54話:七線級クラン昇格
ざわざわざわざわ。
――昼ごろ『光の意思たち《ライト・スピリッツ》』のクランエンブレムが掲げられる拠点入り口に、仲間たちが続々と集まってくる。
エンブレムの下に付けられているランクプレートに、2本の線が新たに刻まれる瞬間を見届けるために集まってきたためだ。
俺たちのクランメンバー数は、宗教系クラン『偉大十字』に次いでルミガ大陸2番目である。
もっともその大半は冒険者ではなくクラン職員としての加入なため、彼方の来訪者を除いたクランの総戦闘力は、ほかの七線級クランには遠く及ばないだろう。
しかしトリウィアとナウメをまとめて紹介したいと思っていたので、メンバーのほぼすべてが集まったのはタイミングがよかった。
――俺は直樹が現れたタイミングで2人を紹介した。
クランにトリウィアを知る者はいなかったが、神獣のインパクトはやはり大きく。
その主としてまた持ち上げられて困っていたときに――1人の男が現れて場は圧されるように静まりかえる。
白髪交じりの初老でありながらも、強烈な圧力を放つ隻腕の偉丈夫。
王都ラプロン冒険者ギルド代表、古竜殺しのロイド。
もと冒険者で七線級クラン『砕けぬ刃』の先代クランマスター。
1度上昇したアニマクラスは、前線を退いても下がることはない。
そのため戦闘強者の地位が老化によって揺らぎにくい社会。
ルミガ人を嫌う過激派のメンバーたちですら、男を煽るようなことはなく黙って息を呑む。
「ロイド殿お待ちしておりましたでござる」
眞朱が前に出て、クランマスターとして迎え入れる。
ふざけているようにも聞こえる語尾だが、世界による人類間言語翻訳を通すと違和感はないらしく、現地人からツッコミが入ったことはなく。
漢の象徴ヘッドとかいういかれた髪型も、真の仲間になりクラン設立時には普通のマッシュルームカットになったため、いまの眞朱はクラン屈指の常識人。
「――冒険者ギルドルミガ大陸代表ロイドが『光の意思たち《ライト・スピリッツ》』の線級昇格を認めよう。わずか2年足らずでの七線級到達見事だ。『光の意思たち《ライト・スピリッツ》』マスター・マシュ」
周囲を圧するような声で告げられる。
「拙者の力など微々たるもの、仲間たちのおかげでござるよ」
眞朱はプレシャーに怯むことなく、手を広げメンバーたちを示す。
謙遜だな、クランは眞朱がいなければ、絶対に上手く成り立っていない。
直樹のカリスマはダントツだが直情的な性格に加えて、修羅場を思考で打開するようなことが苦手なためクランマスター向きとはいえず。
優しすぎる水希では難しく。
最強の戦闘力を持つ俺も、人の上に立つことに向いていない性格。
友方など考える必要すらない。
高い知力、人並み以上の機転、厳しすぎず優しすぎない現実的な判断、責任感。
そしてそれらに耐えられる精神力を持つ、眞朱だからこそクランは成立したのだ。
「――そうか」
ロイドは言葉少なく、俺たちを見渡した後に頷く。
そしてクランエンブレムに向かって歩みを進める。
誰かが指示したわけではないが、メンバーたちは道を空けていく。
「――刻もう、新たなる線を」
エンブレム前に辿り着いたロイドは懐から、ランクプレートに線を刻むための筆型『固有魔導具』を取り出して宣言する。
誰かがゴクリと唾を飲む音が聞こえた。
「――刻・六線」
プレートに筆を当てながらロイドが宣言すると同時。
五色五本の線が六色六線へと変化。
「――刻・七線」
そしてランクプレートに赤、橙、黄、緑、青、藍、紫――七色の横線が刻まれた。
これこそが現存する最高位たる七線級クランの証。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
大地を揺らさんばかりの喝采を上げるクランメンバーたち。
――俺も嬉しさを感じたが、耳を破壊するかのような大咆哮には驚愕する。
メンバーたちがこれほど喜ぶのは想定外だった。
「やったぞ! 俺たちが七線級だぁあああああ!」
「はにゃにゃにゃ! 凄いです、私が七線級クランのメンバーになるなんて!」
「紅き聖弓のランマさま、ばんざーい!」
「トモカタのアニキィィ! ちくしょう! いっしょに見たかった! なんでッアニキィィ!」
「トモカタさま……私たちは七線級クランとなりました、ありがとうございます」
「『麒麟槍』のナオキさま、ばんざーい!」
「まさか七線級にまでなっちまうとはな」
「ミズキさま世界一かわいいです!」
「『吉兆の彼方の来訪者』ばんざーいッ!」
「マスター、ばんざーい!」
思い思いの声を上げるメンバーたち。
眞朱たちに目を向けると、俺と同じく戸惑いの表情。
俺たちにも達成感はあるが、転移から2年で辿り着いた程度にすぎない。
――彼ら彼女らの大歓喜は、七線級クランの重さを理解している現地人類だからこそなのだろう。
「――ほう、大聖女さまとは――珍しい」
ロイドが大歓声のなかで呟いた言葉を、Ⅷ級アニマ補正で聴力を強化している俺は拾った。
――そして次の瞬間――ロイド登場時に匹敵――いやそれを上回る圧力が場をまたたく間に静寂へと導いた。
――リィンリィン。
錫杖を鳴らしながら、足下まで届きそうな長い金色の髪を持つ女が歩いてくる。
ロイドの放つ圧は純粋な暴力を背景に感じさせるものだったが、白と青の神官服を着た女が放つのは神聖なる圧力。
「――大聖女が『聖櫃』を離れるとはな」
トリウィアが珍しく驚いたように目を丸くして呟いた。




