48話:水希の最大功績
銭湯を知らないトリウィアを連れて、クラン拠点北へと移動していく。
最初はひとつしかなかった大浴場だが、混浴は風紀が乱れると追加されて男湯と女湯に分かれ。
彼方の来訪者が使っていると、一般メンバーが遠慮してしまうため、奥に彼方の来訪者湯も追加、現在3つの大浴場が存在する。
大銭湯には戦闘ができないメンバーを職員として配属しており。
「あら、ランマさま。珍しいポン」
入り口で番台を務めるメンバー、狸獣人のチャマに声をかけられる。
「ああ、ちょっと特殊な仲間が増えたから案内だよ」
横のトリウィアを手で示す。
「あら人間の仲間は久しぶりポンね」
「私はトリウィア、よろしく頼む」
「私はチャマぽん。ここで働かせてもらってるぽん、ゆっくり浸かっていくぽん」
「トリウィアは特殊な立場、高位の選ばれし祝福者だから奥を使うぞ」
「わかりました、ごゆっくりどうぞぽん」
温泉に入りに来た仲間たちに、挨拶を返しながら奥への通路を進む。
さすがに一般メンバーに1人ずつ紹介していくのはキリがないため、俺の後ろをついてくるトリウィアに関しては触れないでおく。
まとめ役以外には、ある程度メンバーが集まっているタイミングで紹介しよう。
「風呂場の近くに木造の通路か、あまり見ない作りだな」
歩きながら興味深そうに周囲を観察してトリウィアは言う。
「まあ湿気とカビ問題があるしなぁ」
それでも木造で作ったのは……水希の郷愁だろう。
「あぁ解決できていないのか。すぐには無理だが、いずれ私が対策『固有魔導具』を作ろう」
「それは助かる、チャマたちも掃除が楽になる――」
――あまり楽になりすぎるのも問題か?
非戦闘員のメンバーは、クラン拠点管理が主な仕事。
暇すぎると、役に立てていないとして自分を責めるメンバーもいるだろう。
「トリウィア、大浴場はかなり大変そうだから助かるけど、あまりクラン拠点の自動化はしないでくれ。非戦闘員の仕事をなくしたくない」
「……誰にでも何かしらの役目が必要になるか。わかった、過剰なお節介はやめておこう」
「悪いな――さてこれがうちの温泉だ! 見ろ!」
地球と2文字の漢字が書かれた暖簾を潜って脱衣所に入り、大浴場への扉を開くともわっとした湯気が顔に当たる。
「ほう、ずいぶん広いな――これは意味があるのか?」
覗き込むように大浴場を見渡した後真顔で尋ねられる。
合理的な意味はないかもしれないが……。
「温泉は――風情だ。合理性を求めるなら部屋の風呂場でいいだろ?」
「たしかに『量産魔導具湯水蛇』とはまるで違うな」
あのガジェットはシャワーみたいなものだしなぁ。
広く熱いお湯にゆったり浸かる文化は、少なくともルミガ大陸にはない。
クランメンバーたちも最初は大風呂に浸かることを怯えていた。
だがいまでは部屋の風呂場は利用者激減! ほとんどのメンバーがこちらを利用している。
「そう! こここそが『光の意思たち』における、水希の最大功績とされる、『水希温泉ランド』だ!」
3つの大浴場を中心にリラクゼーションも完備!
健全なマッサージ! ドリンクサービス! 卓球! 仮眠所。
この世界に福祉の考えなどほぼ皆無で、拠点にこんな施設があるのはうちだけだ。
他クランの冒険者が見れば、彼方の来訪者は余裕があって羨ましいと思われても不思議じゃない。
「まぁ温泉のよさってのは体験しないとわかりにくいものだから! とりあえず入ってみろって! 俺は出てるからさ!」
トリウィアとともに1度脱衣所に戻り扉を閉めた後に言った。
「待て、私は温泉の作法を知らない。この広さ複数人の利用を前提にしているのだろう? いっしょに入ろうじゃないか」
「安心しろ、難しい作法はない。みんなの迷惑にならないよう利用しましょうぐらいだ」
「ふーむ、しかしこの広さでひとりぼっちは寂しいじゃないか。何なら私は道中の女湯を利用しよう」
あまり望ましいとはいえない、うちは男女ともにメンバーの大半は亜人。
もと奴隷の人間メンバーは少なく、その事情を亜人たちもわかっているため。
ルミガ人側ではなく、もと奴隷の仲間として見てくれているので友好的だが、トリウィアはどうだ?
もと奴隷でも彼方の来訪者でもない現地人。
こいつは亜人相手でも余裕で接することができるだろうが、メンバーの方はいきなり仲良くするのは難しいだろう。
「……わかったよ。俺がいっしょに入ってやるから、いまは向こうにいくな。向こうのメンバーとは、もう少し時間をかけてわかりあった方がいい」
チャマ、ダンダン、ガウ、モモのようにルミガ人にも友好的に接することができる亜人メンバーは全体の3割ぐらい、経緯を考えれば多い方だろうが……。
「ははは! では入ろう!」
とくに脱衣所の使い方は説明していないが、ぱっと見理解したらしく。
棚に乗せているかごのひとつに、躊躇なく脱いだ服を入れていくトリウィア。
「ひとつ温泉作法を教えてやる! タオルを巻いて体を隠すんだ、ただしお湯には浸けるな、髪もな!」
備え付けの大きめのタオルを渡しながら伝える。
「作法あるじゃないか」
肩をすくめて言われるが、1人で入るなら言うつもりはなかった!
「もうひとつ作法を教えてやる! 他人が服を脱ぐところをジロジロ見るな!」
俺も服を脱ごうとしたが、裸にタオルを巻いたトリウィアが隣から赤眼で、じーっと見てきて気になってしまう。
「無作法をする気はない。ただキミの体つきが気になっただけだ」
「それが無作法ッ! 温泉では他人の体をジロジロ見ちゃいけません」
テンパってちょっと言葉遣いがおかしくなる。
やっぱ女湯に向かわせなくて正解だ。
亜人の女性は、体にコンプレックスある子が多いからな。
これは男女で明確に違い、男はむしろ角、牙、爪、毛皮、尻尾を自慢にしている。
「思ったより鍛えられていないな。アニマ補正と天星スキルに頼りすぎていないかい?」
「うるさいッ! 評価するな! 入るぞ温泉に!」
服をばばっと全部脱ぎ去りかごに放り込んだ俺は、タオルを腰に巻いて先導するように温泉への扉を開く。




