57話:同盟が結ばれる
「月島ッ!」
俺は男の苗字を言い放つ。
アウロラに外された仮面の下より現れた顔は間違いなく、月島 零夜、クラスの学級委員長だった男。
――最後に見たときより2年分成長しているが、賢そうな顔は相変わらずで眼鏡もかけたままだ。
「クッククク、ハアッハハー、いい顔だ! さぁ名乗れオレの弟子よ! そしてアイツらも驚愕させてやるがいいさ」
俺の顔を見て満足げに頷いた後、アリアとアンドレアスの両者を指差しながら指示するアウロラ。
「ふぅ、面倒な演出ですね……。私は『破壊の杖』のメンバー、彼方の来訪者のレイヤ、アニマクラスはⅣです、皆さんよろしくお願いいたします」
眼鏡の真ん中に指を当てながら名乗った後、軽く一礼する月島。
Ⅳなら眼鏡はいらないと思うが、ファッションのつもりか?
「なっ!? 彼方の来訪者だと!」
「――『光の意思たち』以外にもいたのですか」
月島の存在は俺だけでなく両者にとっても予想外だったらしく、ほぼ同時に驚愕を漏らす。
「ハアッハー、うちのとっておきだ、期待どおりの反応をありがとう!」
自慢げにドヤ顔を披露する女。
「マスター・アウロラ、服装だけでなく性格の方も趣味が悪いですね。もう少し立場に相応しい品性を意識してはいかがでしょうか?」
「ハッ、彼方の来訪者なしクランどもの遠吠えは気持ちいいぜ」
――そして事前に予想したとおりのマウント合戦が始まった。
眞朱はこめかみを押さえ、月島は肩をすくめている。
姫宮の話で月島は、王都到着後にクラスを抜けて単独行動をとったと聞いていたが、まさか『破壊の杖』にいるとはな……。
……いま思い返すと月島の天星スキル『氷河期』の性能は、かなり高位だったと予想できる。
なにせ本来世界に吸収されて消えるはずの死体を、Ⅰの段階から凍結保存できていたのだ。
まあさすがに『うずくまる』と同格のEX級ではないと思うが。
――マウント合戦は『砕けぬ刃』が一人負け状態のようだ。
マスター・アンドレアスは悔しそうに顔を歪ませて、歯ぎしりしている。
「さて自慢も済んだ。そろそろ本題に入らせてもらうぜ、マスター・マシュ」
椅子に座り両足を円卓テーブルに乗せながらアウロラが宣言する。マナー悪ぃ。
「……本題? 今日はただの顔見せでござろう」
アウロラが何を話したいのか予想できないのだろう、困惑気味に返答するマシュ。
――少し考えてみたが俺にもわからない。この女の思考は読めなすぎる。
「クッククク、お前たちは七線級にまで上がったんだ、いい加減話してもいい話題があるだろう? たとえば『光の意思たち』の目的とかな」
犬歯を見せながらニヤニヤ笑う薄紫髪の女。
「――何のことでござるか?」
額に手を当てながら、眼を細める眞朱。
「とぼけるなよ。さすがに気づいてないのは脳筋クランぐらいだろ。なぁマスター・アリア?」
「――私には彼方の来訪者さまたちの深きお考えなどわかりません。無論、剣を振るしか能がない男よりは理解に近いと思いますが」
青がかった緑髪の女はとぼけるように返答する。
……クランの目的を知っているのは真の仲間以外では、俺が教えたトリウィアとナウメだけと思っていた。
外部には奴隷の一部を解放して、それで満足しながらクラン活動を続けているように見せてきたはずだが、バレバレだったのか?
「オイ、テメェらあまり調子に乗るなよ。うちと全面的にやり合うか?」
ただ『砕けぬ刃』のマスターはまるでわかっていなそうだ。
この男も決して馬鹿ではないはずだが、アリアとアウロラが鋭すぎるだけか?
それとも王国上層部にもバレバレなのだろうか? ――考えてもわからないな。
「私に無駄な戦いをするつもりはありません。ですが、もう少し冷静に物事を判断することを推奨します、古竜剣を継ぎし者アンドレアス。仮に戦ったとしてもあなたたちでは『偉大十字』に勝てませんよ」
「――七線級最弱クランがよく言った」
殺意を放ちながら、椅子の隣に置かれていた大剣の柄に手を当てるアンドレアス。
アリアの背後に立つ女リノも応じるように腰の剣へ手を伸ばす。
「――止めるでござるよ、話がズレているでござる」
眞朱の仲裁で両者は手を戻したが――やれやれ七線級クランは仲が悪すぎる。
「アッハハハ、どうせお前たちが止めるとわかったうえでの茶番だ、本気でやり合う気はないだろうぜ」
「マスター・アウロラ殿、これ以上煽るのであれば本題を聞かずに解散するでござるよ」
「それは困る、話を進めよう。――『光の意思たち』お前たちは王国革命を考えているだろ?」
「何だとッ!?」
やはりわかっていなかったようだ、アンドレアスは見るからに動揺する。
「何を根拠に言っているでござるか?」
「ハッ奴隷解放をチマチマやろうと馬鹿らしいだろ? 切りがなければ意味もない。そしてお前たちには力がある、なら根本から変えようとするのが自然だ」
「それは根拠じゃなく憶測だろ」
ただの当てずっぽうに思わず口を挟んでしまう。
「事実がそうなら、過程なんて当たろうが外れようが関係ないぜ――いまのお前たちの態度と反応が何よりの答えだ」
……この女はああ言えばこう言う奴だな。
そして最後は一方的に勝利宣言するのだろう。嫌いなタイプだ。
「この本題は『破壊の杖』に何の得があるでござるか?」
「おおいにあるぜ、オレは間違いなく『光の意思たち』が勝つと判断している。つまり問題は勝利までに発生する犠牲数だ」
言いながら指を立ててくる。
「お前たちはそれを最小限に留めたいと思っているだろう? なら七線級クランを味方にしたいはずだ」
ムカつくが全部当たってやがる。
そうルミガ王を倒すだけでいいなら、俺が1人で王宮に乗り込むだけで勝てる。
「『破壊の杖は勝ち馬に乗る」
――奴隷解放や、悪政改善に協力したい――などという気が皆無なのはわかる。
「それで要求はなんでござるか?」
「いいぜ、話が早い。『破壊の杖』の要求はお前たちの勝利後に作られる新王国でうちを王立魔法研究所として魔法研究の資金を提供。そして――死刑囚を魔法実験で使うことを許可して欲しい」
ッ前半はわかるが、人体実験の許可だと!?
「知ってるだろうが、神獣王が定めた古くさい法律によって魔法実験での殺人は禁止されている。それによって魔法研究に支障をきたしているが、破ると神獣アヌビスが襲来する。オレたちじゃ勝ち目はない」
お手上げというように、両手を上げながらアウロラが言う。
「――権力と研究資金、そして神獣アヌビスの撃破でござるか」
「できるだろ? Ⅸ殺し、紅き聖弓のランマ」
俺に目線を送ってくるが――問題は倒せるかどうか以前だ。
「ふざけるなよ、人体実験だと? 認められるかよ!」
「死刑囚に限定したぜ」
「どうせ殺すなら何をしてもいいと思ってるのか?」
「魔法の発展は人類の利になる、屑を有効活用することに問題あるか? 死刑囚を決めるのはお前たちが作る法律だぜ。それともどんな屑でも許して生かすのか?」
そういう話じゃない、この女とは絶対に相容れないことがわかる。
月島にお前のマスターをどうにかしろと目で示すが、首を横に振られる。
お前は俺たちを追放した1人だが、それでも常識人だと思っていたのにッ!
「ふむ、その条件を呑めば『破壊の杖』は全面的に味方になるのでござるな?」
「眞朱!?」
「オレたち『破壊の杖』の目的は魔法研究だからな。それができるなら強者に従うぜ」
「嵐真殿。――拙者らの倫理観に目をつむれば、そう悪い条件ではござらぬよ」
――合理的に考えればそうだろうが――いや眞朱の決定に従おう。
死刑囚と仲間の命が天秤に乗るはずがないのだから。
俺は無言で頷いた。
「『光の意思たち』は『破壊の杖』の提示する条件を受け入れるでござる。しかし神獣アヌビス撃破は王国革命が終わった後でよろしいでござるな?」
「構わないぜ。それまでに『破壊の杖』の価値をそちらの彼方の来訪者に示して、やる気を出してもらうとしよう」
お前のために神獣と戦う気なんて、天変地異が起きても湧き上がらないと思う。
「――それでお前たちはどうする?」
アウロラが残り2つのクランマスターへ問いかけた。
「……ふん、この状況だ教えてやるよ。俺はもとから王国の屑どもが気に食わなかった、機会があればと考えてもいた。『砕けぬ刃』も乗ってやる」
何か私怨があるのだろうか、アンドレアスは瞳を暗くしながら協力を宣言する。
「ただし俺たちにも対価はもらう――そうだな革命に協力した『砕けぬ刃』のメンバーすべてに新王国での上級国籍を与えてくれ。そして希望者を最高位の騎士団へと入れてもらおう」
アウロラの要求より遥かにマシで理解もできる。
しかし革命後の新国家をどう統治するか考えるのは、眞朱に一任していたが。
王政を引き継ぐのだろうか、国籍に階級をつけて分けるのだろうか。
「要求は理解したでござる。『光の意思たち』は『砕けぬ刃』の提示する条件を受け入れるでござる」
つまり王政で統治して国籍もいくつかに分ける予定ということか。
まあ俺たちの目的は民主化することじゃないし、革命協力者たちへの報酬を考えるとそれが現実的なのだろう。
「話は纏まったようですね。『偉大十字』は、ほかクランのような欲深き要求はいたしません。対価などなくとも彼方の来訪者さまたちにご協力させていただきます」
アリアが柔らかく微笑みながら言う。
慎ましやかな発言だが、『光の意思たち』ではなく彼方の来訪者に協力するという宣言。
それはクラン同士の対等な協力関係ではなく、俺たちに一方的な貸しを作ろうとしているように聞こえてしまう。
「マスター・アリア殿、『偉大十字』のお力を借りられるのは心強い、感謝するでござる」
――これで王国革命時の懸念事項だった、七線級クラン3つを味方にできたことになるわけか。
「ハッハー! いいぞ、ここに七線級クラン同盟は結ばれた!」
アウロラが円卓テーブルの上に飛び乗って片腕を上げながら宣言した。




