53話:朗報
――朝ナウメにおはようのペロペロで起こされる。
「おはようにゃん」
「……あぁおはよう」
朝はあまり強くない。
まどろむ頭で部屋を見渡すと、トリウィアが昨日と同じようにクリスタルを眺めていた。
「おはよう、トリウィア。今日もずっとそれか?」
「…………うん? 目覚めたのかランマ、おはよう」
やはり反応が鈍い、よほど集中しているのだろう。
「『固有魔導具』化の手順をキミは知らないようだね。これはクリスタルのアニマパターンを観察しているんだ。前例が少なかったり、アニマクラスが高かったりするクリスタルは時間がかかる」
多少の興味はあるが、それは完成した魔導具に対してのもので。
工作は手先が不器用で地球にいたころから好きじゃなかったからなぁ。
「彼方の来訪者は初めて見るんだ、私でも数日は終わりそうにない」
俺の根気じゃつらそうな工程だが、トリウィアにとっては好奇心が刺激されて楽しいのだろう明るい声で言う。
「そうか、まあ朝だし紅茶ぐらい飲みに行かないか?」
「ふむ、朝の紅茶か――私も行こう」
正直断られるかと思ったが、意外と乗り気だ。
紅茶が好きなのかもしれないな。
階段を降りてクラン食堂へ向かい。
「おう新メンバーか! 俺は兎獣人のダンダン、料理長だ。よろしくなトリウィア。好き嫌いは早めに教えろよ。あとナウメはもう盗み食いするなよ!」
食堂にいたメンバーたちにトリウィアとナウメを紹介した。
「私は天星スキルの効果で食事は基本取らない、紅茶をもらえると嬉しいな」
「にゃんは甘いものが好きにゃあ」
出されたプリンを味わうように食べる巨大猫形態のナウメに、モモたち猫獣人の女の子が抱きついてうっとりしている。
そういえばナウメには、マタタビ効果というのがあるんだったか。
「大変でござるよ!」
食堂に眞朱が息を切らせて飛び込んでくる。
「どうした眞朱、そんなに慌てて」
「う、うむ、それが……その前に水をくださるか、ダンダン殿」
顔色を見るにそこまで悪い知らせではなさそうだから、答えは急かさない。
水を飲み、呼吸を落ち着かせた眞朱は言う。
「うちが! 『光の意思たち』が線級昇格したでござる!」
するとは思っていたが早いな。
とはいえ六線級への昇格は、事前に眞朱自身が予想していたことだろうに。
「やったね、みんな! これで六線級だよ」
トリウィアの恒久変化魔法によって女性体となった水希は、笑顔で食堂のメンバーたちと喜びを分かち合おうとする。
「ち、違うでござるよ! 六線ではなく! 七線級への昇格でござるッ!」
――何だと?
ざわざわざわざわ。
一段飛びで現存する最高位へ昇格したと、クランマスターが告げたことで食堂が騒々しくなっていく。
「おいおい、スゲーな。いきなり七線級だと?」
ダンダンが強面を緩ませ驚愕する。
「はにゃにゃ! ランマさまのⅨ討伐の成果です! さすがランマさまです!」
モモがマタタビ効果によってトロリとした顔で、俺を見つめながら褒めてくる。
「うむ! 『襲来する始祖炎霊』の再来を未然に防いだことが、非常に高く評価されたでござるよ!」
……それトリウィアの嘘なんだよなぁ。
視線を向ける。銀髪の少女は素知らぬ顔で紅茶を飲んでいる。
しかし冒険者ギルドすら裏付けをとらずに信じるとは、彼方の来訪者の肩書きはやはり絶大だ。
……クラスの奴らも隠れ潜まず表に出ていれば、余裕の王都暮らしができたろうに。
――まあいい、誠実は美徳だがすべてに優先されるわけじゃない。
ルミガ大陸4つめの七線級クランに昇格できた幸運を喜ぼう。
「いやぁまさかそれほど評価されるとはなぁ」
全員の視線を集める俺は頭を掻きながら、参ったなぁという顔で言った。
「1人でⅨを倒せる人なんて、この世にランマさましかいませんよ!」
「私ランマさまと同じクランで幸せです」
マタタビ効果で盛大に酔っ払っている、猫獣人の女の子たちに次々褒められる。
猫耳がトロンと少し下がっている――やっぱ猫耳かわいいなぁ。
「やっぱりランマさまは凄いです! 俺の英雄です!」
素面の犬獣人ガウにも讃えられる。
「……トモカタさまへの当たりの強さで、ランマさまには少し思うところもあるが……。それでも『光の意思たち』最強は間違いなくランマさまだ!」
友方派メンバーの1人がささやくように呟いた後、声を大にして認めてくる。
「紅き聖弓のランマさま! ばんざーい!」
「主さま、ばんにゃーい」
――そしてクラン食堂が俺への称賛で溢れかえっていく。
助けを求めるように視線を巡らせる。
「ふふっ、ばんざーい」
視線が合った水希はニコリと笑った後、その場のノリに合わせる。
「ござる! ここはケチれぬでござる、昇格パーティーをするでござるよ!」
……大丈夫か? クラン資金の管理は眞朱がしている、財政に頭を悩ませるのも眞朱だ。
資金難を考えれば『始祖氷狼』のクリスタルを売るという選択肢もあったか?
いやさすがになしだな、もったいない。
――そして直樹は見当たらず、トリウィアは我関せずで紅茶を飲む。
場を収めてくれる味方はいないか……。
転移後の2年間でかなり慣れたとはいえ、それでも小っ恥ずかしいなぁ。
……こういうところも俺と友方は真逆だったな、あいつは褒められるとどこまでも調子に乗っていった。




