50話:水希温泉ランド
温泉マナーとしては最悪のお湯かけ合戦を終わらせ、大風呂に浸かる。
「にゃふぅ」
白黒髪の少女体となっているナウメは、お湯に肩まで浸かると体をぶるりと震わせ声を漏らす。
ちゃぷちゃぷ。
大風呂を警戒するように手を入れてかき混ぜるトリウィア。
クランメンバーたちもだったが、シャワー文化の人類にとってお湯に浸かるというのは恐ろしさを感じるものらしい。
「大丈夫だって」
浴槽の縁に作られた段差に座り、半身浴をしながら声をかける。
「怯えているわけではないぞ、私は慎重なだけだ!」
……トリウィアが慎重……?
「むっ何だそのジト目は」
「気にするな、勝算なしでⅨに挑む奴が何言ってんだと思っただけだから」
「日常と戦闘の感覚をいっしょくたにするのはオススメしない」
「うん?」
言葉の意味がよくわからない。
「戦いの勇敢さで日常を生きれば、すぐに刺激を感じなくなる。つまり人生に飽きるのだよ」
「……そんなものなのか」
まだ20年も生きていない俺には理解できない感覚だ。
「ふふ、いずれキミにもわかるだろう」
「なぁ最初から俺への距離感が近かったのは、俺が不老ルートに入ってる人間だからか?」
「ふむ? ……あぁ問われるとそうかもしれないな。キミからは不老者が持つ雰囲気を感じていた。俗世から離れていた私がついてきたのも、それゆえだろうな」
……結局理由をつけてクランに加入してきたのも、寂しかったからなのだろう。
「さて――いくぞ!」
浴槽の縁に片手をつきながら体に巻くタオルを投げ捨て、勢いよく大浴槽に飛びこむトリウィア。
じゃぶーん。
「ゆっくり浸かれ!」
「ははは、川とはまるで違うな、暖かい! ――――ほぅこれはいいな」
銀髪の少女は肩まで温泉に浸かりながら、感嘆する。
「だろう!」
俺が作ったわけではないが、日本人として温泉を褒められると悪い気がしない。
「あぁ、これを商売にして大陸各地に展開すれば、非戦闘員の仕事とクランの収入源になるのではないか?」
それは俺たちも考えなかったわけではない案だが。
「これなぁ。作った水希ですら、よくわからないパーツが使われているから量産が厳しいんだよ」
水希の『物拾い』は無から生みだしているわけではなく。
『水希温泉ランド』の中核をなす、地下のお湯を地上に転送させるパーツはひとつしか拾えていない。
「しかしいま『始祖氷狼』の物理法則干渉で大陸気温が少し下がったのだ、温泉に追い風が吹いているぞ!」
……その風に乗ったらマッチポンプじゃねぇか?
「……だが『光の意思たち』は基本金欠。温泉を商業展開して稼げるならいいことだな。後で地下からお湯を転送させる謎のパーツを見てくれ、似たようなの作れそうなら頼む」
「任せたまえ」
自信たっぷりで頼りになるな――。
「にゃふふ――トリにゃーん!」
「ひゃっうん!?」
トリウィアの背後にゆっくり近づいていたナウメが、襲いかかるように抱きつく。
彼女は心底驚いたのか、少女らしい悲鳴を上げる。
アニマクラスⅧにいっさい気取られない不意打ち。さすがナウメ。
そして洗いっこのときと同じく浴槽内でバチャバチャする2人。
温泉マナーが行方不明となっているが、野暮は言うまい。
「――ナウメ君、せっかくだから猫形態になってもらえないか。温泉で巨大猫をモフモフしてみたい」
えっ俺もしたい。
「おっけーにゃん」
猫耳なしの完全なる人型から、白黒の巨大猫に変化していくナウメ。
ざぶーん。質量が増したことでお湯が一気に溢れる。
使用された温泉水は水属性魔法で浄化され、クラン農園用に使われるエコ設計。
「ふふ――ベチョベチョだなぁ」
巨大猫化してお座り状態で温泉に浸かるナウメに抱きつきながら、トリウィアは楽しそうに言う。
「俺もベチョベチョするー!」
「にゃうん」
半身浴を止めて突撃、ナウメに抱きつく。
あぁ毛がお湯を吸いこんでモフモフ感がまるでない。ベチョベチョだぁ!
だがお湯に浸かっていないナウメの上半身に頬ずりするとモフモフ。
人体よりデカい巨大猫だからこそ味わえる新感覚。
「にゃんか、モテモテにゃーん」
俺とトリウィアに挟まれるように抱きつかれるナウメは、まんざらでもなさそうな声で鳴く。




