4話:リーダー決め
ひとしきり笑った後、物集といっしょに走って毒島を追いかけ合流。
「笑って悪かったな毒島」
「ごめんね、毒島君」
「……拙者もすまなかったでござる。思い返せば物集殿に無礼でござった」
毒島と和解、その後3人でしばらく歩いて行くと――。
立ち止まっている小鎗と友方が見えてきた。
「よー小鎗」
あまり関わり合いになりたくない友方はスルーして、小鎗に話しかける。
「来たか猫島」
つーかわざわざ友方追いかけるとか、面倒見がよすぎるんだよなこいつ。
「追放枠で災難だったな。お前スキルは外れでもかなり役に立ってたのにな」
「ま、仕方ないだろ。それにどの道1人でも理不尽に追放されたなら俺は抜けたぜ」
「ひゅー。さっすが本物のイケメンは違うね」
「人として当然だろ」
小鎗はさらりと言うが、それをできる奴はどれだけ少ないことか。
軽く来た道を振り返る。
外れスキルのみで追放された俺たちを助けるために追いかけてくる、当たりスキルを持ったクラスメイトは1人もいない。それが現実だ。
「はいはい、イケメンカッコいい。――でこれからどうするよ?」
「安全の確保。食料と水の確保。5人をまとめるリーダーの決定。どうだ?」
妥当だな、俺は頷き同意を示す。
だが問題はリーダーを決めたとしても、間違いなく輪を乱す奴がいることだ。
毒島は髪型と口調はヤバいが、性格はそこまで悪い奴じゃない。
この1ヶ月、拠点班として与えられた仕事は黙々とこなしていた。
問題は友方だ。
月島もこいつを追放するために、プランAを木村へと持ちかけたに違いない。
友方は自分に与えられた仕事を平気で投げ出して、結果周りの誰かがするハメになっていた。
そんなことは小鎗も承知している。そもそも、代わりにしていたのは大半小鎗だ。
それでも友方を見捨てずに追いかけた。本気で誰も切り捨てる気はないのだろう。
……物集も毒島もなぜか黙って、俺に対応を任せるように少し後ろに引いている。
「――食料はひとつ見つけたぞ。リーダーは投票で決めよう。俺は小鎗を推す」
友方が黙っていじけてるうちに、俺と小鎗で話を進めるしかないか。
「食料があったのか!?」
「あぁ――そこらに落ちているこの葉っぱだ。凄まじい苦さでマズいが食料になるはずだ」
葉っぱを拾って小鎗に渡しながら、物集のスキルを鑑定に利用した経緯を伝えた。
「そんな風にスキルを解釈できたのか、凄いな猫島。――ッあぁこれは苦いな……」
答えながら、葉っぱを口に運んだ小鎗は少し眉をしかめる。
だが吐き出すことなく飲みこんだ。毒島ほどじゃないが苦味に強い。
「私は猫島君リーダーがいいと思うよ。外れスキルの利用方法を見つけた閃き。それにあの月島君も猫島君を認めている節があったから」
物集が俺を推してくる。だが俺は向いていないだろう。
月島と同じだ、友方を切り捨てる方向でしか考えられない……。
そして、それをすれば小鎗と決裂してしまう。
「拙者は小鎗殿を推すでござる。猫島殿は人の心がわからぬお方でござる」
俺に対して、ツンとした態度で宣言する毒島。
和解はしたが、やはりまだ自慢の髪型を大笑いされたことがショックなのだろう。
とてもわかりやすい。
「ちなみに俺は猫島リーダーがいいと思っている。俺より機転が利くし臨機応変に動ける奴だ」
まさか小鎗から推されるとは。何か俺の評価高くない?
地球では平凡な高校生。転移後は超絶外れスキルで拠点の雑用係だったんだけど。
……しかしこれで2:2か。
そして友方は間違いなく小鎗を推すだろう。
自分がリーダーになれない以上。友方にとって1番都合がいいのは小鎗だからな。
「うーん。これじゃ僕がリーダーになれないね。僕じゃダメなの?」
いじけていても会話はしっかり聞いていたのだろう、友方が沈黙を破る。
と同時に俺の予想を上回る自己中発言、こいつがリーダーになったら俺は抜ける。
「投票だ。民主的だろ」
相手にするのも億劫、ぶっきらぼうに言い放つ。
「そっかぁ。何で僕じゃダメなの?」
うざい。
「友方君に票が入らなかったからだよ」
整った綺麗な顔を少し歪めて物集が答える。
「うーん。みんな何で僕に票を入れなかったの?」
「それを問うのは、マナー違反でござるよ」
「まっしゅには聞いてないんだけど? その髪で何がマナーだよ、馬鹿でしょ?」
友方は毒島を格下に見ているようで、反論されたのが気に食わないのか声を荒げ罵倒する。
「みんな落ち着け。拓也は投票制そのものに反対なのか?」
「え、別に僕は直樹がリーダーでいいよ」
小鎗相手には態度を大きく変える友方。うざすぎる……。
「それなら、これで過半数。俺がリーダーでいいか、猫島?」
「俺はお前を推したんだ、何も文句ない」
「わかった。なら食料と水。魔物対策に話を移そう」
「葉っぱ、俺は何とか食えるが。物集はかなり無理していたぞ」
「大丈夫。私もほかにないなら頑張って食べるよ」
「この苦味が、たまらぬ美味でござるのに……」
落ちていた葉っぱを拾って、もしゃもしゃ食べながら発言する毒島。
それを見ていた友方は拾った葉っぱを1枚、恐る恐る口に入れる。
「ううぇええええ、ぺっぺぺっ、無理無理無理無理無理。こんなの人間が食べる物じゃないよ。ありえない、マズすぎる」
即座に吐き出す友方。
……少しは我慢しろといいたいが、味覚に文句をつけるのはさすがにアレだな。
「……別の食料も見つけたいところだな。物集葉っぱ以外の食料は拾えないか?」
「何度か歩きながら試したけど、食料を願ってもその葉っぱしか拾えなかったよ」
「飲める水はどうだ?」
「濁った泥水を拾えたけど……こぼれちゃったよ」
私の手小さいからと、ヒラヒラ見せる物集。
「だがその条件で拾えたということは、飲める水と解釈できるわけか。拾った直後に何か容器になる物に移せばよさそうだな」
「容器が見つからなくても、両手ですくうように拾ってもらって、物集の手のひらから直接飲ませてもらう手段もあるはずだ」
小鎗の案を補足しておく。
「えーばっちぃよ……物集の手、綺麗じゃないでしょ」
物集の整った顔が一瞬引き攣った。
「理想には遠いが、最低限の確保はできそうだな。悪いな物集負担をかける」
友方をスルーして話を進める小鎗。
「これまで期待に応えられない役立たずスキルって、言われてつらかったから。私に役立てることがあるなら嬉しいよ。猫島君ありがとう!」
物集に笑顔でお礼を言われる。照れくさい。
「猫島、ほかのスキルはどうだ、何かいい使い道は思いつかないか?」
「悪いな……『物拾い』は偶然の閃きだ」
肩をすくめて答える。
「そうか。何か閃いたら気軽に教えてくれ」
頷いておく。だが期待はしないでくれよ。
「それじゃ差し迫った1番の問題について話そうか。この異世界が俺たちに過酷すぎる最大の理由、魔物についてだ」
これが地球での森サバイバルなら、たとえ女神から与えられたスキルなしでも。
月島と小鎗が組めばクラス全員で生還することも現実的だったと思う。
「そうなんだよな、魔物さえいなければなぁ」
戦闘系の当たりスキルなしでは、解決方法がまるで見えない。ぼやくしかない。
「ござるぅ。皆が殺伐するのも仕方ないでござろうな」
「優先度を決めようよ。僕1番ね」
「魔物に攻撃する順番? すごーい勇敢なんだね。友方君」
感心するように物集が言う。
「ちちちが。違う! 違う! 違うよ! 命の優先順位だ! 何で僕が特攻するって話になるんだよ! 馬鹿! 頭まで女になったのか馬鹿! 馬鹿!」
発狂したように大きな声で否定する友方。ナチュラルに女へ喧嘩を売っている。
そもそもお前の発言の意図は全員理解しているだろう。
そのうえで物集は皮肉を言ったんだぞ? 分かれよ友方。