56話:七線級クラン顔見せ交流会
ルミガ大陸では七線級クランが新たに誕生したとき。
七線級クランの代表たちが集う、顔見せの交流会が開かれる慣例が存在する。
その交流会にはクランマスターのほかに1人まで同行が認められており、基本的にマスターを除いたクランの最強戦力が選ばれるらしく。
俺はクランマスターの眞朱とともに参加することになった。
昼すぎごろ、王都ラプロン中央から少しだけ奥まったところにある会議場。
その通路を眞朱と進んでいく。
「嵐真殿、苦手なことに付き合わせてすまぬでござるな」
クランマスターとして一歩俺の前を歩く眞朱から声をかけられる。
異世界へクラス転移する前は特別親しいわけではなく、むしろ距離をとっていたクラスメイトだったが――転移後から2年間ともに活動を続けているとお互い相手の得手不得手がわかってくる。
眞朱の言葉どおり俺は机で駆け引きをするような場を好まない、だが――。
「気にするな、どうせ交流会なんて名ばかりで、ようは最高位クラン同士のマウント合戦だろ?」
「うむぅ」
苦虫を噛みつぶしたような顔で頷く眞朱。
数日前に昇格したばかりの新顔である、俺たちのクラン『光の意思たち』を含めて、現在ルミガ大陸に七線級クランは4つ存在する。
――別に最高位にかぎった話ではないが、クラン間の関係は良好になりづらい。
利害の一致で協力することはあれど、基本ライバル関係なうえクランの目的もそれぞれ異なるしな。
「相手は大陸屈指の猛者たちだ、クラン最強不在じゃ厳しいだろ。頼まれなくても俺からついてきたさ」
軽口で答える。
「やはり嵐真殿は心強いでござる。もっとも今日はそれほど剣呑な事態にはならぬはず、拙者は初対面というわけではござらぬしな」
これまで『光の意思たち』は五線級で格下だったが。
この世界にとって特別な存在、彼方の来訪者である地球人を5人も有していた俺たちの立ち位置は特殊だった。
俺は『偉大十字』以外のマスターとは初対面だが、眞朱は全員とすでに交流を持っているのだろう。
「――待て眞朱」
通路を進み会議室への扉が見えたとき、部屋の中から強烈な戦意を感じた俺は眞朱の前に出て制止する。
「む?」
眞朱のアニマクラスはⅢ――低いわけではないが、この場においては間違いなく格下である。
戦意を感じ取れていないらしく、呆けたような返事をされる。
「俺たちに向けられているわけじゃないが、誰かが室内で戦意を放っている――」
ガギイイイイイイイイインン。
状況を説明中に戦意は殺意へと変わり、剣がぶつかり合うような音が聞こえた。
「眞朱下がっていろッ」
俺は声をかけながら扉を蹴破り会議室へと突入する。
――眼前には。
椅子に座る『偉大十字』のクランマスター、聖光のアリアに無骨な大剣を振り下ろす大柄の男。
大剣はアリアの後ろにいる女の剣によって受け止められていた。
アリアと女の服は黒を基調にした修道服。
「ククク、アッハハハ、いいぞいいぞ、お前ら潰し合え」
椅子に座り円卓テーブルに両足を上げ体を揺らしながら、薄い紫色の髪をした女が鋭い犬歯を見せながら煽って笑う。
その背後にはフードを被り仮面をつけた者がいる。
「アリア、何だこの事態は?」
大剣を振り下ろされている状況でも、薄く微笑む唯一の顔見知りに事情を尋ねる。
「たいしたことではありませんよ。彼方の来訪者ランマさま」
エメラルドグリーンの髪をした女は答えてくれるが、いやどう見ても異常事態だろ。
俺の不服そうな顔を見て取ったのか、アリアは説明を追加してくれる。
「彼の首飾り――あの生命をいつまで地上に縛り続けるのかと問いかけたのですが――ご覧のありさまです」
大剣を持つ男の首元にネックレスとして身につけられているクリスタルを見て、おおむね状況を理解した。
いかつい顔を赤くして怒りを隠そうともしない男から、それはファッションなどではなく大切な誰かの形見なのだと推察できる。
『偉大十字』はある宗教の信徒が集まったクランである。
宗教の名は『L・O・D教』。
そのもっとも有名な教義が、鎮魂するために死者のクリスタルを砕くということ。
結果クリスタルを形見にする者との間で、よくトラブルを発生させているのだ。
今回もそのひとつなのだろう。
「まあ事情はわかったが、お互いに引けよ。これ以上ここでやり合う気なら俺が相手になるぞ」
――この場で最強の戦力は俺だという確信のもと、上から目線で仲裁する。
こういうのは下手に出て穏便に収めようとするより、立場や武力を背景にして強引にまとめた方がいいことを2年間での経験から学んでいる。
もちろん理想は両者を相互に理解させて和解に持っていくことだろうが……。
片方は形見、もう片方は宗教と根が深すぎる。洗脳でもしないかぎり無理だろう。
「ご安心を私は誰とも敵対する意図はありません。『砕けぬ刃』マスター・アンドレアス。あなたはランマさまの言葉を無視するほどに頭の巡りが悪いのですか?」
「チッ、クソアマッ! テメェが売った喧嘩だろうがッ! ――あぁ彼方の来訪者さま、俺に敵対する気はありませんよ」
アリアの言葉にアンドレアスと呼ばれた男はさらに激高したが、自らの立場と状況を思い出したのか、怒りを瞬時に静め語気を穏やかにしながら俺へ返答。
大剣を下ろして円卓テーブルをなぞるように歩き、アリアからもっとも遠い席に座った。
それを睨みつけていた、大剣を片手剣で止めた女も剣を鞘へと収める。
――どこかで見たことがあるような赤髪の女だな。
「ひとまず一件落着でござるな」
俺が蹴り壊した入り口から眞朱が言葉とともに入ってくる。
「さて、各クランのマスター方お久しぶりでござる」
「ハッハー待てよ、マスター・マシュ。初対面の体で自己紹介していこうぜ? オレはそっちの彼方の来訪者は初対面だしな。それとうちは最後にするぜ、ククク」
いったい何が楽しいのか、ニヤニヤと言う女。
消去法でこの乱暴な口調の女が『破壊の杖』のマスターか。
――しかしロックなファッションだ、ジーンズの片脚はズタボロのダメージ加工。
上はクロップ・トップの服で胸元しか隠していない。
そして若すぎる、薄い紫髪の女はまだ15前後にしか見えない。
だが見た目と実年齢が一致しない人間は珍しくとも、いないわけではない。
『破壊の杖』は魔法系クランの頂点、魔法での若作りかな。
――誰も女の提案を否定しなかったため、まずこの集まりの主役といえる俺たちから名乗ることになる。
「拙者はこのたび七線級へと昇格したクラン、『光の意思たち』のマスターを務める者。彼方の来訪者のマシュ、アニマクラスはⅢでござる」
眞朱は自らのアニマクラスを明かす。それは自己紹介として最高峰の礼とされる。
まあ調べる魔法は存在するから、絶対に隠さなければいけない情報ではないが。
「俺は『光の意思たち』の幹部、戦闘員筆頭。彼方の来訪者紅き聖弓のランマ。位階はⅧ」
俺も眞朱に続いて名乗りを上げる。
「ッやはりⅧか――」
『砕けぬ刃』のマスター、アンドレアスが言葉を漏らした。
Ⅷは人類最高峰の位階であり、そこまで至った者は歴史を見ても数えるほどらしい。
おそらく七線級クラン最強格である彼らでも、位階はⅦ止まりのはず。
「では次は私たちが名乗らせていただきましょう。『砕けぬ刃』まさかこの順番にまでケチをつけたりはしませんよね?」
「勝手にしろッ」
アリアの言葉に語気を強めて返すアンドレアス。
「では、この場に知らぬ者はいないでしょうが――」
少し青がかった緑髪の女アリアが、言葉とともに席から立ち名乗りを上げる。
「私は『偉大十字』の21代目クランマスター、選ばれし祝福者聖光のアリア。アニマはⅦです」
強力な治癒系天星スキルの保有者で、癒やしの女神アリアとも呼ばれている彼女がクランマスターとなってから、信徒の数が爆発的に増加したと以前聞いたことがある。
「さあ、リノ」
アリアは後ろの女に声をかけた後席に座る。
「はい――私は『偉大十字』の幹部。そしてパーティー『ホーリーセイバー』のリーダー、選ばれし祝福者光剣振るいし者リノ。アニマはⅦ」
赤髪の女が名乗りを上げる。髪色に加えて名前も近いな、リタの血縁だろうか?
――だとしても俺にできることはない。たとえ家族だろうと聖弓を渡す気はなく。
リタの意識が一時的に戻ったことを伝えるのも彼女たちの宗教を考えると危険だしな。
「最後がアイツらなら次は俺たちか――」
開幕の一件から苛立ち続けている男が、後ろで黙したまま巨木のように控え続ける巨大な男にお前から名乗れと告げるように顎を動かす。
「…………『砕けぬ刃』……選ばれし祝福者……無痛の……トロロ……Ⅵ……」
喋るのが苦手なのだろうか、巨大な男は最低限の言葉だけをゆっくり言ってからふたたび沈黙した。
「俺は『砕けぬ刃』5代目クランマスター、古竜剣を継ぎし者アンドレアス。位階はⅦだ」
「選ばれし祝福者じゃないのか?」
「アァッ!? 悪いかよ?」
ヤベえ、思ったことがつい口に出てしまった。
ギロリと睨まれたがこれは俺が悪いな。
「いや悪かった、純粋に思ったことを言ってしまっただけなんだ。天星スキルなしでその地位と位階は凄いな」
「チッⅧの彼方の来訪者さまから見りゃ雑魚でしょうよ」
ダメだな、何を言っても悪く受け取られる状態になってしまっている。
……しかし完全に心証を悪くしてしまった、椅子に座る眞朱の背中に心で謝る。
「ハッハー、オレの番だな! 『破壊の杖』13代目マスター! 選ばれし祝福者紫界のアウロラ、17歳! クラスはⅥ、趣味は魔法研究! 夢は初代マスターを越える魔法使い!」
円卓テーブルの上に飛び乗って踊るように、年齢、趣味、夢まで名乗りを上げた女アウロラ。
見た目の印象より少し年上だったが、魔法での若作りではないのか。
俺より年下で七線級クランのマスターにまでなるとは驚きだ。
――それだけ魔法の才能があるのだろう。
「よっし、そんじゃうちのとっておきを見せてやるぜ」
ニヤつきながらテーブルから飛び降りて、後ろに控えていたフードと仮面をつけた相手の隣に立って、その仮面を外す――。
「なっ!? お前は!?」
まったくの想定外だった人物が現れたことで俺は驚愕する。




