方の来訪者さまたちだけ――そして何より俺たちは亜人だ……」
虎獣人の男がライカスに声をかけながら、男たちに襲われそうになっていたところを助けた女性に布を渡すが。
「ヒッ――ご、ごめんなさい。あ、あ、ありがとうございます」
女は差し出された布から怯えながら身を引き、震える声でお礼を言う。
「あぁ、この辺りは日が落ちる前だろうと女1人でうろつくな」
虎獣人の男は布を女に優しく投げて、可能なかぎり温和な声で言う。
「は、はい。あ、ありがとうございました」
布に身をくるんだ女は、まるで猛獣の巣に入り込んでしまったかのように怯えながら、逃げるように立ち去った。
「――ライカス、あなたが凶暴すぎて怖いんですよ」
「ハンッ、俺がこの場にいなくてお前らだけなら、あの女はビビらなかったのか?」
鳥人間の女がたしなめるように言うが、ライカスは一笑に付した。
「根本的な問題です……我々ではトモカタさまの『過剰な光』は引き継げないでしょう……」
過激派のブレインである、半人半馬の男が諦観を漏らす。
「アァン、なら止めるのか? 俺は1人だろうとやるぜ、アニキの功績をこんなゴミ屑どもに台無しにされてたまるかよ」
「俺も同意だ、トモカタさまが亡くなった途端にこのざま――これ以上怒りを抑えることができそうにない」
ライカスの言葉に、虎獣人の男は賛同する。
「私もです、たとえ私たちに『過剰な光』を引き継げずとも止まる気はありません」
鳥人間の女も同意し、過激派メンバーをまとめ上げる4人のうち3人の意見は一致。
「……そうですね、私もこのままでは納得できません……ですが我々には覚悟しなくてはいけないことがあります」
最後のまとめ役である半人半馬の男は、仲間たちに問いかける。
「――我々の行為がランマさま、ナオキさま、マシュさま、ミズキさまに迷惑をかけることになると」
まとめ役たちだけでなく、この場にいるすべての過激派メンバーを見渡すように視線を巡らせ、男は重々しく覚悟を問う。
「知るかよ、俺が好きなのはトモカタのアニキだけだ」
ライカスは即答。
「……迷惑はかけたくない、だがそれでも譲れない一線がある。トモカタさまの死が笑われるなど我慢できることではない」
虎獣人の男は覚悟を決めた顔つきで答え。
残りのメンバーたちも、それぞれの答えを返していく――ただの1人たりともやっぱり止めようと言う者はおらず。
「覚悟はいいようですね――では始めましょう『過剰な光』を、トモカタさまの偉業を汚す者たちに血の粛清をッ!」
「うおおおおおおおおおおおおッ!」
半人半馬の言葉に、メンバーたちは王都南端に響き渡るような咆哮を返す。
◆◆◆
――クランマスター室を飛び出て、王都南端を目指し疾走。
Ⅷの補正を全開にして、建物の屋根から屋根を飛び移るように移動する俺の耳に、つんざくような咆哮が聞こえてきた。
「――血気盛んな奴らだ」
内心でため息を吐きながら、独りごちる。
急ぐとしよう。背負う聖弓を起動、青き魔力を消費して身体能力を強化。
一気に加速し――視界に亜人の集団を捉えた。
集団の奥に血だまりがあり、何人か息絶えているようだが装備を見るに小悪党だろうし、後回しだな。
「――そこまでだ」
集団の先頭に立つライカスの前に着地しながら言い放った。
「ランマさま!?」
驚愕する過激派メンバーたち。
「お前たち何のつもりだ?」
体制を整え立ち上がり、威圧するように重々しく尋ねる。
「――我々は――」
半人半馬のバキュウが答えようとするのを、ライカスが片手を上げて制止した。
「俺たちは、アニキの『過剰な光』を引き継ぐッ」
それはすでにモモから聞いて知っている。
「わかっているのか? その行為がクランに迷惑をかけることになると」
「全員覚悟済みだッ――なぁ?」
ライカスが言葉とともに振り返り、仲間たちに確認をとる。
「あぁ」
「えぇ」
虎獣人の男ガラトと、鳥人間の女ケライノが頷く。
「……っ」
しかしその後ろにいるメンバーの多くは俺に気圧されたのだろう、息を呑む。
「オイッ! テメェら覚悟決めたんだろうが! なんで怯んでやがるッ!」
イラつくように声を荒げるライカス。
「ライカス、仲間にそんな態度でどうする。自分の思いどおりにならず、イライラして八つ当たり。まるで友方だぞ」
「…………ア?」
――俺に殺気を放ってくるライカス。
「いま、アニキを侮辱したか? ランマ?」
ライカスから呼び捨てにされたのは初めてだな。
「俺のなかでは――真実を言うのは侮辱に含まない」
呼び捨てにされたことそのものは別に構わないが、過激な思想を隠しもせず友方を崇拝するこいつらのことは、ずっと気に食わなかった。
結果、煽るような返答をしてしまった。
「ソイツァ、いいことを聞いたぜッ。なら俺も言わせてもらうぜ、ランマッ! テメェ何様だ? なんでトモカタのアニキをそんなに嫌う、彼方の来訪者同士だろうが」
頭では1度冷静になるべきと判断できているが……ダメだな感情が制御できない。
――いい機会だ。俺はこれまでクランメンバーとの関わりが少なかったしな。
感情のまま本音で話そう。
「友方と俺には軋轢がある。彼方の来訪者というフィルターで眼が曇り、あいつを崇拝するお前たちにはわからないだろうがな」
あいつが転移前、そして転移後にどれほどの自己中男だったと思っているんだ。
――俺は月島ほど頭はよくないが、思考パターンは似通っていた。
だからこそ理解していることもある、追放の話を木村に持ちかけたのは月島だろうし、追放したかったのは友方1人だけだろうと。
「アァァ! テメェにアニキの何がわかるんだよ!」
「――落ち着け、ライカス」
虎獣人のガラトがライカスの肩に手を置くが、それは荒々しく払いのけられた。
「ガラト、ほかのみんなも口を挟まないでくれ。俺は友方派筆頭のライカスと1度本気で話してみたい」
俺の意を汲んでくれた過激派のメンバーたちは下がり、後方よりライカスを見守る姿勢となる。
「――続きだ、ライカス。そもそもなんでそんなに友方を崇拝しているんだ? 俺にはそこからわからない」
「いいぜ教えてやるよ、ついでにテメェに言ってやりたいこともある」
「あぁ好きに言えよ、口は挟まないし暴力で解決もしない」
「――俺はルミガ人にだけ嫌われてるわけじゃない、奴隷狩りで捕まる前から狼獣人の村じゃ乱暴者の嫌われ者であぶれてた」
話し始めるライカス。いまのところ内容は理解できる。
「それでも奴隷の屈辱から、『光の意思たち』に解放された後は、迷惑かけちゃ悪いと思って必死に乱暴な自分を抑えてた」
言われてみれば、俺がライカスを過激なヤベー奴として認識したのは『過剰な光』で、友方の取り巻きをしていたのを見てからだな。
「安い食材買い出しに王都の南――つまりここらに来たときに、ルミガ人どもに汚らわしい亜人が王都を歩くなと唾を吐かれたときも耐えて我慢していた」
話ながら屈辱を思い出したのか、狼の顔を歪めるライカス。
「だがッ! ある日の買い出しでトモカタさまが俺の後をつけていたんだ! その日も馬鹿にされて尻尾を踏まれたッ! そしてッ! アニキが出てきてッ! 僕の家族を馬鹿にするなと言って、屑どもを躊躇なく殺してくれたんだッ!」
感情が高ぶっているようだ、話し方がおかしくなってきている。
しかし友方が王都南で人を殺したというこの話、まさか――。
「そして『過剰な光』は始まった! トモカタのアニキはあれを俺たち亜人のために始めてくれたんだよッ!」
――俺が知るかぎり、この話が友方最初の殺人だ、自分がムカつくから殺していたんじゃなかったのか?
……友方になぜ殺したのか問い詰めても、ムカついたからとしか言わなかった。
俺的には納得の理由だったし、何より相手が庇う価値もない小悪党だったから、それ以上の追求はしなかった。
その後も正義の大掃除などと宣いながら小悪党を殺し続けていたが、俺は止めるに止められなかった。
王都の端に住む弱者たちが友方の凶行を、彼方の来訪者さま万歳と喝采していたからな……。
「それとッ! テメェに言っておきたいことがあんだよ! ランマッお前! なんで俺たちがアニキをタクヤさまと呼ばないかわかるか!?」
それは正直気になっていたが、わざわざ首を突っ込むほどでもないのでスルーしていた事柄だ。
「タクヤさまと呼ぼうとしたとき、トモカタのアニキが言ったからだ! ランマが僕を認めてタクヤと呼ぶまではトモカタと呼べってな!」
は……?
「なのに最期まであんたはッ! アニキを認めてくれなかった!」
どういうことだ? わけがわからない。なぜ友方がそんなことを言う?
「トモカタのアニキが過激すぎることなんて、俺たちだってわかってる! 『光の意思たち』は俺たちを救ってくれた!」
何だと……? こいつら友方が過激すぎておかしいことをわかっていたのか?
ダメだ、整理できない――俺は眞朱や月島ほど頭がよくない。
「それでも俺たちにとって最高の彼方の来訪者さまは、最強のランマさまでも! もっとも多くに慕われているナオキさまでも! クランマスターのマシュさまでも! 美しいミズキさまでもない! トモカタ――タクヤさまなんだッ!」
高ぶる感情を全身で表現しようとするかのように、両手を振り回しながらライカスは宣言する。
「そう、トモカタさまは敬うに値するお方だった。あの方は誰よりも家族を――クランメンバーを大切にしていらした」
後方にいたガラトがライカスの隣に立ちながら、力強く言葉を放つ。
そしてケライノも翼腕を持ち上げながら前に出て言ってくる。
「私はかつてこの翼腕がコンプレックスで――人間の美しい手が羨ましかった」
ケライノの翼腕は茶色で文様が浮かんでおり、まるで蛾の羽のよう――俺の美的感覚だと不気味と内心思うのを否定するのは難しい。
「ですが、トモカタさまはこの腕を――エゾスズメみたいという言葉の意味はわかりませんでしたが、カッコいいと褒めてくださいました。彼方の来訪者さまに認められたことで、私のコンプレックスは払拭されたのです……」
ケライノは悲しげに顔を伏せる。
「――トモカタさまに問題が多いことは百も承知です。ですがあの方にはそれを上回るよき面がありました――私がトモカタさまに忠義を尽くすのもそれゆえです」
過激な友方派にいるのが内心不思議だった男、バキュウも後に続いた。
友方派のまとめ役である4人の吐露に続くように、ほかの過激派メンバーたちも思いをぶつけてくる。
――――俺は――――。




